ISO9001/ISO14001
コンサルティング・研修

   
論評
  実務の視点  ISO マネジメントシステム コンサルタントの切り口              
このセクションでは、 MS 実務の視点主宰者が、ISOマネジメントシステム規格と認証制度を取巻く種々の問題を取上げ、
実務の視点に立つ  ISO マネジメントシステム コンサルタント としての見方、考え方を披露します。
目  次
ISO9001/14001
2015年版
誤訳・空論・珍説
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

組織の取組み
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

規格理解・規格解釈
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

認証制度と運営
ISOマネジメントシステム
認証登録の疑問と正解

認証業界よもやま話
メールマガジン
マネジメントシステム
と 規格




テーマ別  目次
-日本のISO取組みの問題点-
審査指摘に盲従
する認証組織
不要な業務や形式を断る方法
思考停止症との関係は?
審査のばらつきの原因
ISO思考停止症の管理者
日本のISO取組みの疑問と正解論 評 我田引水
組織の取組み
62a
実務の視点で、ISO9001/ISO14001マネジメントシステム規格と認証制度活用に関する組織の組みの実状について
問題を提起し、規格と制度の制定の狙いに沿った適切な取組み方を考えます。
   目 次
<最新号>
 
113  ISO9001 2015年版の改訂実態は2008年版並み   ―組織主導の規格解釈(11)           (H28.7.20)
112. 社長年頭挨拶   ―組織主導の規格解釈(10)           (H28.1.27)
111. 組織主導の規格解釈の必要を暗示する国内委員会15年版解説  ―組織主導の規格解釈(9)           (H27.9.9)
110. 組織の実務を基礎とするISO9001 2015年版規格解釈  ―組織主導の規格解釈(8)           (H27.9.9)
109. 組織の実務を基礎とする規格解釈  ―組織主導の規格解釈(7)                                      (H27.6.8)
108. 2015年版改訂解説における文字面解釈 ―組織主導の規格解釈(6)                               (H27.4.1)
  組織主導の規格解釈    −組織の利益を目指した主体的規格取組み  a2
113. ISO9001 2015年版の改訂実態は2008年版並み    ―組織主導の規格解釈(11)   (H28.7.20)
112. 社長年頭挨拶    ―組織主導の規格解釈(10)   (H28.1.27)
111. 組織主導の規格解釈の必要を暗示する国内委員会15年版解説    ―組織主導の規格解釈(9)   (H27.11.13)
110. 組織の実務を基礎とするISO9001 2015年版規格解釈    ―組織主導の規格解釈(8)   (H27.9.9)
109. 組織の実務を基礎とする規格解釈    ―組織主導の規格解釈(7)  (H27.6.8)

108. 2015年版改訂解説における文字面解釈    ―組織主導の規格解釈(6) (H27.4.10)
107. 組織に由来するISOマネジメントシステム規格であれば    ―組織主導の規格解釈(5) (H27.1.17)
106. ISO9001/14001 2015年版改訂解釈は認証組織の利益に資するものとなっているか    ―組織主導の規格解釈(4) (H26.11.8)
105. 品質方針、環境方針の作成    ―組織主導の規格解釈(3) (H26.9.5)
104. 規定条文の正しい読み方、10の留意事項   ―組織主導の規格解釈(2) (H26.4.18)
103. ISO9001/ISO14001 2015年版、組織主導の規格解釈の勧め  ―無用で無益な作業負荷の軽減のために(H26.3.8)
 
  規格解釈と実践
103‐1. ISO事務局という無駄と害(H24.7.3)
102. 日常点検表の管理者承認印 ― 百害あって一利なしの形式(H24.2.25)
92. 経営の役に立ってないISO内部監査(H23.2.27)
74.ISO14001登録大国の京都議定書未達の不思議−目くそが鼻くそを笑う(H21.7.9)
61.(追)登録取得組織が不祥事を起こす理由−経営トップの空虚なコミットメントが問題潜在化(H20.2.10)
56.(完)登録取得組織が不祥事を起こす理由−組織の業務能力が難関(H19.10.8)
53.登録取得組織が不祥事を起こす理由−誤った規格解釈と取組み(H19.7.13)
20. 継継続的改善はマネジメントの普遍的目的(H16.8.31)
14. 必要条件と十分条件−機能するISOシステムにするには(H16.5.13)
11. 規格の意図に沿わない内部監査の落し穴(H16.3.31)
 9. 記録の意義(H16.2.29)
 8.文書のスリム化とシステムのスリム化(H16.1.31)
 7. システムを構築するということ(H16.1.17)
 
  審査対応
99. 認証取得のために不要な業務や形式を押しつけられない方法−品質保証体系図(H23.10.17)
90. 中露になめられる日本 −「ISO思考停止症」との関係は? (H22.12.10)
21. 審査のばらつきは受審組織が原因(H16.9.18)
12. ISO思考停止症の管理者達(H16.4.18)
   
  認証制度の活用
25. 登録証取得は将来的にも取引継続の保証になるか?(H16.11.30)
19. 自治体のISO14001認証登録は税金の無駄遣い?(H16.8.14)

連載テーマ 登録取得組織が不祥事を起こす理由 (1)〜(5)   H19.7〜H20.2 b02
61. (追) 経営トップの空虚なコミットメントが問題潜在化
56. (完) 組織の業務能力が難関
55. (続々) 誤った登録審査基準の適用
54. (続) 誤った登録制度統制 
53. 誤った規格解釈と取組み

(註)規格条文引用時の*印はJIS翻訳と異なる筆者のISO英文の翻訳であることを示す。
 
 113. ISO9001 2015年版の改訂実態は2008年版並み  
   筆者は、組織主導の規格取り組みの観点から一字一句おろそかにせず規定を読んでその意図を明らかにし、08年版からの趣旨の変更が皆無であることを含み、ISO9001の2015年版の全容を明らかにした解説書を6/27発行した。
 
  ISO/IEC業務指針*1によると、ISO規格は作成又は改訂から5年毎に、その“市場適合性(market relevance)”について“体系的検討”が行われることになっている。この“市場適合性(market relevance)とは、必要で有用と認められて作成又は改訂された規格が、その後の時代の変化を経てなお必要で有用と認められて、用いられ、今後も用いられるかどうかということである。“体系的検討”によって、規格をそのまま保持するか、改訂するか、廃棄するか、又は、TSやPAS等の下位規格に降格するかが決められる。すなわち、体系的検討で、時代に合わなくなった規定が見出された場合には、規定を変更し或いは追加するという“改訂”が行われ、規格の正しく或いは妥当でない使用に繋がるような規定の誤りやあいまいさ、及び、時代に合わないが規格の狙いや意図には影響しない規定が見出された場合は、 “正誤表”の発行により“修正”される。
 
  このように、“体系的検討”の結果で行われるISO規格の“改訂”とは、その規定が時代遅れになって規格の目的や狙いの実現に適当でなくなった、或いは、より効果的な理論や手法が開発されたというような時代の変化に対応して、規格の有用性を保持し或いは高めるために、新規な規定を追加し、又は、既存の規定表現を変更する形で、効果的な品質/環境経営管理活動のための新たな必要条件を規格に加えることである。
 
  ISO9001や14001では、これまでの“体系的検討”の結論は常に“改訂”であったから、“正誤表”発行の事例はなく、改訂版の中で“修正”に相当する規定表現や注記の変更が行われて来た。この中で特異な改訂はISO9001の08年版であり、“体系的検討”で“改訂”と決定されたが、改訂作業で具体的な“改訂”事項の合意に至らず、専ら「規定文章の要点を明確にし、ISO 14001との両立性を高める」ためとして“revision(JISでは「改訂」)”ではなく、“amendment(同「追補」)”として発行された。
 
  さて、2015年版の場合であるが、規格作成委員会TC176の改訂方針*2では、 (1)品質経営の手法や技術の変化を取り入れ、複雑化、要求厳格化、変化の激しくなるなどの事業環境の変化を反映する、(2)共通テキストの採用、(3)効果的な規格適用と各種適合性評価を容易にし、規定の正しい理解と解釈が容易を容易にする用語と表現にする、挙げられていた。すなわち、(1)が、ISO業務指針に基づく “改訂”であり、他は“修正”の範疇である。
 
