ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
95       そんなに難しいことか、ISO9001と認証
            − QMS能力実証型審査 −
 <62-01-95>
 1. JAB公開討論会
 震災で遅れていたJABの今年のISO9001公開討論会が5/30に開かれた。その開催通知によると年は、「ここ数年の認証の社会的価値と信頼性の向上のための議論と検討を具体化する方策」を議論することが主題であった。公開資料によると討論会は、次のような論理が基調となっている。すなわち、ISO9001への適合とは「ISO 9001要求事項に適合するQMSが機能している状況、つまり、その結果として発揮できるQMSの能力像への適合」のことであり、この「あるべきQMS能力像」は別の表現をすると組織が「実現すべきQMS能力」のことであり、これは「要求事項に適合する製品を合理的に提供できるようなQMSを構築し運営し改善する能力」のことである。そして、認証機関の行う適合性審査とは「組織のQMSのあるべきQMS能力像への適合の評価」であるべきであり、これは「あるべきQMS能力像からの解離を、ISO9001の箇条に対する不適合に起因するQMS能力の脆弱性として指摘」することである。これが「真の有効性審査」であり、これこそが「本来の適合性審査」である。資料によると討論会では引き続き、「真の有効性審査」としての「QMS実証型審査」が提唱され、その具体的方法とその価値の検証結果が報告されている。
 
 JABは、これが登録取得組織の相次ぐ品質事故、不祥事に始まる社会の認証制度への信頼低下に対応する議論だと言うのだが、とても難解で容易についていけない理屈であり、とても実行できそうもない「QMS実証型審査」のように思える。そもそもISO9001規格とその認証制度、認証の信頼性とは、こんなに難しいものなのだろうか。
 
2. 購買基準としての品質保証規格
 ISO9001の大元が米国の国防省による1959年制定の品質保証規格MILQ9858であることには日本でも異論はない。品質の概念が軍需産業で発達したのは、兵器の不良は直ちに兵士の命に係わるという現実から来ている。兵器調達部門は不良兵器の納入業者に原因調査と再発防止対策を要求し、業者は不良の技術的原因と不良が造られ、見過ごされて納入されてしまったことに対する対策処置を約束する。様々な不良に対して様々な業者が様々な不良品納入防止の管理方法を約束し実行する状況の中、これらの内の優れた方法を選び集約し、最も効果的と思われる管理体系として標準化するという考えが生まれたと想像してもおかしくない。MILQ9858は、こうして生まれ、国防省の購買基準として兵器納入業者に遵守が要求された。兵器納入業者にMILQ9858を遵守してその兵器の製造を管理させることにより、不良兵器が納入されることを防ごうというのが兵器調達部門の意図である。
 
 このような品質保証、すなわち、不良品が納入されるのを防止するための購買基準を設定することは、日本製品に刺激されて民生製品においても品質の重要性が高まるにつれて、欧州の民間企業に拡がった。すなわち、企業(購入側企業)が自身の製品で不良品を出さないために、購入する材料や部品に不良品が納入されることのないように、材料や部品の供給側企業にそれぞれがMILQ9858を下敷きに作成した購買基準の遵守を要求した。これに伴い購入側企業毎の様々な購買基準への対応が必要となる供給側企業の便宜のために、各国でそれらをひとつの普遍的な購買基準として標準化する動きが進んだ。英国で企業毎に乱立する購買基準を全産業向けとして1979年に標準化した品質システム規格BS5750はこのひとつである。
 
3. 品質保証規格の国際的統一
 取引が国境を超える時代に入ると、購買基準を国際的に統一する必要が認識されることになる。この国際標準化の動きは、EUの市場統合の進展による必要と相まって、1976年にはISOに品質保証規格作成を検討する専門委員会TC176の設立という形で明確になる。ISO9001は、不良品の納入を阻止するための購買基準の国際的標準として、BS5750を基礎にして作成され、1987年に初版が発行された。これによって世界のどの国の供給側企業もひとつの購買基準に対応すればよいということになり、購入側企業もISO9001の遵守を購買条件として設定すれば、世界中から不良品を納入しない供給側企業を選択することができる。
 
4. 品質保証能力の確立と証明
 一方、長期間沈滞する英国産業の再生には品質競争力を高めることが必要と見たサッチャー首相は、BS5750規格を不良品を出さない業務管理方法を示すものとして、その適用を企業に求めた。そして、不良品を出さない企業であることを特に国外市場、企業に明確にするために規格適合を証明する認証制度を始めた。すなわち、政府の管理する認証機関が企業の品質保証関連業務を調査し、購買基準たるBS5750規格を満たしている場合にその証明の登録証を発行した。これは、当該企業の製品が日本製品並みに不良の少ない優れた品質を持つので、どうぞ安心して買って下さい、取引をして下さいというサッチャー首相の事実上のお墨付きである。
 
