ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
89       新日鉄防食配水管品質事故
           −早速試される有効性審査の本気度
 <62-01-89>
  9月6日の日本経済新聞*1は、新日鉄が配水管用鋼管の亜鉛めっき付着量が大半の製品で契約を1/3程度、最大5割も少ない製品を出荷していたことが判明し、同社が8月25日から出荷を停止していると報じた。新日鉄は9月1日付けでウェブサイト*2に「弊社製品の品質上の不備について」との標題で、「めっき加工及びその検査方法に不適切な取扱いがあったことにより、めっき付着量の不足しているものがあることが判明した」と発表している。
 
  新聞では対象製品は、工業用水の配管やビル、マンションの水道管に使用される3種類の防食配管であり、月間600tを生産していた。記事にもあるように、亜鉛めっき付着量は耐食性能そのものに関係するから、出荷された配管は発注者が契約した鋼管に想定していた速度以上に速く腐食し、漏水や水道水への錆混入が発生し、亜鉛めっき付着量の不足分だけ配管寿命が短くなる。H20年5月に露顕した同社子会社でのステンレス鋼管の水圧試験省略事件は、製品の品質という点では問題のない形式上の不備であったが、この度の問題は明確な品質不良品の出荷であり、これを受取った顧客にはほぼ確実に実害が生じる。売値が亜鉛めっき付着量に比例して設定されている状況では、高価な高級品の注文に安価な低級品を出荷したことになり、同社にはこれにより不当な利益がもたらされたことになる。世界に冠たるべき新日鉄として凡そ信じられない失態である。
 
  問題を起こした君津製鉄所はISO9001登録取得事業所であるから、認証制度の信頼性の毀損に係わる問題でもある。JABの認証制度運営においては、基本的に登録証は不祥事の防止の保証ではないとする考えであるから、このような場合は認証機関が調査して見出した不適合の是正処置を組織に課し、再発防止が確実になるまで登録証の効力を停止すればよい。当該の認証機関である日本検査キューエイ社(JICQA)は、「製品品質データの不適切な取り扱いが行なわれていると連絡を受けたので、早急に事実関係を調査し、適切な処置を取ることとします」との「お知らせ」をウェブサイトに掲載している*3。
 
  しかし、JABは登録取得組織の相次ぐ不祥事で低下した登録証への社会の信頼性を回復する対策として、認証機関が「有効性審査」を徹底するべきことを、昨年8月に決めた*4。その上で今年7月からは「有効性審査」を行なっている組織であることを「市場に対して明確にする」ために、JAB認定の認証機関の発行する登録証にJABマークの添付を原則化することにした*5。JABの認定を受けずに日本で活動する認証機関の登録証は「有効性審査」の結果でないので、信頼性に劣ると言いたいのである。それなら、本件品質事故に対しては、JICQAによる「事実関係の調査と適切な処置」は、従来のように不祥事発生は登録証と無関係という一律の前提での対応ではなく、「有効性審査」との関係を明らかにした調査であり、対応でなければならない。
 
  JABによると、システムの有効性とは「構築された仕組みによって期待される結果を出すことができる状態にある」かどうかであり、この判定を行なうために「マネジメントシステムの適合性の評価では、マネジメントシステムの有効性を確認しなければならない」ということである*6。そして「期待される結果」が何であるかを直接的に表現していないが、信頼性回復の国際的取組みの成果物のひとつであるISO/IAF共同声明「認証に対して期待される成果」を和訳してウェブサイトに掲載している*7から、これがJABの考えでもあると思われる。これによると顧客や社会が組織の登録証に期待できることは、「組織が顧客のニーズと期待及び法規制を満たす製品を一貫して供給し、顧客満足の向上を目指していること」であり、しかし、これは「組織が常に100%の製品適合性を実現することの保証」を意味するものではないと言うことである。これは平たく言えば、登録取得組織は不良品を出さないことを確実にするよう手順を定め、手順の通りに効果的に業務を行なっているから、単発的な些細な不良品を出すことはあっても、顧客に深刻な損害をもたらすような不良品や、大量に或いは続けざまに又は常態的に不良品を出すようなことはあり得ないということである。
 
  報道によると本件品質事故は単発的な、偶発的な品質不良ではない。加工と検査の手順が正しくなく設定されていたか、正しい手順が明確な意図でその通り実行されなかったかのどちらかである可能性が強く、そのような業務実態が見つかるまでの一定期間続いていたと推察される。これは正しくJAB定義のシステムの有効性の「期待される結果を出すことができる状態」ではなかったということである。この判定を行なうのが「有効性審査」であるから、JICQAは「有効性審査」を徹底していなかったと疑われる。JICQAの調査では、この製品の品質保証で最も重要な「めっき加工と検査方法」をどのように審査して、どのような客観的証拠で「マネジメントシステムの有効性」を判断したのかを明確にすることが必要である。そして、組織に巧妙に隠蔽されたから、又は、そもそも決められた審査工数では見つけることのできない不適合であったなど、結果的にシステムの有効性の判断を誤った理由を解明しなければならない。これに対する認証審査上の是正処置をとることによって、認証機関はこのような判断ミスの再発を防止することができる。効果的な有効性審査が一日にして確立するものではない。審査の環境も変化する。有効でなかった有効性審査の原因を究明し再発防止を確実に積み上げることにより、有効性審査の「計画した結果が達成される」という有効性*8が改善される。これがISO9001の継続的改善の論理である。
 
  日本では認証機関は、顧客の顧客、つまり、消費者や社会のために審査しているのだと主張している。そして、この消費者や社会の期待に応えるために有効性審査を徹底するのだと言っている。これが単なるお題目かどうか、また、JABマークのある登録証は本当にそれがない非JAB認証機関の登録証より信頼性が高いのかどうかは、本件品質事故に対するJICQAとJABの対応で明確になる。
 
*1: 日本経済新聞、H22.9.6、「亜鉛量、契約満たさず−新日本が生産停止」
*2: 新日本製鉄、ウェブサイト、2010/09/01、「弊社製品の品質上の不備について」
*3: 日本検査キューエイ、ウェブサイト、2010.09.02、「新日本製鉄株式会社君津製鉄所における製品品質データの不適切な取り扱いについて」
*4: JAB、ウェブサイト、2009.8.18、「マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保に向けたアクションプランの公表」
*5: JAB、ウェブサイト、2010.7.13、「認証文書への国内認定機関シンボル添付について」
*6: MS信頼性ガイドライン対応委員会報告書、2009.8
*7: JAB、ウェブサイト、2009.8.21、「認証に対して期待される成果に係わるIAFとISOによる共同コミュニケの発表について」
*8: ISO9000、3.2.14、「有効性」 
H22.9.8 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所