ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
98       普及してはならないISO50001 − 地球環境保全取組みの逆戻りの危険  <62-01-98>
1.エネルギーマネジメント認証制度
 エネルギー使用効率の向上を図る組織の経営管理の規範としての規格ISO50001(エネルギー マネジメント)が、6月に発行された。その翻訳版のJIS規格もまもなく発行されるとのことであるが、認証制度を伴う規格として作成されたので、認証業界には期待が盛り上がっている。早くも国内認証第一号が出たとか、どの認証機関が体制整備中であるとかの ニュース が聞こえ、雑誌では規格解説が盛んであり、インターネットでは解説講座の広報をはじめ、新規格の意義を説くページが目白押しである。認証業界の期待の盛上がりはわかるが、ISO50001の中味は今日の社会的必要とはほど遠いものである。日本で認証取得が拡がるとは思えないが、どちらかと言うと拡がってはいけない規格である。
  
2.省エネルギー
 基本的に省エネルギーというのは時代遅れの概念である。省エネルギーは1970年代の石油危機の産物であり、石油価格高騰に対応するエネルギー消費削減のために生み出された必要である。省エネルギーは エネルギー資源を輸入に依存する日本企業の競争力向上の切羽詰まった対応であり、国際貿易収支の悪化を防止すること、及び、とりわけ湾岸産油国から政治的に自立するための国家戦略の一環であった。
  
 今日では石油産出国が世界に拡がり、エネルギー資源も石油から石炭、天然ガスと多様化し、湾岸産油国の政治力も低下した。今にも枯渇すると懸念された石油であるが、掘削技術の進歩により確認埋蔵量はむしろ増加し、さらに油母頁岩、海底メタンハイドレート等々新たなエネルギー資源も視野に入ってきた。日本は今や世界一の高いエネルギー効率や高度の省エネルギー技術を誇る国になった。投機により石油価格が高止まりするが、未曽有の円高のお蔭でどこよりも安く輸入できる。東電原発事故による節電の必要は日本のエネルギー構造をどうするかの問題であって、省エネルギーとは異質の課題である。今、殊更に省エネルギーを取り上げなければならない状況にはない。
 
3. ISO50001の実体
  しかし今日でも省エネルギーは大切な課題である。それは温暖化ガス排出の大部分がエネルギー使用の結果であり、エネルギー使用効率の向上はそのまま焦眉の急たる温暖化ガス排出削減に繋がるからである。今、エネルギー使用効率に関心を持ち、その改善に取り組むとすれば、地球環境保全の観点からでなければならない。ISO50001の作成者たちがこの情勢を意識したことは、この規格の間接的効用に地球環境への負荷低減を挙げ、また、再生可能エネルギーへの転換を省エネルギーとして扱っていることで推察できる。規格を広報する文章の中にも温暖化ガス排出削減という言葉が見られるから、日本の認証業界でも省エネルギーを地球環境保全との関係で捉える必要は認識されているようである。
 
  しかしながら、ISO50001の狙いはまぎれもなくエネルギー効率の改善とそれによる コスト低減である。対象とするエネルギーは当該企業が消費するエネルギーに限定されている。購入品の使用のエネルギー効率の管理を規定しても、外注で使用するエネルギーや製品で消費されることになるエネルギーについては何も触れていない。例えば、エネルギー多量消費工程を外注すると、組織の省エネルギーが進んだことになる。例えエネルギー効率の悪い外注先であってでもである。ISO50001には地球環境保全の観点からの省エネルギーという考え方は、序文には述べられていても実際の規定には反映されていない。世界の緊要の必要である地球環境保全に係わる問題を取り扱っていながら、世界の期待には背を向けて、組織が自己の利益を追求する利己的な無責任な組織の経営管理の在り方を規定する規格である。
 
4. 地球環境保全への責任
  組織がもつ地球環境保全責任の果たし方の国際的規範を規定するISO14001では、組織はその活動だけでなく、外注先や物品購入先の活動、更に製品の使用に起因する環境への影響にまで管理の目を拡げなくてはならない。ISO14001でもエネルギー使用はそれに伴う温暖化ガス排出や資源採掘による自然破壊の観点からだけでなく、限りある地球資源の消費という観点からも地球環境への負荷と見做される。省エネルギーを環境方針に取り上げる組織は、ISO50001の規定よりはるかに広い範囲でのエネルギー使用の低減に取り組んでいる。
 
  石油危機の時代には組織が省エネルギー に努め、政府がこれを支援する社会的利益があった。省エネルギーは企業のコスト削減という私的な利益が目的だが、産業の国際競争力を高め経済発展を図るという社会的必要を満たすためであったからである。しかし、今や社会が省エネルギーに期待するものは、それが温暖化ガス排出削減など地球環境保全に繋がると考えるからである。世界の政府、企業、団体、国民がそれぞれに地球環境保全に責任を果たそうと努めている状況の中で、時代遅れの省エネルギー概念で自らの利益を追求し、意識的ではなくとも地球環境保全に取り組んでいる振りをする組織を社会が認める訳がない。
 
5.ISO50001普及の問題点
  日本ではこれも時代遅れであるが、省エネルギー法が今も存在している。エネルギー多量使用組織にとっては、省エネルギーは法により実質的に強制されている。自主的な省エネルギー取り組みを社会に訴えるISO50001認証制度を利用する余地はない。法規制もないのに社会的な必要を満たす努力をする組織を社会で認め、支持することが認証制度の目的であるが、省エネルギーが社会な必要であるとしても、ISO50001の認証制度には存在する意義がない。
 
  地球環境保全との関連で言えば日本は、地球環境保全の観点で省エネルギーをも扱うISO14001の認証取得大国である。多くの組織が省エネルギーという方法で地球環境保全責任を果たそうと努力している。そして、ISO50001に地球環境保全の観点がない以上、社会の期待を受けて省エネルギー に取り組もうとする組織がその指針を求める場合はISO14001に頼ることにしかならない。ISO14001は中小企業に重荷であるから、省エネルギーだけに絞った環境取り組みの方が実務的であるというような欺瞞的な理屈をつける他は、ISO50001認証制度が普及する道はない。
 
  米国ではオバマ政府の進める省エネルギー優良企業認証の基準のひとつとしてISO50001の採用を決めた。これが温暖化ガス排出規制が出来ない政治状況の下で企業の コスト競争力強化に名を借りた地球環境保全推進施策であるなら、また、新興工業国の公害や環境汚染の改善の取り組みが省エネルギーを切り口にする方が進め易いというなら、それらの国々では、ISO50001の普及と認証制度に次善の策としての一定の意義を認めることができるのかもしれない。しかし、日本の状況ではISO50001の認証取得は、現状より水準の低い地球環境保全取り組みを認めることである。米国や新興工業国のISO50001普及も、これをよいことに、急がねばならない温暖化ガス排出削減をおろそかにする状況が正当化される危険も大きい。ISO50001の認証制度の普及は日本ではあってはならないし、世界的にも問題がある。
H23.10.7 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所