ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
91       ISO9004 についての勘違い
           −ありがたいお教え ? −
 <62-01-91>
1.ISO9004/JISQ9004 セミナー
  JISQ9004セミナーが花盛りである。JISQ9004(組織の持続的成功のための運営管理−品質マネジメント アプローチ)とは、ISO9001の2008年改定と合わせて改定され発行されたISO9004の2009年版を翻訳したJIS規格である。コンサルティング会社の無料セミナーもあるが、各研修機関がこぞって有料コースを設けている。旧版はISO9001と合わせて“整合性のとれた一対の規格”であったが、改定により別個の独立した規格となったため、ISO9001とは別の解説の需要を世間に喚起できる可能性がある。ならば業界には、薄れゆくISOマネジメント システム規格への世間の関心を呼び覚まし、収入を増やす格好の機会である。こんな中、日本規格協会主催のJISQ9004規格説明会&ワークショップ(名古屋会場)という案内状を見た。案内状には、説明会は参加者が規格の意図や活用方法を理解するためであり、改正作業に係わった国内委員会の委員を「お招きして」参加者に「説明する」ということになっている。受講料は約9,000円とある。こんなことが起きるのは、業界も世間もISO国際規格というものに対する勘違いがあるに違いない。
 
2.規格とは
  規格の「規」には掟や定め、「格」には則や決まりという意味があり、規格すなわち服すべきものという感覚にとらわれがちである。しかし、英語では標準(standard)であり、ISOも国際標準化機構と和訳されている。JIS規格の元締めである日本工業標準調査会は「自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化する事柄を少数化、単純化、秩序化すること」が標準化の目的であると説明している。あることをこのように決めた、これを標準と認めようというのは、複雑多様で困っていた特定分野、領域の関係者達の、いわば仲間内の合意であり、一般の世間に強制するものではない。ISOは各国政府や国際機関に認められた機関ではあるが、民間機関である。ISOでないと国際標準を決めてはならないという国際的取り決めもない。ISOが国際標準と称しても、所詮はそれを必要とする特定分野、領域の関係者の私的な合意に過ぎない。実際ISOは、その作成する規格を「合意によって作成され、関係機関により承認された文書」と定義し、「規格書はそれ自身が誰かに従うことを何ら強制するものではない」と説明している*2。特定の関係者の合意たる規格書の使用を世界に強制する意図がISOにないのは明白であり、規格とは本質的にそのようなものである。
 
3.ISO規格とは
  ISOは国際規格(International Standard)と称して数万件もの事項に関して国際標準を定め、それぞれの規格書に文書化している。しかし、規格の使用は強制ではないから、世界の人々が有益と感じた場合のみ、利用される。利用が国際的に拡がった場合に初めて事実上、ISOの主張の通りに国際規格となる。ISOはこれを「規格は、例えば立法化されたり、契約によって強制力をもつことがある」と表現している。例えば、電球の仕様を決めたISO規格があるとして、世界の製造会社がその仕様に従って電球を製造し、或いは、世界の家庭でその電球しか使用しなくなってはじめて、その仕様が事実上の国際標準となる。何人もこの国際規格を遵守しなければ、この地球上では電球製造事業を行うことができないからである。ISO9001の品質保証に関する経営管理の在り方の規定も、TC176の委員の知識、経験、論理の集大成であり、委員の合意によって作成され、ISO加盟各国機関により承認されたという仲間内の私的な文書に過ぎない。しかし、これを使用する認証制度が国際的に運用され、認証制度を利用する企業が世界に拡がった結果で、ISO9001の内容が事実上、国際標準となったのである。TC176は、ISO9000,9001,9004のいわゆるISO9000ファミリーの他にも、苦情対応、顧客満足の監視測定、文書化、計測管理、統計的手法など品質マネジメントに関連する合計15件の規格を作成しているが、その存在さえほとんど知られておらず、ISOの自称国際標準に留まっているのが現実である。新ISO9004がISOの意図するように国際規格となるかどうかは、世界でその内容の有用性が認められて、その使用者が世界的に現れるかどうかによる。今はISOが世界にISO004の有用性を認めてもらうよう活動をする時期であり、さもなくば他のISO9001関連規格と同じ埋もれた国際標準候補文書となる運命をたどることになる。
 