  一方、出来上がった改訂版について、規格の執筆に日本から参画した国内委員会関係者が説明している主要な変更点*3は、 (1)組織の状況に合致したマネジメントシステムの構築、 (2)事業への組み込みの強化、(3)パフォーマンス改善要求の強化、(4)リスクへの取り組み、(5) 一層の顧客重視、(6)QMSの方針及び目標と組織の戦略との密接な関連づけ、(7)文書類に対する一層の柔軟性、(8)組織的な知識の獲得、(9)ヒューマンエラーへの取り組み、(10)共通テキスト、サービスへの適用からくる用語の変更である。
 
  ここに、(10)は「用語の変更」、(2)(3)(5)(7)は「〜の強化」「一層の〜」という表現が“修正”であることを自ら明らかにしている。また、他の事項も、いずれも実務の品質経営管理活動の既存の管理要素であり、概念である。変更説明も、これまでは…..であったから、或いは、規定が…..のように受け止められていたからというようなことであり、そのような事項をこれまでより重視しなければならない、そのような事項が大切であることをより明確にするというような意図で追加され又は変更されたということであるから、時代の変化に対応して新たに必要となった規定或いはその表現の変更ではないことが明らかである。また、実際にも、“改訂”であるという具体的な説明がない。従って、これら事項の変更も、“修正”の域を出ない変更点である。

なお、「供給者」が「外部提供者」に変わったのは、組織の製品サービスの調達の態様が組織の他事業との共同取得など、08年版の「購買」概念を逸脱するまでに拡がっているという時代の変化に対応すると説明されている*4。しかし、この変更は規格の狙いや意図には影響するものではないので、上記のようにISO/IEC業務指針上の“改訂”には当たらない。「文書」が「文書化した情報」に変わったのも同様である。すなわち、改訂方針の(1)は存在しなかったということであり、15年版の規定の08年版からの変更はすべて“修正”であり、“改訂”に相当する規定は存在しないのが実態である。
 
  08年版に比べて、用語が大きく変わり、規定表現がほとんどすべて改められているが、ISO/IEC業務指針に照らすと、15年版は、08年追補版並みの“修正”ばかりの、変更中身の実質に欠ける改訂版なのである。組織の事業の存続発展の指針として規格を用いる組織は、“改訂”された事項に関して既に組織で認識し対応しているかどうかを検討することが大切であるが、“修正”された事項は受け流せばよい。にもかかわらず、国内委員長、中條武志氏は「2015年版改訂の影響は小さくない。組織にとっても認証機関にとっても、どのような態度で臨むのか真摯に検討することが必要である」と述べている*5。氏はISO/IEC業務指針に則った改訂作業に参画したはずであるから、なおさら奇異なことに思える。
 
  多岐にわたる物事を標準化するという規格作成の性格に鑑みると、時代の変化の把握もその対応のための新たな規定も規格執筆者の洞察や創造によるものではなく、規定の元は、世界の組織が時代の変化を看破してその対応として編み出して実践し、成功を納めている様々な取組みの中の標準的で最良と、規格執筆者が考える論理と手法である。“改訂”か“修正”かを最も適切に判断できるのは、時代の変化を認識し、その規定の論理や手法を開発し実践する組織である。2015年版への効果的、効率的な移行にも、組織主導の規格取り組みが大切である。
 
 
*実務の視点和訳 ⇔ JIS規格用語 対応
品質経営管理活動 ⇔ 品質マネジメント
規定 ⇔ 要求事項
 
引用文献
*1:ISO/IEC専門業務指針、第1部
*2:ISO News: ISO9001:2015 and beyond、N.Croft、28 August 2012、Ref1633
*3:ISO9001:2015規格改訂説明会、山田 秀、須田晋介、2015.10、
*4: TC176: ISO9001 2015 Revision FAQs, N1271, 2015
*5:ISO9001改訂に関わる認証制度関係機関向けセミナー、ISO/FDIS 9001の概要、国内委員長 中條武志、H27.7
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 112. 社長年頭挨拶    −組織主導の規格解釈(10)
   今年の正月休みは短く、大抵の企業、機関、役所は4日が仕事初めの日となった。この日に全員或いは幹部が社長や事業所長の年頭挨拶を聞くことを習慣にしているところも多い。賀詞を述べるだけの場合から新年の抱負を加えた年頭挨拶もあり、挨拶と共に新年の経営に関する所信を述べ、或いは、経営方針を発表することが恒例となっている場合もある。下記はそのような仕事初めの日に行われた仮想のトップマネジメントの年頭所信表明である。
 
  文中の*印は、ISO9001:2015に規定される事柄であり、それを表す規格用語である。また、#印は、規定に関係する事項である。なお、規格ではこのような所信表明の骨子を決めるための方法論をマネジメントレビューの活動(9.3)として規定しており、その結論(9.3.3)が骨子となる。
 
*1:4.1 外部及び内部の事情(JISでは「課題」)/4.2利害関係者のニーズ及び期待;
*2:6.1.1 取り組む必要のあるリスク及び機会;
*3:6.1.2 決定したリスク及び機会への取り組み;
*4:5.2.1 品質方針(及び組織の品質目標)の確立;
*5:6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定;
#1:7.2 職務能力; #2:7.3 認識; #3:7.1.6 職務知識(JISは「組織の知識」); #4:5.1.2 顧客重視;
#5:7.1.5作業環境(JISでは「プロセスの運用に関する環境」); #6:7.1.3物的資源(JISでは「インフラストラクチャ」)
 
  曰く、昨年は、社運を懸けた新第二工場の建設工事を計画通りの短工期で、かつ、無事故で終えることが出来、試運転から量産試作試験まで順調に進み、年末には試作品が首尾よくお客様のラインを流れました。これはまさに偉業であり、皆さんの一丸となったご努力#2の賜物と厚く御礼を申し上げます。
 
  新工場で生産するのは、お客様の生産性の飛躍的向上に貢献する新しいタイプの高品質製品であり#4、この製造と納入の機会を頂戴した*1というお客様の付託には何としてもお応えしなければなりません*2。本年は、新設備の立ち上げと新製品の量産体制の確立とお客様の必要な量の新製品を安定して納入することに全社を挙げて取り組むことが必要です*3。
 
  また、この新機軸の高生産性技術はお客様の業界全体で導入の動きがあり、同業他社にもこれに追随する動きがあり*1、今年が新しい高品質時代の幕開けの年となる可能性があります*2。新設備の能力をフルに引き出し、この新しいタイプの高品質製品分野における製品と製造法の主導権の確立に向けて、お客様と連携して研究開発#3を推進することが必要です*3。
 
  一方、経済情勢は中国や途上国の成長の中休み、株安円高の予想などで輸出環境の悪化が予想される中でも、お客様には海外事業の一層の強化が図られるものと考えられます*1。この中で製品に対するニーズと期待がどのように変わっていくのか*2今まで以上によく注視し、必要な対応の検討に結びつけなければなりません*3。
 
内には、当社のものづくりを支えてきたベテラン層が従来の退職年令に達する状況がさらに進行し*1、貴重な戦力が失われる恐れがあります*2。技能伝承#3の推進と合わせて*3、ベテラン層が引き続き会社に留まってその意気#2と能力#1を発揮できる業務環境#5#6の整備への一層の取り組みが必要です*3。
 
  さらに、コスト、収益については、・・・・・・・・。 地球環境保全に関しては、・・・・・・・。労働安全衛生面では、・・・・・・・・・。法令順守の観点では、・・・・・・・。
 
  このような内外の情勢*1と対応の必要性*2に照らして、本年の年度方針及びそのための重点取り組み事項*3*4を次のように定めました。各部長には、これに対応する業務目標とその取り組みの計画*5を、関連部門と調整して策定して頂きたい。これら方針、目標の達成は容易ではありませんが、今年も実りの多い年となるよう皆さんのご努力#2をお願いいたします。
 
