ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
99 認証取得のために不要な業務や形式を押しつけられない方法
−品質保証体系図を例として
 <62-01-99>
1. 品質保証体系図
(1) 一般要求事項
  ほとんどの組織の品質マニュアルの4.1項(一般要求事項)には「プロセスの順番と相互関係を品質保証体系図に示す」という記述と共に「品質保証体系図」なる図が、大抵は別紙として付されている。これは、4.1項 a)の品質マネジメント システムに必要なプロセス及び組織への適用、b)項のこれらプロセスの順序及び相互関係を『明確にする』に対応して、これらを紙に書いて『明確にする』することが必要であるとする規格解釈に基づく。「品質保証体系図」というのはTQC活動の形式のひとつであるから、誰が言い出したかわからないが、00年版で4.1項の規定が出来たことに対して、TQC関係者がこれが規格のa)、b)項の”要求”に対応するものと考えたのであろう。
  
(2) 誤った規格解釈
  しかし、この解釈はJISの問題ある和訳のもたらした条文の軽はずみな読み違いの典型である。軽はずみなと言うのは、ここで規格が『〜を明確しなければならない』というのはどういう意図なのかを全く考えないで、『明確にする』だから紙に書いて明らかにすることだと読んでしまうことを指す。
 
  なぜ紙に書かなければならないのかと疑問を感じたなら、問題の多いJIS和訳を疑ってみるのがよい。案の定、『明確にする』は原文では“determine”である。辞書を引くと「決める」「特定する」の意味である。00年版のa)では「特定する」「識別する」の“identify”であった。すなわち、規格の意図は、組織の多くのプロセスの中から品質保証・顧客満足を目指す経営管理に必要なプロセスを選び出し、それらがどのように繋がって行われるようになっているかを決めなさいということである。
 
  “determine”自身は紙に書いて明らかにするということとは全く関係がない。“determine”の和訳についてはJIS規格巻末の解説にも説明がある。すなわち“determine”は「対象の性質を明らかにして何かを定めるという意味であるが、対象の理解が主意であるときは“明確にする”、また、決定が主意であるときは“決定する”又は“定める”と訳した」とされている。この英語解釈に全面的に同意する訳ではないが、JIS和訳の意図でも『明確にする』は紙に書いて明らかにすることでないのは明確である。
  
2. 実務に不必要な文書や形式が多い原因
 「品質保証体系図」は規格の意図ではない。実際にも作成された「品質保証体系図」は誰も見たり参照したりしておらず、誰も利用していない。認証審査の場で審査員が存在を確認するだけの文書となっている。それでも大抵のコンサルタントが「品質保証体系図」の作成を薦め、この作成が規格の”要求”であるとする審査員が少なくない。審査員の指摘を恐れる大抵の組織は、作っておけば問題ないのだからと、作成して何になるのかわからないまま「品質保証体系図」を作成する。「品質保証体系図」は一度作成すれば改定の必要もないからこれ自体は大したことではない。しかし、審査員の言うがままに、どういう意味があるのかを考えないで審査の前に辻褄合わせをするだけの、実務に不必要な文書や形式を作って、ISOは役に立たないのに維持が大変だと不満を漏らす組織にとっては、その原点とも言うべき問題である。
 
3. 審査の場での議論
(1) 英語解釈
 『明確にする』を紙に書いて明らかにすることだと信じている審査員には、規格序文にJIS規格が翻訳規格であり、用語の意味は原文に拠るべきことが書いてあるので、『明確にする』を英語“determine”で解釈したことを説明する。解釈にあたっては規格書巻末解説を参照して、紙に書いて明らかにすることではないことを確認したことにも触れる。解説書の「品質保証体系図」を見ても、これがなければ何かに困るということが考えられないので作成不要と判断したと説明すればよい。
 
(2) 文書化の必要

 それでも 『明確にする』を紙に書いて明らかにすることだと信じて、「品質保証体系図」の作成が規格の”要求”だと疑わない審査員に対しては、文書化に関する規格の”要求”を持ち出せばよいのである。規格が”要求”する文書は4.2.1項のa)〜d)に規定されている。「品質保証体系図」はa)の品質方針、目標の表明、b)の品質マニュアル、c)の文書化された手順と記録のいずれでもないから、d)の『プロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実に実施するために』必要な文書に属する。d)では、そのような文書が必要かどうかを『決定する』のは審査員ではなく『組織』であると明確に規定されている。「品質保証体系図」を作成するかどうかを決めるとするならば、審査員ではなく組織が決めなければならないというのが規格の”要求”である。
 
(3) 明確にしている証拠
 「品質保証体系図」がなくても仕事に困らないと組織が言えば、審査員は、なければこれこれの理由で『プロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実に実施する』のに支障が生じるということを説明しなければならない。そんな説明の出来ない審査員には、「明確にしているという証拠がない」と反撃される可能性がある。この場合は「品質マニュアルに書いてあります」と答えればよい。4.2.2項(品質マニュアル)によるとa)の品質マネジメント システムの範囲、つまり、品質マネジメント システムのプロセスが何と何かと、c)のプロセス間の相互関係が記述されているはずである。つまり、4.1項がa)、b)を紙に書いて明らかにせよとの”要求”であるとするなら、品質マニュアルがその”要求”を満たす文書である。
 