4.売り物としての書籍
  ISOはその定めた規格に著作権を主張しており、日本では日本規格協会しか規格書を発行し、販売することができない。同協会はISO規格を翻訳して国家規格としたJIS規格にも著作権を主張しており、何人も規格書の内容を印刷して発売できないし、複製は個人の私的使用のために限られ、自身の著作物への引用も補助的な意味合いの場合しか許されない。ただし、特許権の主張ではないから、誰でも無償で自由に中身を利用することができる。例えば、企業が、ISO規格の仕様の電球を製造販売することは自由であり、品質方針、品質目標を定めて効果的、効率的に改善を進めるという手法を取り入れ、実践することにISOや規格協会の許可はいらないし、対価を支払う必要はない。ISO規格という知的産物は規格書として文書化される。この規格書は著作権で保護される著作物であり、ISOが著作者であり、規格協会は印刷、販売権を許諾された著作物の出版社である。ISO規格書は商品であり、売り物である。この意味で本屋の書架に並ぶ様々な書籍と同じである。著者が特定の出版社に独占的な印刷、販売権を付与した結果の書籍が本屋で売られ、他の出版社や個人が勝手に印刷したり複製したりすることはできない。
 
  著者にも出版社にも読者に書籍を買わせる強制力はなく、一般に法律書のように関係者に買うのを強制する仕掛けもない。書籍が売れるかどうかは、内容が読者に有益であるかどうかによる。売れるかどうかが出版社の命綱であり、著者の収入でもあり、自身の考えを世間に認めてもらえるかどうかの生きがいがかかっている。新ISO9004は標題によると、継続企業としての企業の経営管理の在り方に関する国際標準として作成されたようだ。世界には企業の経営管理の在り方を研究する大勢の人々がおり、日常的に議論され、研究成果や主張が学術誌や商業誌に発表され、経営管理の理論や実用的な手法や企業の体験に関する書籍も数えきれない。様々な考え方をひとつに標準化するのが規格であるが、新ISO9004の作成に世界の研究者や経営者が動員された形跡はないから、規格の「組織の持続的成功のための運営管理−品質マネジメント アプローチ」なる中身は、他のISO規格と同様、ISO/TC176の委員の私的な考えに過ぎない。新ISO9004規格書は、本屋の書架に溢れる多数の経営管理に関する書籍と同列の著作物であり、そのどれが売れるのかはどれが読者にとって有益であるかによる。規格書が売れるかどうかは、出版社としての日本規格協会の命綱であり、著者の一員の国内委員会の委員には収入はいざ知らず、自身の主張が世間に認められるかどうかの著作者生命がかかっている。
 
5.新書発表会
  特に売りたい、売れると思われる書籍は出版社が新書発表会を催し、著者が講演し、買ってもらった書籍にサインして愛嬌を振りまく。講演と言っても買ってもらうための書籍の魅力を訴えるものであって、読んだだけではわからないから解説するというようなことではない。当然、この催しに読者から参加料などとらない。案内状のJISQ9004規格説明会は出版社である規格協会が行うJISQ9004規格書の販売促進活動であり、趣旨からは新書発表会である。それが、書籍代金の何倍もの参加料を徴収し、読者が買った書籍の内容を理解するために著者を「お招きして」、出版社が読者に「説明する」というのだから、これは異様である。書籍を売って、更に有料講習会を受講させるという図式が存在しない訳ではない。まず テキストを購入し、この説明のための講習会を参加料を支払って受けるという、公的資格の取得の道筋である。テキストだけではわからないから講習を受けさせるのであろうが、そんなお粗末なテキストでも売れるのは、買わないと資格取得できないからだ。国際規格を作れば人々が規格書を買ってこれを使用するのは当然であり、規格書を読んでも難しすぎて理解できないだろうから有料講習会にしても人が集まってくる。あるいは、著者にはISO9004/JISQ9004という無条件でありがたいものを作っていただいたので、人々には書籍を購入して更にお金を払えば希有なことながら著者からの説明を受ける機会に参加できる。こんな案内状と読める。実際に参加者がいるからこれが成り立つのであろうが、JISQ9004規格説明会の主催者も参加者も、ISO規格というものを勘違いしている。
 
 
*1: ISO/IEC Directive Part2, 2004
H23.1.29 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所