  組織主導の規格解釈では、規格の規定の「・・・・・・・しなければならない」で何をすればよいのかと実務に無関係な無駄な仕事を作るのではなく、それは今行っている実務の何に相当するのかを考え、それを規定の意図に沿って必要なら見直すことでよい。
このページの先頭へ H28.1.27

111. 組織主導の規格解釈の必要を暗示する国内委員会15年版解説    −組織主導の規格解釈(9)
  日本では 改訂版執筆に参加したTC176国内委員会の山田秀/須田晋介氏のISO9001の2015年版の改訂説明資料*1では、5.1.1 c)項(リーダーシップ及びコミットメント)の規定「組織の事業プロセスへの品質マネジメントシステムの要求事項の統合を確実にする」の解釈が披瀝されている。同項を新規な規定とし、その解釈がこれだという説明には同意できないが、説明の内容そのものは失礼ながら正しい。
 
@ 手順の文書化の形と認証審査の受け方
  中でも特筆すべきは、手順の文書化の形と認証審査の受け方についての次の説明であり、組織の実務の現実と合致しているという点で、文句のつけようのない適切な説明である。
 
− 例えば設計プロセス、製品実現プロセスなどにおいて、プロセスを記述したやり方の中に、この規格の要求事項が確実に含まれている状態でなければならない。この規格の要求事項への適合を示すには、事業プロセスのやり方を規定している文書化した情報から、この規格の要求事項に関連する部分のみを抜き出し、それを提示する。
   
  両氏の説明の「事業プロセスのやり方を規定している文書化した情報」を例えば、ある業務の作業方法を規定する手順書であるとすると、組織の実務ではこれと別に同じ業務に関する品質手順書、環境手順書、或いは、労働安全手順書が作成されているようなことはあり得ない。従って、ISO9001、ISO14001等のどの認証審査でもそれぞれの規格適合性に係わる質問には、ある同じ作業に関する限りは、その作業手順書のそれぞれの規定に該当するページの記述を提示することになる。両氏の説明の通りである。
 
  例えば、ドリルによる穿孔作業の手順書には、素材の固定、ドリルの取付け、回転速度の設定の方法など作業方法が規定されているだけでなく、素材材質別のドリル種別、回転速度や送り速度などの品質のための基準、潤滑油の回収や切り屑の処理など環境管理のための方法、回転ドリルとの接触や切り屑取扱いによる負傷防止のための安全対策の方法等々、要員が遵守しなければならないことはすべて規定されている。これらが別々の手順書に書かれていては実務では使い物にならない。ISO9001認証審査では、この手順書の品質のための基準が書かれているページを探して審査員に見せる。
 
A 二重帳簿的文書化の現実
  また、 両氏の説明では次のような表現で、今日のISO9001の導入組織の文書化の実態を実務の「事業プロセスのやり方を規定している文書化した情報」とは別物になっている、つまり、いわゆる二重帳簿になっているとみなされているが、これも一理ある。
 
− 適合を示す目的だけのための文書化した情報を作成するのは、事業プロセスへ統合されているとは言い難い。
 
  なぜなら、多くの組織で、ISO9001の規定に従って一連の文書を「品質文書」として作成し、例えばISO14001の環境文書とも別建ての文書として管理し、或いは、手順書の記述も合わせて1冊にまとめた薄い品質マニュアルも存在するなど、認証審査にしか使われていない「事業プロセスのやり方を規定している文書化した情報」とは異なる文書が存在するからである。また、08年版の認証組織は6種類の「手順書」を持っているが、それらが品質保証の問題だけを取り扱っている状況は、両氏の指摘の二重帳簿的文書化そのものであろう。
 
B 事業プロセスを主体に考える
  両氏の説明では、二重帳簿的文書化を行わないために次のことが必要と説明されているが、これも規格というもの性格に正しく立脚した規格解釈の原則として当を得た考え方である。
 
― この規格の要求事項を主体に考えるのではなく、事業プロセスを主体に考える
 
  すなわち、JIS和訳「要求事項」は規格作成者の想いで決められた組織への要求ではなく、世界ではこのように優れた品質経営が行われているという規格作成者の認識の披瀝であり、これに習って事業を発展させたい組織の顧客満足追求に係わる経営活動の在り方を、関連業務と実行のための必要条件として表すものであるからである。従って、規格が要求しているから何かをしなければないと考えるのではなく、「要求事項」は組織のどの業務に対する指針なのかを考えるというような規格取組みでなければならない。
 
  例えば、二重帳簿的文書になっている上記の6種類の手順書の場合は、「手順を文書に表す」が意図された“documented procedures”との英語を「手順書」とする規格/認証関連機関の解釈を、組織が自らの必要と実務の実態より優先させて受け入れた結果であり、他の二重帳簿的文書化もすべて認証審査用に「要求事項を主体に考えた」結果である。
 
C 品質マネジメントシステムの狙い
  さらに両氏の次のような説明の前半部分の規格の趣旨の再確認に関する部分の認識も適切である。
 
― 事業目的の達成のために品質マネジメントシステムが構築されるべきという意図を明示することで、品質マネジメントシステムの構築そのものが目的になるという形骸化した運用を防止するねらいがある
 
  規格は15年版でも1章(適用範囲)に規格が顧客満足の製品サービスを一貫して提供する能力を持つ組織であるための、及び、それを目指す組織にとっての必要条件を規定すると書かれているように、組織が規格を自らの業務に適用するのは、その事業を維持発展させることが目的である。しかし、これは規格解釈でも認証審査でもほとんど意識されていないのが現実であるから、両氏の説明はこの再確認を促すものとして意味がある。
 
D 総論
  このように両氏の説明内容は全体として、規格が顧客満足の追求の観点からの組織の存続発展を図るための効果的な業務実行の指針で示すものと理解しなければならないということであり、「要求事項」と呼ばれる規格の規定を自らの業務にどのように適用すれば組織のためになるのかという観点で、主体的に規格を解釈し、規定を業務実行に反映させるという、組織主導の規格取り組みが必要であるということであり、そうではない規格/認証関連機関による規定文面解釈に盲従することが「形骸化した品質マネジメントシステムの運用」という組織の役に立たない現状を招いたということを表している。意識的ではないのであろうが、規格/認証関連機関としては真実の異例な認識披瀝である。
 
*1:山田秀、須田晋介、ISO9001:2015規格改訂説明会、2015.10.1、日本規格協会
このページの先頭へ (H27.11.13)

110. 組織の実務を基礎とするISO9001 2015年版規格解釈   −組織主導の規格解釈(8)
  品質経営に係わる管理者の仕事は、事業活動の目標を達成するように決められた通りに業務が実行され決められた通りの業務結果を出すように担当部門の業務実行を管理することである。業務実行管理では、業務の実績を狙いの業務結果と比較評価して、実績が狙いの通りであればよしとし、そうでなければ処置を取ることが基本である。これを規格はパフォーマンス評価(9章)と改善(10章)の活動と呼んでいる。
 
  管理は、組織の存続発展のために必要な狙いの顧客満足の状態の確実な実現を図るために、一般に、(T)日々の生産活動、(U)月単位、(V)年度単位の3段階で行われている。(T)は狙いの業務結果が出ているかどうかの観点での個々の業務の生産現場で管理であり、 (U)は業績管理の観点で関連業務の実行が順調かどうかを判断する管理であり、 (V)はトップマネジメントが自ら年度末に当該年度全体を振り返り、(V-1)業績目標の達成の評価、(V-3)それに関連しての業務能力の評価と(V-4)事業環境の変化の評価を行い、この結果に基づいて (W)次年度の狙いの顧客満足の状態と必要な経営施策を決定する。これら決定は、次年度の年度業務方針と重点取組み事項として明確にされ、各部門の業務目標、業務目標計画書に展開し、手順書に定められたこれら以外の大多数の業務と合わせて決められた通りの結果が出るように(T)(U)(V)で実行を管理する。このような管理のPDCAサイクルを規格は継続的改善(10.3)と呼んでいる。
 
  15年版の新しい用語や表現の数々を文言だけで捉えて、新しい要求だとか、08年版から変わったとして解釈が披瀝されているが、例えば次のような用語、規定表現は、上記のような管理者の通常の仕事を規格の論理と言葉で表すのに用いられているに過ぎない。
 