5. 認証制度
 購買基準の世界標準として作成されたISO9001であるが、1994年改定版では規格の使用方法に第三者認証制度での使用も謳われることとなった。この制度では世界各国の認証機関が共通の方法でISO9001規格適合性を評価し、登録証を発行する。この制度には2つの役割がある。ひとつは供給側企業の購買基準遵守に関して購入側企業が行うべき監視の代行であり、もうひとつは不良品を出さない信頼できる企業であることのお墨付きを サッチャー首相に代わって出すことである。
 
 購買基準を供給側企業に課す仕組みに不良品納入阻止の実効性をもたせるには、その購買基準が実際に遵守されていることを購入側企業が監視する必要がある。これは一般には、購入側企業が定期的に供給側企業の業務実行状況を監査するという方法で行われてきた。購入側企業が監査のために他国にまで出かけることは実際的ではないから、この監視の実際的な方法がなければ、ISO9001は国際的購買基準たり得ない。認証制度では、これもISO規格化されている世界標準の審査や認証の方法によって登録証を発行する各国の公正な第三者認証機関が供給側企業の購買基準遵守の監視を代行する。登録証は、不良品を出すことのないように購買基準が効果的に遵守していますという認証機関の保証である。認証制度によって、どの企業もISO9001を購買基準として、それを満たすという登録証によって不良品を納入しない企業を世界中から選択できることとなった。ISO9001の認証取得企業でないと欧州に製品を輸出できないという1990年代に日本でも広まったうわさは、欧州企業がISO9001を購買基準として海外の見知らぬ供給側企業を選択しようとしたことを誤解したものである。
 
 もうひとつの認証制度の役割は、特に国際貿易や国内市場で名の知られていない企業が、不良のない優れた製品・サービスを提供する企業であることを顧客に訴えることを支援することである。そのような当該企業には、ISO9001を遵守して品質保証の業務を行っているので、不良品を出すことはないというお墨付きの登録証を、自国にある認証機関が サッチャー首相に代わって発行してくれる。この認証制度によって英国以外の国の企業も不良品を出さない企業であるというお墨付きを持つことができるようになり、名もないしかし優れた品質の製品を提供できる企業が、国内市場だけでなく世界のどの国の市場にも進出できる手がかりを得ることができるようになった。
 
6. ISO9001と認証取得の目的
 ある英国の調査ではISO9001の認証取得企業の57%は顧客の要求を取得理由とし、31%が売上や取引の拡大を図ることが取得理由としている*。日本でも親企業からの要求でISO9001の認証を取得する企業が実質的に大半であるが、規格と認証制度の趣旨からして当然である。欧米の自動車会社はISO9001より条件を厳しくした購買基準をISO/TS16949として標準化して世界の納入業者に遵守を求めている。いずれの規格についても、その適合性の証明の登録証の取得を要求する購入側企業の真意は、規格の規定を満たして品質保証関連の業務を行って、不良品を納入しないでほしいということである。一般消費者を相手にする企業が店頭に掲げるISO9001登録証は、不良製品、サービスを提供することはありませんという企業の誓約である。認証取得の要求は不良品の納入をしないでほしいいう顧客の要求であり、自主的な認証取得は不良品は出しませんという企業の誓約である以外の何者でもない。
  
7. 不良品を出さない組織
 2000年版で品質の概念が顧客満足に拡大したが、不良品を出さないというのはその基本である。ISO9001は基本的に不良品で顧客に迷惑をかけないための経営管理の在り方を規定している。登録証はISO9001適合性を切り口として不良品をやたら出すような企業ではないということの公正な証明である。この製品を買いたいが、この企業と取引したいが、やはり心配なのは品質である。大丈夫です、確かに企業は効果的な品質保証の世界標準の仕事をしていますという安心のお墨付きが登録証である。それにもかかわらず登録取得企業が相次いで品質不祥事を出すので、社会の認証制度への信頼が低下した。ISO9001の狙いも書いてあることも、認証制度の目的も登録証の意味も、社会や顧客の想いも、組織の認証取得の動機も、すべて簡単、明瞭である。不良品を出さない組織であることである。何も難しいことはない。公開討論会のあの小難しい、もったいぶった屁理屈は一体何なのだろう。
  
* Sevenoaks, Kent: PRWEB,1 June 2011, ISO9001 Proven to Help Win New Business in New Research
H23.7.12 
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