ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
92       経営の役に立ってないISO内部監査  <62-01-92>
1. 煤塵測定の虚偽記録 
  JX日鉱日石エネルギー(株)の水島精油所で30年間にもわたり、法で定められた煤塵測定をしないで測定したかに装った値を記録として残していたという不祥事が2/17に報じられた。環境分析業務の外注化の検討の過程で発見されたということだから、会社として意図的な行為ではなく、社長としてはなぜこんなことがという想いなのであろう。このような場合一般に、日本では管理者教育や従業員を含めた法令順守教育を改めて行わなければならないとなり、欧米では内部監査を強化しなければならないということになる。高度経済成長の基となったいわゆる日本的経営では管理者だけではなく一般社員までが平等であり、みんなが組織のために尽くすものとする信頼感の中で業務が行われてきたのに対して、欧米では組織経営にも階級社会に根ざす支配と服従の文化が色濃く反映されていたからである。
 
2. 内部監査の意義
  監査の歴史はローマ帝国時代に遡るという説があり*1、これによると監査は権力者が特に目の届かない遠隔地での部下の行動を監視することが目的であった。ISO9001が西洋文化の押しつけという考えには賛成できないが、規格に内部監査の必要が規定されていることが西洋文明に関係していると言われれば同感である。日本的経営では内部監査なしに顧客満足の効果的な追求が出来ないとは思えない。但し、近代監査論では監査は猜疑心が動機ではなく、信頼すれども検証すべしが監査の本質であるとされる。経営者は、内部監査の報告によって、業務を任せた管理者や一般社員が期待通りにきちっとやってくれているということを確認して信頼感を高め、同時に、必要な業務がきちんと実行される上での問題点を把握することができる。管理者や一般社員は経営者の信頼を感じることにより、一層その期待に応えんと努力し、内部監査ではそのことを積極的に明らかにしようとする。
 
  日本内部監査協会の定義によると、内部監査は内部監査員が経営目標の達成の可否の観点から業務の遂行状況を検討評価して、経営者に意見を述べ、助言や勧告を行う活動であり*3、内部監査は経営者の経営管理を助けるために従業員によって行われることが特徴である*4。経営目標とは、事業の維持発展のためにこれを達成することが必要という組織の業務結果のことである。経営目標が達成できるかどうかということは、実務では経営目標に反することが起きないかどうかであることも多い。内部監査を行ってこのような観点から万一問題が見つかれば、それが顕在化したり、深刻化する前に正すことができるから、組織は経営目標の未達や経営目標に反することを起こさずに済み、起きた場合に被ったはずの事業上の損失を防ぐことができる。これは同時に、善意の管理者や一般社員が、たまたま犯した意図しない不作為や過誤のために会社に損害を与えて経営者の信頼を失い、また、自責の念にかられたり、職業人としての恥をかくことを防ぐことにもなる。
 
3. 繰り返された経営に役立たないISO14001内部監査
  この精油所はISO14001認証取得しているから、もう何度も内部監査をやってきたはずである。ISO14001の内部監査で達成可否を判断すべき経営目標とは、環境方針や目標に表された環境影響の管理の目標である。内部監査員は、関連する業務の手順と実行状況の規格要求事項への適合性を評価することを通じて、方針や目標の通りの水準に環境影響を維持、改善できるのかどうか、あるいは、方針や目標に反する水準の環境影響を出してしまうようなことはないかどうかを判断する。立地や業種から判断して、この精油所では公害型の環境影響である大気や水質の汚染が最も深刻な環境影響、つまり、著しい環境影響であるはずだから、煤塵排出の低減や管理は環境方針や目標に採り上げられた経営目標でなければならない。記事には大気汚染防止法や福山市との公害防止協定への違反と書かかれているから、煤塵の管理は法遵守の点からも、逸脱を許されない経営目標であったはずである。
 
  この度の問題露顕によって同精油所と責任者は法による制裁を受け、今後の県や市の監視が強化され、更には、地域住民や消費者からの評価も大きく低下し、エコを訴えるコマーシャルのための出費も無駄となってしまった。内部監査を行う目的からすると、逸脱するとこんなにも大きな損失を招くような経営目標の達成の可能性をどのように検討、評価して、経営者に大丈夫と報告してきたのかということが問われなければならない。認証審査には不祥事防止の役割は含まれていないというのが、日本の認証機関の主張であるから論外である。しかし、内部監査は、環境影響の管理に関する業務の実行と結果の問題点である、不適合を探し、不適合を正すことを目的に行っているということに異存を挟む人はいないのではないだろうか。それであれば、法に規定される煤塵測定を行っていないという重大な業務実行の不適合を発見出来ずに、どんな不適合を見つけてきたのかということになる。この不適合を見つけなかった内部監査が意味のないものであったということは、内部監査の目的に経営目標の達成の可否の判断、或いは、経営目標を逸脱する不祥事の発生の防止が含まれるかどうかという議論以前の問題である。正に経営の役に立たない内部監査が毎年繰り返されてきたのである。
 
  但しこれは内部監査員に責めを負わす問題ではない。日本のISO9001やISO14001の内部監査では経営者はこのよう内部監査を期待していないからである。ほとんどの経営者は内部監査やその結果には関心をもっていない。大半の組織では認証審査で要求されているから内部監査なるものをやっているのであり、認証審査で合格する内部監査であればよいのである。実際、内部監査では、経営目標の達成可否の判断である監査結論抜きで、個別の規格要求事項への不適合の摘発とどれに是正処置を要求するかということだけに終始し、それが経営者に報告されている。これは、事実上審査員が求める内部監査でもあり、中身は認証審査をそのまま真似たものである。不祥事の種になる不適合を検出できないという認証審査を真似た内部監査であるから、この精油所の不祥事も内部監査では防ぐことはできない。この不祥事の露顕に至るまでもなく、今日のISOの内部監査は経営に役立つ内部監査ではないのである。
 
4. 経営に役立つ内部監査に 
  西洋文明だから日本には必要ではないとしても、折角の手間隙かけて行うのであるから、経営者を助け、経営に役立つ内部監査であるにこしたことはない。すなわち、ISO9001、14001の内部監査は、顧客満足の追求又は環境管理に関する経営目標を逸脱して組織の事業が痛手を被ることにならないようにするという一点に焦点を定めて行うべきである。このような内部監査こそが、規格の意図の内部監査であり、組織の利益になり、経営者が喜び、内部監査員自身も意味のある重要なことをやっているという喜びを実感できる。審査員は喜ばないかもしれないが、経営に役立つ内部監査を不適合だと言う根拠を示すことの出来る審査員は居まい。
 
 
*1: TC176/TC207共同チーム共同事務局長: ISO公報、2002.12月号
*2: 友杉 芳正: 監査、名大経済学研究科公式ページ、2003.7.15
*3: 日本内部監査協会: 内部監査基準、H16.6
*4: 森 實他: システム監査の基本、白桃書房、1998.9.26
H23.2.27 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所