  パフォーマンス(3.13)、パフォーマンス評価(9.1.1)、パフォーマンス指標(4.4.1)、品質マネジメントシステムのパフォーマンス(10.3)、分析及び評価(9.1.3)、品質目標及びそれを達成するための計画策定(6.2)、リスクと機会への取組み(6.1.2)、トップマネジメントは品質マネジメントシステムが意図した結果を達成することを確実にする(5.1.1)、品質マネジメントシステムに必要な関連する機能、階層及びプロセスの品質目標を確立する(6.2.1)、品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える外部及び内部の課題を明確にする(4.1)、品質マネジメントシステムに密接に関連する利害関係者の要求事項を明確にする(4.2)、4.1に規定する課題及び4.2に規定する要求事項を考慮しての取り組む必要のあるリスクと機会を決定する(6.1.1)、状況に対して適切な品質方針を維持する(5.2.1)。また、08年版にも存在した、品質目標(3.08)、判断基準(4.4.1)、適合(3.18)、不適合(3.19)、修正、是正処置(10.2)、検証(8.6)、品質マネジメントシステム(4.4)、品質マネジメントシステムの計画(6.1.1)、08年版の管理責任者の役割(5.3)、コミュニケーション(7.4)、顧客満足の受けとめ方の情報(9.1.2)、マネジメントレビュー(9.3)、マネジメント レビューへのインプット(9.3.1)、マネジメントレビューからのアウトプット(9.3.3)、
 
  規格の規定の文言から何をしなければならないかを考える規格解釈ではなく、組織の管理者の現実の仕事の仕方に規定の意図を当てはめるという本来の規格解釈を行うならば、2015年版への移行作業はしないのも同然で済む。しかも、これが2005年改訂の趣旨に合致し、ISO9001が役に立つ規格となる。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-110>

109. 組織の実務を基礎とする規格解釈  −組織主導の規格解釈(7)
   規格が役に立たないという認証取得組織に蔓延している不満の原因は、認証業界による文字面解釈に盲従しているからである。そもそも規格とは作り出されるものではなく、ある物又はある事柄が世の中に様々な姿や形で存在するのを整理し、平均的で適切な姿、形を決め、これを標準とみなそうという当該分野内部の合意である。ISO9001/14001規格は、製品の顧客満足/地球環境保全の点で顧客や利害関係者或いは社会の必要や期待に沿って事業活動を行ったことにより認められ信頼されて存続発展して来た世界の多くの組織の経営管理の様々な仕事のしかたの中から共通的で優れた考え方と方法論を抽出、整理して規定という形で表したものである。認証業界や規格作成者の15年版改定解釈の説明で透けて見えるのは、この認識の欠如であり、自分達が規定を作りだしたという思い違いである。
 
  さらに、規格のこの性格に照らすと、認証登録の有無によらず現実に世界の多くの組織が全部ではないとしても規格の規定の考え方や方法論に従って品質/環境経営を行なっているになる。特に日本の組織はそうだと考えてよい。そうでなければこの品質競争の激しい、公害に厳しい国では生き残れないからであり、規格の考え方や方法論は1970〜1980年代の日本の輸出企業の実践したものが基礎になっており、これらは日本の製造業には系列関係を通じて隅々まで浸透しているからである。
 
  従って、日本の組織の規格解釈は、規定の用語や文章は当該組織で行なっているどのような仕事に関係し、規格はそれをどのように行なうべきと言っているのか、それは顧客や利害関係者或いは社会に認められるために、或いは、効果的な品質/環境経営であるために、或いは、狙いの品質/環境業績の実現を確実にすることに、どのように関係するのか、なぜ必要なのかを考えることでなければならない。
 
  この規定はこの仕事のしかた、この管理のやりかたについて言っているとわかり、この仕事はこれが目的だったのかとわかると、規定の趣旨に照らして、今のままでよい、これはやめてよい、或いは、このように変えなかければならないということになる。規定に対応する仕事が全く存在しないなら尚更、それがなぜ必要かを納得するまで考えることが、無駄な仕事を作って大変大変と嘆かないために必要である。
 
  例えば、マネジメントレビューという規定に関して、毎日やるべきだ、毎月の品質/環境会議を活用してもよい、何回かに分けて行なってもよいというような解釈論議が未だにかまびすかしい。しかし、どの規模の組織でも期末には決算を行うし、経営者主宰の品質問題に関する月例会議をもっている組織では、期末のこの会議では1年を振り返って、各種の目標が達成されたか、どんな問題があったか、次年度に取り組むべき課題は何か等の議論が行なわれる。これらが規格ではマネジメントレビューと表現されている。組織はこれらのやりかたを規定の趣旨に沿って見直せばよい。
 
  決算では収益の確定と合わせて、経営者の頭の中の思考だけであれ、系統的分析データを用いた検討であれ、目標収益達成を評価し、差異の原因を分析して、その背景の業務実績と顧客の満足実態を把握し、これと経済情勢、顧客や市場の動向など次期の事情の予測とを照らし合わせて、次期の売上と原価に係わる成り行きを予測し、とり得る対応をとることにより可能な売上と原価の狙いとその差としての収益目標を決め、とるべき対応としての経営施策の腹積もりをする。目標達成の評価と差異原因分析が「c) 品質パフォーマンスの情報」、次期の事情の予測が「b) 外部及び内部の事情の変化」、対応する必要があると判断される成り行きが「取り組む必要のあるリスクと期待」(6.1項)、腹積もりした経営施策がマネジメントレビューからのアウトプット(9.3.2項)と表現されている。
 
  規格を役にたつものとするには、規格の元が組織で実際に行なわれている経営管理の活動にあり、日本の認証取得組織のすべては既にISO9001の規定に沿って業務を行なっていると考えて、規定は組織に役立つものとの認識の下に、規定に該当する既存の業務のやり方を見直すという、組織主導の規格解釈、規格導入でなければならない。
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108. 2015年版改訂解説における文字面解釈  −組織主導の規格解釈(6)
   規格の規定は、効果的な品質/環境経営<品質/環境マネジメント>の在り方を組織がそれに則って業務を行なうべき必要条件として示している。規定の文章、つまり、条文の本質はその意図であり、文章は意図を正しく伝えようとする規格執筆者の表現力の問題に過ぎない。ほとんど全面的に条文が変わった15年版にもかかわらず、どの改訂解説でも全面改訂とは言われずに改訂点はこれとこれというような説明がされているのは、解説が文章の変更すなわち意図の変更ではないとの理解に立つからである。それでもほぼ出揃った認証業界の改訂解説は条文の文章の変更を捉えて規格の意図が変わったとする文字面解釈の披瀝ばかりである。
 
  規定の文字面解釈は今日のISO規格取り組みを組織には実利のない認証ゲームに堕さしめている根本原因のひとつである。例えば、ISO14001認証審査では関連法規制の改訂を把握する手順が厳しく点検されるが、ISO9001では法規制の有無の質問だけである。これはISO14001では法規制を『特定し、参照する手順を確立すること』と書かかれているのに、ISO9001では『明確にしなければならない』だけであるからである。しかし、組織の健全な発展には法規制遵守が不可欠というのが規定の意図であり、組織が法規制を遵守するためにはその改訂把握手順の確立は欠かせない。
 
  また、ISO9001審査では計測器の校正不合格の場合に過去の製品をどうするのかの手順が聞かれるが、ISO14001では聞かれない。これも、ISO9001には『測定機器が要求事項に適合していないことが判明した場合には・・・』との規定があるのにISO14001には存在しないからであるが、正しくない測定値で合否の判断をして規制違反の排水を出せば社会から指弾される。校正とはこのような問題を起こさないための計測器管理手法であるのだから、ISO14001の『校正された監視及び計測機器』の規定には、校正不合格発生時には必要な処置をとるということが当然に含まれている。
 
