ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
96       萎縮する審査員   ‐様変わりの審査風景
           −日本認証業界 よもやま話(7)−
<62-01-96>
(1) 近頃の審査風景
  近頃のISO9001/14001認証審査では一昔に比べて指摘が少ないと言われている。特に是正処置が必要という類の不適合指摘は極端に減っており、定期審査では不適合指摘がゼロというようなことも珍しくなく、被審査側の審査への畏怖や緊張が失われつつあるという。発見される不適合が減ったのなら、認証取得が10年を超える組織が大半となっているという状況ではむしろ正常なことである。規格への適合性を評価する認証審査であり、発見された不適合はその都度修正され、再発防止対策もとられているから、認証取得10年も経ってなお新たな不適合が見つかるとすれば、それこそ異常なのである。
 
  しかし、審査の度毎に新たな不適合が見つかるという現実は続いているはずである。なぜなら、審査ですべての不適合が検出され、再発防止処置がとられているのではないからである。このことは、抜取り審査であることを口実として認証機関が公に述べている。また、審査員によって規格解釈、とりわけ子細な事項に関する規格解釈はまちまちであるから、審査員が異なると新たな不適合が発見される。さらに、認証審査では多数の不適合が発見されるが審査員の独自の判断でその内の少数だけが不適合だとして指摘され、残りは不適合ではない「観察事項」として処理されるという実態では、いつでも不適合指摘となる多数の不適合予備軍が温存されている。間違った認証制度運営では不適合指摘は永遠に続くのである。
 
(2) 認証取得組織の争奪戦争
  不適合指摘が減るとすれば、それは審査員が不適合指摘を意図的に抑制しているからであり、その理由は認証機関間の激化する認証取得組織獲得競争が原因であることに違いない。すなわち、登録数が頭打ちから減少に転じて久しい認証業界では、安価を武器とする非JAB系認証機関がJAB傘下認証機関の登録証を持つ組織を登録替えさせて登録件数を増やしている。JAB傘下認証機関も登録移転と称して他の認証機関から認証取得組織の引抜きを図る、喰うか喰われるかの戦いに突入した。この登録移転では、認証機関の行う組織訪問や書類調査など登録移転のために必要な手続きに要する一切の費用は一般に無料である。認証取得組織は、既存の登録証の有効期間を引き継ぐ新しい登録証を無償で入手できる。今や組織は、気に食わない認証機関はいつでも変えることができるのである。
 
(3) 審査員への圧力
  認証制度管理の枠組みでは認証機関は被審査組織からの異議や苦情を受付ける手順を持たなければならず、多くの認証機関はこのひとつとして、審査を実施する度に審査と審査員に対する被審査組織からの評価の調査を、アンケート方式で行っている。形だけだったこの調査が、登録移転時代になって俄然重要となってきた。この調査が審査の場を知らない認証機関の管理機構にとって組織の不満を検知する唯一の手段であるからである。一方、審査員を恐れる気持ちに変わりはないにせよ、認証市場での彼我の力関係の変化に気付いた認証取得組織は、この調査に対する回答に本心を反映させる傾向を強める。とりわけ審査の度毎に審査員が代わるような場合では、審査員からの報復の恐れがないから、不適合指摘を中心とする審査結果に対する正直な不満をそのまま、審査員の言動、思想の問題に転化して回答とする。認証機関は組織が逃げ出す可能性のある否定的評価を避けなければならないから、どちらに理があるかは無関係に、否定的評価があればすべてを審査員の責任に帰してその再発防止を当該審査員に要求するということになる。
 
  今日多くの審査員が審査相手から自分の評価が認証機関に送られることに圧力を感じており、審査の判断や指摘が被審査側にどのように受け止められるかを考えない訳にはいかない精神状態に置かれている。しかし幸いにも日本の認証制度運営はこのような審査員に救いの道を開いている。すなわち、審査員が規格適合と判断した認証取得組織が不祥事や深刻な事故を起こしても、それは登録証が保証するものではないとして認証機関は責任をとらないから、審査員も責任を問われない。審査で何は絶対に見つけて指摘しなければならないというようなものがないのである。だから被審査側のご機嫌を損ねるような指摘を差し控えることをやめようと思えば可能である。明確な目標も基準もない今日の審査は、事実上、審査員個人の能力と職業人としての責任感で以て行われている。近頃の不適合指摘の減少は、審査員締めつけ圧力の高まりと個人の責任感とのせめぎ合いの結果を反映したものであると判断できる。
 
(4) 審査員を構成する3つの世代
  今後締めつけ圧力が益々強まることは明白であるが、不適合指摘の更なる減少が進むかについては、認証制度に参入した時期でおよそ分類できる3つの世代のそれぞれの審査員層に分けて検討するのが適切であろう。第一世代は、日本の優れた品質管理や公害対策を実際に支えた現役時代を経て審査員となった人々が中心であり、審査では規格の趣旨とは異なる指摘ではあるが、被審査組織の品質管理や品質改善、環境改善活動にとっては有意義な指摘をしてきた。この世代審査員には自身の体験的規格解釈への強い自信から態度不遜、独善的指摘に陥った嫌われ審査員と自身の体験に照らした被審査側の欠陥の是正を純粋な熱意から求める辛口審査員が含まれる。これら審査員には雇用主の認証機関が一方的に被審査組織の言い分への従属を強制するなら、既にその年齢に達しつつあることを勘案して引退を選ぶに違いない。
 
  第二世代は、認証取得組織でその品質、環境マネジメント システムの構築作業の中心となった人々が中心である。審査は、本来の品質管理や環境管理の経験とシステム構築作業で学んだ規格解釈を基礎として行われ、後者に関連して被監査側との大きな違いはないから、被審査側の反発を招く性格のものは一般に少ない。こちらにも規格の趣旨とは異なるが経験を生かした実質的な指摘を行う辛口的審査員が含まれ、故無き非難に対して引退の道を選ぶ人が出るだろう。
 
  第三世代は現役時代を認証制度の枠組みの下で過ごしてきた人々であり、まだ少数派である。審査の対象とする業務と組織の実務との二重性を当然とするなど、認証制度と規格解釈において想いや考え方は被審査側と同じである。審査では被審査側の受け止めと同じ規格解釈の下に不適合指摘をするから、被審査組織の審査員への不満は、業界専門性がないとか、頼りないという類が中心であろう。認証機関は被監査組織からの不満に基づいて適切に審査員を指導、矯正できる。
 
(5) 将来の審査風景
   かくして、もの言わぬ、ものわかりのよい審査員ばかりとなる。審査は、被審査側は何を聞かれるかが予想でき、審査員は答えを予想して質問する、緊張感を欠いた質疑応答の場となり、被審査組織が望み、納得する不適合の指摘が結論となるという将来が予想される。これは悪いことではない。何を保証するでもない登録証であるなら、その発行手続きのための審査が、関係者の負荷軽く、和やかに、円滑に進められることが合理的であるからである。但し、虚飾の権威がはげ落ち、思う通りの結果が得られる審査に高い料金を払う認証取得組織はいないから、認証機関は値下げ競争に向かわざるを得なくなるのであろう。
H23.8.12 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所