 品質マニュアル とは品質マネジメン システム がどのようなものかを表す文書である。これを4.2.2項は、上記のa)、c)とb)で『“文書化された手順”又はそれらを参照できる情報』を記述することだとしている。規格の「品質マネジメント システムのプロセス」とは各条項の標題に相当する業務のことであり、a)の『品質マネジメント システムの適用範囲』とは実質的にどの条項を『適用除外』するかを意味する。品質マニュアルを規格条項別に記述し、適用除外条項や条文を明記することがa)を満たす。
 
  c)は例えば、7.2.1項(製品関連要求事項の明確化)では「新規の注文は、内容に誤りがないことを確認した注文書(7.2.2項)に基づいて、品質設計基準に則って品質方針(5.3項)の顧客満足を実現するように製品の目標性能仕様を決める【規程:品質設計】」という手順の記述とその詳細を記載する文書を明示する。7.3.2項(設計・開発へのインプット)では「標準製品仕様と製品設計基準を元にし、過去の設計事例を参考にして、品質設計の結果(7.2.1項)の目標製品性能を実現する製品の詳細構造、配色を決定する。【設計手順書:製品設計】【同:設計事例集】」である。規格の意図する品質マニュアルは、規格の条項毎にb)の関連する手順の概要を記述しながらa)、c)も明らかにするものである。
 
  4.2.2項のa)、c)が4.1項のa)、b)の『〜を明確にする』に対応する「品質保証体系図」作成の”要求”を意味していると言う審査員がいるかも知れない。これは暴言である。この考えでは、「品質保証体系図」には図の欄外に関連する手順書名が表示されている場合があり、この記述は4.2.2項のc)の『“文書化された手順”又はそれらを参照できる情報』に相当するから、品質マニュアルはすなわち「品質保証体系図」だということになる。
 
(4) 品質マニュアルの役割
 効果的な品質マネジメントのためになぜ品質マニュアルが必要なのかということについては規格も関連文書でも明確な説明はない。品質マニュアルにあれが書いていない、この記述が十分でないというような指摘をする審査員には、この質問をしてみるのがよい。ともあれ、品質マニュアルの作成の必要は組織の品質マネジメントの業務が規格要求事項を満たしていることがわかるようにすることであると考えられる。規格はこれこそが効果的な品質マネジメントのための業務であり、その実行の必要条件であるという要求事項を定めており、そのような効果的な品質マネジメントを行うことを目指す組織は品質マニュアルの作成を通じて、その品質マネジメントの業務が規格の要求事項を満たしているかどうかを判断できる。また、品質マニュアルによって効果的な業務の行い方を関係者が必要により勉強することができる。そして、4.2.2項に規定されるような品質マニュアルを作成しておけば、審査員の「この要求事項を満たしている証拠があるか」との質問には、品質マニュアルを核としてすべて答えることができる。
 
4. 議論に必要な知識と気概
 間違った条文解釈に基づく「品質保証体系図」の作成は単純に必要でない。審査員が「規格の"要求"」だと言ったとしても、規格は何かに必要だから"要求"しているはずだから、「品質保証体系図」が必要と言われる限り組織は「何のために必要か」と質問してもよいのではないか。審査員が、組織の主張はこれこれであって間違っており、「品質保証体系図」はこれこれしかじかで必要であり、それは規格のこの条文に書いてあると理路整然と説明し、組織が これに納得できれば、審査員の指摘を受入れてその必要に合った「品質保証体系図」を作成すればよい。組織がこのような議論をすることが登録証を頂戴することに不利に働くことはない。
 
  審査員の指摘がおかしいので受け入れたくないと思えば、指摘がおかしいという自分の考えを述べればよい。「これでダメですか」とお伺いするのでは「ダメです」という答えしか帰ってこない。「自分はこういう理由でこれで十分に規格要求事項を満たしていると思う」と主張を展開しなければならない。お伺いではなく、管理者としての責任と見識をかけた議論である。そのためには管理者は規格を効果的な経営管理の教本として勉強しなければならない。管理者たるもの、組織のためにも自分のためにも不必要と思うことをやらされないため、審査の場で審査員に議論を吹っ掛ける知識と気概を持たなければならない。
 
5. 議論で得られるもの
 議論をしてみればすれば底の浅い審査員の多いことがわかる。『明確にする』が"determine"であり、規格書巻末にその意味の解説があることを知っている審査員がどれほどいるのかもわかるだろう。一度議論をしてみれば組織の正論が簡単に通ることがわかる。屁理屈でごまかそうとする審査員がおればその場は納めて、審査後に認証機関が求める審査員評価書に組織の主張と審査員の屁理屈を書けばよい。激しい顧客獲得競争の下にある認証機関の対応は少なくとも次回審査で明らかなものとなる。
 
  議論の結果で組織と自分自身の仕事が楽になる。さらに審査の場で審査員と堂々議論する姿を見せれば、上司には「なかなかやるじゃあないか」と評価されるかもしれない。部下の尊敬を集めることだけは確実である。
H23.10.17(修10.18)
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
サニーヒルズ コンサルタント事務所