  15年版ISO9001/14001の改訂点に関する認証業界の見解では、例えば、次の@〜Cの用語や表現が15年版で登場したことを以て、規格の要求が新たに追加され変わったと主張されている。しかし主張では、プロセスアプローチ/PDCAサイクルに依拠する規格構造、用語の定義、品質マネジメントの原則及びTC176/TC207による説明文書のいずれからも、これら事項に関連する規格の論理の変化を示すものがないという事実が見落とされている。規格の意図が変わったという主張は典型的な文字面解釈の所以であり、実際は表現の変更に過ぎないのである。
 
@ 組織の外部と内部の課題、及び、利害関係者のニーズと期待の決定
A リスクと機会の決定、及び、それらへの取り組みの計画
B 事業プロセスへの品質/環境マネジメントシステム要求事項の統合
C 品質/環境パフォーマンスの評価、及び、品質/環境マネジメントシステムの有効性の評価
 
  すなわち、@は現行の『品質マネジメントシステムに影響を及ぼす可能性のある変更』(5.6.2 f)項)、『変化している周囲の状況』(4.6g)項)の経営用語を用いた言い換えであり、Aは品質目標/環境目的、目標の決定と品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項/実施計画(4.3.3項)を『リスク及び機会の決定』『リスク及び機会への取り組みの計画』と言い換えているだけである。Bは現行ISO9001(5.1項)の『品質マネジメントシステムの構築及び実施並びにその有効性の継続的改善』というトップマネジメントの責任を具体的に記述したに過ぎない。Cは普通の業務実行管理の方法論の規格の論理と用語を用いた表現であり、『a)、b)、c)のために必要となる監視、測定、分析を実施しなければならない』(8.1項)と、『著しい環境影響を…特性を定常的に監視及び測定するための手順を実施しなければならない。この手順には、パフォーマンスァ・・・を監視するための情報の文書化を含めなければならない』(4.5.1項)の言い換えである。
 
  さらに基本的に、同じ意図の規定なら同じ文章で表そうという趣旨の共通テキスト導入による@〜Cを含む用語や条文が現行規格の条文と異なることを以て、新要求事項だとか、改訂点だとか言うことは間違っており、文字面解釈に他ならないのである。
 
  文字面解釈による改訂解説では、例えば、内部と外部の課題、リスクと機会、それらへの取り組みの一覧表や計画書などが必要とされている。組織が登録証を維持するためにこれまで無くても特段の問題がなく、どのような効用が得られるのか明確でない新しい形式的業務を行い、文書をつくらされることになるのを避けるためには、組織の実務の必要に照らした主体的な規格解釈が必要である。
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107. 組織に由来するISOマネジメントシステム規格であれば−組織主導の規格解釈(5)
   日本では「人民の、人民による、人民のための政治」が米国の大統領リンカーンの言葉であり、その英語が“government of the people, by the people, for the people”であることを知っている人は多い。しかし、考えてみると、「人民による政治」「人民のための政治」は理解できても「人民の政治」となるともうひとつ意味がわからない。あまりに有名過ぎて永年改めて人に聞くのも憚れてきたが、インターネットの閲覧中にこの疑問を晴らすサイトを見つけた。「マイエッセイのページ」という標題のウェブサイトの「リンカーンのゲティスバーグ演説」のページである(http://www7.plala.or.jp/machikun/rincoln.htm)。
 
  これによると、「人民の」の“of”はラテン系言語の前置詞“de”と同義語であり、「〜に由来する」「〜から出自する」という意味もあるから、「人民の」は本来「人民に由来する」と和訳すべきであったと説明されている。そう言われてOxford Advancement Learner’s Dictionaryを引くと、“of”の意味が13に分類されて記述されており、その1は「〜に属する、〜に関係する」という意味で、「モネの絵(paintings of Monet)」が例として挙げられ、その4は「〜に関する、〜を示す」であり、「犬の写真(a photo of my dog)」が例に挙げられている。どちらも“of”も「の」だと何となく思っていたが、前者の「の」は「モネが描いた絵」であり、後者の「の」は「犬が写っている写真」であり、意味は大違いである。後者の「の」がウェブサイトの教える「〜に由来する」なのであろう。
 
  ともかく、このウェブサイトの適切な説明で「人民の」の意味に合点がいったのである。それなら単に「人民に由来する、人民による、人民のための政治」というよりは、「人民に由来するが故に、人民による、人民のための政治でなければならない」という方が、リンカーンの言いたかったことに合うのではないかと思われるのである。
 
  ところで著者は、ISOマネジメントシステム規格に関するコンサルティング業務における基本姿勢として「審査指摘に引きずられない 組織の利益を目指した主体的規格取組みを支援」を掲げている。この主張は、規格作成とは現存する多様なものをひとつに標準化することであり、ISOマネジメントシステム規格は世界の組織が現に行なっているそれぞれの、従って多様な経営管理活動の基本的方法論をひとつに標準化したものであるという事実に基づいている。
 
  従って、「審査指摘に引きずられない 組織の利益を目指した主体的規格取組み」の趣旨は、リンカーンの言葉の「人民」を「組織」に、「政治」を「ISOマネジメントシステム規格取り組み」に置き換えると明確になる。すなわち、「組織に由来するが故に、組織による、組織のためのISOマネジメントシステム規格取り組みでなければならない」である。しかし現実は「組織に由来するのだが、認証業界による認証業界のためのISOマネジメントシステム規格解釈を押しつけられている」であり、海外でもこの傾向が強まっている。国内委員会の2015年版の改訂説明を読むにつけ、ISO9001規格とその認証制度が無用化の速度をさらに速めようとしている感がする。
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106.  ISO9001/14001 2015年版改訂解釈は認証組織の利益に資するものとなっているか  
                                        −組織主導の規格解釈(4)
   ISO9001/14001の2015年版改訂作業は、11月1日現在それぞれDIS版承認、DIS版投票の段階まで進み、両DIS版の解釈の解説ではいつもの改訂と同じく“変わった変わった”の大合唱である。
 
  しかし、ほとんどどの解説も細かな条文記述の変更を取り上げての解釈の説明であり、そのような変更と推奨される対応処置がどのように規格の有用性の改善に繋がるのかの根拠ある説明がない。日本では解釈を主導するのは各規格執筆に参画するそれぞれの国内委員会であるが、これらの解釈説明にも、これが現行規格の問題でありこのように改訂することが必要であるとして決めたTC176,TC207の各規格改訂方針*1*2のどれにどのように関係しているかの説明が全くない。認証機関もこぞってその登録組織に対して改訂説明を行っているようだが、“ここが変わった、このように審査する”の説明だけで、それがどのように品質/環境に関する登録組織への顧客や社会の信頼を高めることに繋がるのかの説明は知る限りにおいてはない。
 
  これら“変わった変わった”という多数の解説に根拠が希薄であることは、改訂版に導入されたSL共通テキストに関係する条項、条文を主要な改訂点として説明していることにも現れている。SL共通テキストとはその名の通り、多数のISOマネジメントシステム規格で同じ趣旨、同じ意味の規定<要求事項>が違った表現の文章で記述されているのを複数規格を使用する組織の便宜のために共通の言葉、文章で表したものである。従って、共通テキスト採用のために生じた現行規格との表現の差異を以て改訂版の規定が“変わった”とする解釈は、基本的に誤りであり、根拠のないひとりよがりの解釈ということである。つまり、“変わった”と言うための改訂解釈の感がする。
 
  このように“変わった変わった”という改訂版解釈においては、規格使用者である認証取得組織の規格適用と認証取得による利益が忘れられている。 その遠い前身の米国防省の品質保証規格制定理由を引用するまでもなく、ISO9001/14001規格は組織の品質・顧客満足/公害・地球環境保全の実績と能力を顧客や社会に認めてもらうための道筋を示すものであり、組織が無限持続体としての存続発展を追求するための世界の成功組織に学んで整理した論理と要件が規定されている。従って、規格の規定の改訂解釈の中の“変わった”“組織はこうしなければならない”というのは、それが組織の存続発展にどのように役立つのかの観点の説明が伴わなければならない。それがない改訂解釈は、組織に利益にならないことをやれということに等しい。
 
  このような“規格の要求はこう変わった”“組織はこのように対応しなければならない”だけの説明がまかり通り、組織が素直に受け入れるのは、規格を認証機関による登録証授与基準とみなす潜在意識と、顧客の要求だからしかたないとしての認証取得が蔓延しているからであろう。“変わった変わった”だけの解釈解説は、それによって移行のための特別な認証審査の機会を得、規格書が売れ、講習会に人を集め、解説書が書かれ、移行コンサルティングを受注するという認証業界の利益に資するだけである。
 
  ISO9001/14001規格が認証ビジネスの道具視される傾向が強まっているのは、欧米諸国においても同じようである。2015年改訂版の執筆作業への認証機関の関与の大きさは、例えば、執筆作業が英国の規格作成及び認証機関BSIの強い影響下にあるという証明されていない批判*3があること、英国の認証機関LRQAが改訂作業の進捗に関する情報を逐次真っ先にウェブサイトに発表してきた*4こと、改訂作業に使用者たる組織の意見が反映されていないとするカナダのISO14001国内委員会の批判論文*5では、使用者側の改訂執筆参画者の割合が初版と04年版の50%から今改訂では最大でも13%に低下していると指摘されていること等から判断することができる。
 
  カナダのISO14001国内委員会*5は、CD2反対投票の理由としてSL高位構造と共通テキストの不必要な採用により不況下の組織に移行のための莫大な費用を負わせることになることを挙げ、米国のISO9001国内委員会*6は、共通テキスト化のためにISO9001固有の規定が削除されたことがDIS版投票に反対する理由であることを公表している。どちらも明言はされてないが、SL高位構造・共通テキスト・共通定義の制定が認証業界の利益に通じても使用者たる認証組織の利益にはならず、この導入のための規格改訂は認証業界の利益になっても組織に不必要な負担を強いるものでしかないとの考えで共通していると判断される。
 
  筆者は先に日本の認証業界を年間3000億円の組織の浪費で成り立つ必要悪産業*7と揶揄したが、前記のカナダ国内委員会論文*5では組織が1999~2013年の規格実践と認証に使った費用を10億ドル(1000億円)とし、DIS版に見られる改訂がこれに上積みされる費用に見合うものかどうかという疑問を提起している。更に、規格を導入しても認証を受けていない組織があるが、そのことを「完全に容認できる選択肢である」とまで言い切っている。
 
  ISO9001は1980年前後の日本の輝かしい時代をつくった原動力としての効果的、実践的な品質経営管理の在り方を表し、この論理と手法が経営論と結びつけられて整理され規定として記述されている。また、組織の経営管理の業務の規格適合性が、購買先として信頼に足る組織であるかどうかの顧客の判断基準になるという考え方の適切さは、品質保証規格が米欧で連綿と引き継がれ発展してISO規格認証制度になったという歴史で実証されている。
 
  今日の日本でISO9001/14001が必要悪として組織や社会から尊敬されていないのは、規格解釈と認証審査の在り方が間違っているからである。産業界の発展のためにはISO9001/14001規格解釈と認証審査の在り方を原点に戻すことが必要であり、そのことが認証業界の永続的な存続発展に繋がるのである。原点とは、国内委員会は規定の趣旨と改訂の理由を説明し、組織は自らの事業を発展させるという観点で規定<要求事項>を解釈し、認証機関は組織が狙いとする顧客満足/環境保全を実現できるかどうかを規定<要求事項>の適合性評価を通じて判断するという三者の役割分担が基礎となる。
 
   
*1:ISO中央事務局、News, Ref.:1633, 28 August 2012
*2:The Future Challenge for EMS, Report of the future challenge for EMS task force to ISO/TC207/SC1
*3:OQRI、ISO DIS 9001 Gets Approved, Proceeds to FDIS Stage, News, Oct 29, 2014
*4:LRQA ISO Standards Updates: Progress from Padua - ISO 14001 Timelines Defined、 Mar. 4, 2014など
*5:L. Johannson、GLOBE Foundation, The Revision of ISO 14001: the fat lady is not singing yet
*6:S. Liebesman、CERCERM RISK INSIGHTS、Risk Management in the 2015 Revision of ISO9001:2008, September 11 2013
*7:MS実務の視点ウェブサイト、中露になめられる日本−「ISO思考停止症」との関係は? H22.12.10
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105. 品質方針、環境方針の作成    組織主導の規格解釈(3)  
   認証取得組織は、品質方針、環境方針を明確にし、組織内で理解されていることを確実にしなければならない(5.3項/4.2項)。
 
  ここに、品質方針とは、『トップマネジメントによって正式に表明された品質に関する組織の全体的な意図及び方向づけ』と定義されるが、実務的には組織の経営戦略(経営方針)の一部としての顧客満足のあるべき姿とそこに到達するための道筋を示すものである。そして、顧客満足とは不良品を出さないことを含み、顧客に製品及びサービスを買ってもらう又は取引を続けてもらうために顧客に抱いてもらう必要がある組織と製品及びサービスに対する好感、満足感、安心感、信頼感等の状態や程度のことである。
 
   つまり、品質方針は、製品と組織に対する顧客の評価という観点でどのように顧客に気に入られ信頼される組織にしたいのかに関するトップマネジメントの想いと考えを表し、要員が製品と顧客対応に関係する業務をどのように行うべきかに関する全般的指針である。
   
    製造業で単純なミスにより不良品を出し、接客業で客を怒らせ、劇場で切符を二重販売したことを知ったトップマネジメントが当該要員を詰問したとすれば、そのような顧客対応がトップマネジメントの想いに反することだからである。顧客幹部から納期変更で無理を聞いてもらったとの感謝の言葉を聞いたトップマネジメントが担当者を褒めるかやり過ぎと諫めるかは、顧客とどのような関係を築きたいのかのトップマネジメントの想いに依存する。
 
  不良品の苦情を受け付けた場合、トップマネジメント主導で対応する、品質保証部門が対応し適宜トップマネジメントに報告する、トップマネジメントは重大苦情にのみ関与する、全く担当者任せである、毎月苦情統計がトップマネジメントに報告される等々、同じ規模同じ業種で組織によって異なるというのは組織の規模にもよるが、基本的には不良品を出さない、顧客に気に入って貰うということに関しての トップマネジメントの考え方に違いがあるからである。
 
  これらの事例はいずれも、トップマネジメントには顧客に製品を買い又は取引を続けてもらうためにどのような顧客満足の状態を目指す必要があるのかということに関して一定の想いや考えがあり、それに基づいて組織の業務を方向づけ、統制しているということを意味している。
 
  また、毎月の業務実績検討の会議で月別苦情発生推移や苦情再発防止対策が議論され、納期遅延や注文を断ったことが報告され、顧客による立ち入り監査結果や顧客訪問で得た情報が話題となっているなら、顧客に不良品を出さない、迷惑をかけない、顧客の想いに応えるという観点に関するトップマネジメントに想いが明確であり、それが関係者で理解されて共通認識となっていることを意味する。つまり、品質方針が要員に周知されているということである。
 
  すなわち、どの組織でもISO9001の意図の品質方針が存在する。問題は、このような品質方針の存在がトップマネジメントにも組織の要員にも意識されていないことであり、紙に書かれていないのでトップマネジメントの想いに対する人々による理解が不正確で、様々であろうということである。
 
  認証取得しようとする組織にとって品質方針の明確化と要員への周知徹底とは、トップマネジメントの頭の中をもう一度整理してその想いを体系的に表現し、紙に書き、人々の頭の中の認識とすり合わせをすることである。ISO9001認証取得組織は厳しい品質競争を生き延びて発展してきた組織であり、下請け型組織でその顧客から認証取得を要望されたとすれば今後も取引を継続したいとの意志表示であり、それまでのトップマネジメントの想いの品質方針が正しかったということである。それを明確にし、それに向けて全員の力を結集することによって、組織の存続発展をより確実なものとすることができる。
 
  環境方針の明確化と組織内での周知徹底(4.2項)も、上記の「顧客満足」を公害防止を含む地球環境保全に、「顧客」を利害関係者に、「製品を買ってもらう」はもっと広く「組織の存続維持が許される」にそれぞれ置き換えて対応すればよい。但し、品質方針と違ってトップマネジメントの想いの環境方針がISO14001の意図の内容(4.2 a)項)に不十分な場合も少なくないと思われるから、トップマネジメントの頭の中の整理に加えて、ISO14001認証取得の理由、例えば顧客がなぜ認証取得を求めてきたのかということを考えて、環境方針を確立することが必要になると思われる。
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104. 規定条文の正しい読み方、10の留意事項  組織主導の規格解釈(2)
   ISO9001認証組織の大半が規格と認証制度に不満を抱く今日の状況は、認証業界主導の誤った規格理解と条文解釈に組織が盲従していることに起因する。ISO9001/14001は、顧客など利害関係者から信頼され認められる品質/環境優良組織であるための組織の仕事のしかたの必要条件を規定している。組織がこれを満たして仕事をすれば事業活動が支持され、必要又は希望する売上をあげることに繋がり、事業の継続的維持発展が可能となる。これがISO9001/14001実践の効用である。
 
  この規格実践の効用を得んとするなら、組織が効用を自分の利益に係わることとして主体的に規格解釈を行うことがまず第一に必要である。その根本は、規定の条文を認証取得のための規格の要求ではなく、品質/環境優良組織であるための仕事のしかたの必要条件と認識することである。すべての条文は、狙いの品質/環境優良組織であるためになぜそのようでなければならないのか、それは組織の実際の仕事ではどのようなことに相当するのかという観点で読み解くことでなければならない。
 
  このように正しく条文を読み解くためには、規格の規定と条文表現に関する次の特質、10の留意事項を念頭に置くことが必要である。規定条文『〜しなければならない』は、次のような意味で『〜しなければならない』と書かれている。
(1) 規定は要求ではなく、必要条件を意味する
(2) 規定は具体的な方法・手法ではなく、論理と方法論を意味する
(3) 規定は規格独自の考え方ではなく、産業界で普遍的な論理と方法論に沿って書かれている
(4) 規格では方法論は必要に応じてしか規定されていない
(5) 規定は規格独特の用語、文章表現で書かれている
(6) 規定は効率性、収益性との均衡を前提に書かれている
(7) 条文の文章と規格の意図の必要条件とは別物
(8) 条文の意図は異なる条項の条文と合わせて汲み取れるように書かれている
(9) 条項の段落構造には意味がある
(10) JIS和訳文には問題が多い
 
  このように条文を真剣に読むと、多くの『〜しなければならない』に対応する自らの考え方や手順や手法が存在することに気付く組織が多いはずだ。このように気付いたとすれば、正しい規格解釈をしていると思ってよい。なぜなら規格とは創作物ではなく、世界の組織が実践する品質/環境優良組織であるための論理と方法論の優れたものを集約し整理したものであるからである。その中心は1980年前後の製造業の大企業を中心とする日本流の仕事のしかたであるから、とりわけ製造業の組織には思い当たるところが多いと思われる。
このページの先頭へ 詳しくは<ISO9001:62a-01-104a; ISO14001:62a-01-104b

103. ISO9001/ISO14001 2015年版、組織主導の規格解釈の勧め
                   −改定版移行の無用で無益な作業負荷の軽減のために
   今日ISO9001/ISO14001認証組織の大半が効用を実感できず過大な負担と不満を感じている。これは規格を正しく実践していないからである。この原因の根本は、規格作成の目的や狙い、規格の論理、条文の意図を顧みない誤った規格理解と条文解釈であり、認証組織がこれに盲従していることである。
 
  この規格解釈の傾向は2015年版改定説明でも同じで、例えば論理の明示的表現に過ぎない共通テキスト化に伴う新条項・条文も重要な改定点扱いをされている。組織が無用で無益な大きな変更を迫られる可能性が高い。
 
  この改定版移行作業の無駄を避けたい組織には自分の問題として主体的に規格解釈に取り組むことを勧めたい。規格導入の効用を実感できるためにもこれしかない。
このページの先頭へ 詳しくは<ISO9001:62a-01-103a; ISO14001:62a-01-103b>

103‐1. 事務局の無駄と害  
  ISO9001/14001認証取得組織のほとんどが ISO事務局という組織を組織図の中に位置づけている。その役割は認証の維持であり、仕事はそのために必要な業務と社内のとりまとめである。この名目で、審査対応をはじめ、内部監査の実行管理から手順書の改定、配布から供給者の評価まで広い業務を担っている。
 
 規格の『責任及び権限』の規定(5.5.1/4.4.1項)は、実質的に機能部門から成る組織構造を前提とし、規格の規定するすべての業務をいずれかの部門の業務として割り振ることを指す。品質保証/環境管理で組織の発展を目指す組織は、組織構造がないならこれを造り上げ、あっても部門の責任権限の範囲が不明確なら明確にしなければならない。
  
 部門の機能ないし責任権限の範囲を実務に即して明確にすれば、事務局に担わしている業務が本来はどの部門の担当業務であるかすぐわかる。例えば、品質保証/環境管理の責任をどの部門に委ねるのかを明確にすれば、審査対応を初め事務局業務の大半はそれら部門の担うべき業務となる。また、部門の機能を遂行することに付随する業務を各部門の固有の業務としての位置づけを明確にすれば、手順書の発行を事務局が担うことのおかしさが明白になる。
 
 組織構造を確立し各部門の役割を明確にすれば、事務局という組織を設ける必要はなくなる。代わりに、各部門は マニュアル に記載されたいわゆるISO業務を、担当する他の実務と一体となって行うことになり、二重帳簿と揶揄される実務とISO業務の解離が消滅する。これが規格導入の本来の姿であり、この状況でトップマネジメントが品質保証/環境管理の強化の必要に気づき、その実現を目指せば、役に立つ規格、認証制度ということになる。
 
 また、事務局として雑多な業務を担当する要員には何年経っても組織の事業に必要な専門性の向上を期待できない。事務局を廃止し、要員を専門性に応じて品質保証なり環境管理なり、或いは、他の部門に戻して、その部門業務の一環としていわゆるISO業務をも取り扱わせるようにすることで、それぞれの部門業務の専門性を伸ばしていくことができる。現実には、事務局経験を積んだ後に審査員やコンサルタントに転ずる向きが少なくない。これらの人々が事務局体制下のISO業務という考えや経験の上に立って仕事をするとするならば、実務と遊離して役に立たないと言われる規格や認証制度の現状をさらに固定することに繋がる。
 
 審査員さえ要求しない事務局が置かれているのは、組織がISOマネジメント システムを日常業務とは別の品質/環境改善運動の形式と認識し、この実行がISO規格の導入や登録証取得の意味であると誤解している証拠である。しかし、事務局は規格の意図ではなく、組織の経営にとって無駄であるだけでなく、害の要素も小さくないのである。さらに、健全なISO認証制度にとって害毒にもなる危険さえはらんでいる。
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102. 日常点検表の管理者承認印−百害あって一利なしの形式
   定められ方法や条件の通りに要員に業務を行わせる管理の方式として、点検・確認項目を定めその実行の○印やレ点を記入させるチェックリスト方式の様々な日常点検表が用いられている。多くの場合、この書式には右上部に管理者の承認印欄がある。1週間や1ケ月分の点検・確認実績が記入された日常点検表は現場から回収され、管理者の押印の後にファイルに保管される。認証審査では日常点検表やその承認印欄がなくても不適合にはならないが、承認印の抜けは指摘事項となり、逆に整然としたファイルの存在は当該事項が管理されている証拠とみなしてもらえる。
 
  ISO9001/14001両規格に照らすと、この日常点検表は初めは点検・確認業務を指示する文書であり、○やレの記入が終わった後は業務実行報告書であり規格では記録文書である。管理者は記入済の日常点検表に押印するのであるから、押印は『文書が適切かどうか』を吟味承認する行為ではない。実体は忘れずに確認したという管理者の覚えである。規格は日常点検表の作成もこのような覚えの必要も明示的に規定していないから、審査員は軽々には押印を要求し、また、押印の抜けを指摘することはできないはずである。
 
  そもそも日常点検表は、あってはならない事項や状況があり得て、点検・確認でこれを検出除去しないと後に問題が発生する状況への対応手段である。管理者が日常点検表を確認するのは、点検・確認事項を決めていても担当者が実行しないことがそれなりにあるからに違いない。管理者が日常点検表を確認するのは問題の発生を防ぐのが目的である。それなら確認は定めた点検・確認の時刻の直後に行うべきである。1週間も1ケ月も後の、問題が起きてしまった後に確認しても意味がない。この無意味な管理の形式が疑問なく続けられているのは、実際に問題が起きていないからであろう。つまり、もともと問題が起きる可能性がないのであり、本当は点検・確認は必要がないのである。
 
  規格に則って業務を行う組織では、決められた点検・確認が抜けるというようなことは起きない。元来、組織における業務実行管理とは、決められた手順の通りに業務が実行されることが前提である。両規格のPDCA/プロセスアプローチの監視測定も、決められたことが守れないから、その実行を監視するというのではない。規格の監視測定は、統計的ばらつきのような人為的に制御できない手順の変動やその結果としての決められた結果からの逸脱を検出することである。規格の文書化、責任権限、要員の職務能力と認識、情報連絡、管理された状態での業務実行体制などの規定は、決められたことが確実に順守される状況を確立するための必要条件として書かれている。
 
  管理者は、日常点検表に○やレをつけさせ、これを監視するより先に、なぜ点検・確認をするという単純なことが易々と抜けてしまうのかに目を向けるべきなのである。そして、そうしないと本当の問題解決にはならないのであり、これが規格の規定の意図するところである。
 
  日常点検表とその管理者による事後承認の押印という管理の形式を、業界用語で『規格が要求している』とする解釈は誤りである。この形式には問題を起こしてはならないという管理者の責任意識が反映されておらず、考えればすぐわかることだが実務的にも問題発生の防止に意味がない。この形式を規格適合とすることは、担当者の意欲低下、管理者の責任意識の希薄化、審査員の安逸な指摘など各方面に悪影響を及ぼし、ISO9001/14001規格の価値を下げ、認証制度のいい加減さを助長する。最悪は、管理者の安直な思考や同様の空虚な管理の形式と無責任が、組織のあらゆる管理に拡がっていくことである。
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99.認証取得のために不要な業務や形式を押しつけられない方法
                        −品質保証体系図を例として
  ISO9001 4.1項a)、b)の品質マネジメント システムのプロセスと組織への適用、プロセスの順番と相互関係を『明確にする』という規定に対応して「品質保証体系図」の作成が必要という解釈が一般的である。これは『〜を明確にする』を紙に書いて明らかにすることだと解釈されたことによるが、『明確にする』の原文は"determine"であり、「決定する」である。規格が「紙に書きなさい」と言ってないのだから、そう誤解して必要だとされる「品質保証体系図」は規格の意図ではない。それに作成しても誰も見ない。
 
  それでもコンサルタントが作成を推奨し、審査員が作成は規格の"要求"であると言い、審査の指摘を恐れる組織は大したことではないとして作成する。「品質保証体系図」の作成自体は大したことはないが、審査員の言うがままに、どういう意味があるのかを考えないで審査の前に辻褄合わせをするだけの、実務に不必要な文書や形式を作って、ISOは役に立たないのに維持が大変だと不満を漏らす組織にとっては、その原点とも言うべき問題である。
 
  組織は自分の仕事だから自分の考えを持っていなければならない。そしてこれに合致しない指摘には審査員と議論しなければならない。「品質保証体系図」の作成が規格の"要求"だと信じて疑わない審査員には、まず、『明確にする』が文書化の意味でないとする規格書巻末の解説を挙げればよい。なお文書化にこだわるなら、規格の4.2.1項(文書化一般要求事項)の『プロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実に実施する』ために必要な文書の作成要否の判断は組織にあるとする規格の"要求"を持ち出せばよい。「明確にする」「決定する」の如何によらずその証拠が必要だと言われたら「品質マニュアルに明確にしています」と答えればよい。品質マニュアルとはa)品質マネジメント システムの範囲、つまり、プロセスが何と何かと、c)プロセス間の相互相関の記述を含み、組織の業務の規格適合性を記述した文書である。審査員が求める「品質保証体系図」のような形式がなくても「この要求事項を満たしている証拠があるか」との質問には品質マニュアルを核としてすべて対応できるのである。
 
  審査員の指摘がおかしいと感じたら、「これではダメですか」とお伺いするのでなく組織の考えを主張するのである。不必要と思うことをやらされないためには、審査の場で審査員に議論を吹っ掛ける知識と気概が必要である。その結果で組織と自分自身の仕事が楽になる。それに審査員と堂々議論する姿を見せれば、「なかなかやるじゃあないか」と上司からの評価が上がるかもしれない。部下の尊敬を集めることだけは確実である。
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92. 経営の役に立っていないISO内部監査  
   JX日鉱日石エネルギー(株)の水島精油所で30年間にもわたり、法で定められた煤塵測定をしないで測定したかに装った値を記録として残していたという不祥事が2/17に報じられた。会社として意図的な行為ではなく、社長としてはなぜこんなことがという想いなのであろう。このような場合一般に、日本では管理者教育や従業員を含めた法令順守教育を改めて行わなければならないとなり、欧米では内部監査を強化しなければならないということになる。
   
   ISO9001が西洋文化の押しつけという考えには賛成できないが、内部監査の必要の規定だけは西洋文明に関係していると言われれば同感である。しかしそれでも、この精油所はISO14001認証取得しているから、もう何度も内部監査をやってきた。内部監査とは、内部監査員が経営目標の達成の可否の観点から業務の遂行状況を検討評価して、経営者に意見を述べ、助言や勧告を行う活動である。ISO14001の内部監査では、経営目標は環境方針や目標に表された環境影響の管理の目標のことであり、関連する業務の実行状況の規格要求事項への適合性を検討評価して、目標通りの水準に環境影響を維持、改善できるのかどうか、あるいは、目標に反する水準の環境影響を出してしまうようなことはないかどうかを判断する。この精油所では公害型の環境影響である大気や水質の汚染が最も深刻な環境影響、つまり、著しい環境影響であるはずだから、煤塵排出の低減や管理は環境方針や目標に採り上げられた経営目標でなければならない。記事には大気汚染防止法や福山市との公害防止協定への違反と書かかれているから、煤塵の管理は法遵守の点からも、逸脱を許されない経営目標であったはずである。
   
   この度の問題露顕によって同精油所と責任者は法による制裁を受け、今後の県や市の監視が強化され、更には、地域住民や消費者からの評価も大きく低下し、エコを訴えるコマーシャルのための出費も無駄となってしまった。内部監査を行う目的からすると、逸脱するとこんなにも大きな損失を招くような経営目標の達成の可能性をどのように検討、評価して、経営者に大丈夫と報告してきたのかということが問われなければならない。法に規定される煤塵測定を行っていないという重大な業務実行の不適合を発見出来ずに、どんな不適合を見つけてきたのかということになる。経営の役に立たない内部監査が毎年繰り返されてきたのである。
   
   日本のISO9001やISO14001の内部監査は、認証審査で要求されているから行われているに過ぎない。その実態は、不祥事の種の不適合を検出できないという認証審査を真似た内部監査であり、審査員が求める形ではあるが、経営に役立つ内部監査ではない。しかし、折角の手間隙かけて行うのであるから、経営者を助け、経営に役立つ内部監査であるにこしたことはない。すなわち、ISO9001、14001の内部監査は、顧客満足の追求又は環境管理に関する経営目標を逸脱して組織の事業が痛手を被ることにならないようにするという一点に焦点を定めて行うべきである。このような内部監査こそが、規格の意図の内部監査であり、組織の利益になり、経営者が喜び、内部監査員自身も意味のある重要なことをやっているという喜びを実感できる。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-92>

90. 中露になめられる日本  −「ISO思考停止症」との関係は?
    尖閣列島問題で中国に居丈高に開き直られ、北方領土にはロシア大統領が無遠慮に足を踏み入れた。野党もメディアも政府の対応を非難するが、事態は日本の経済力に対する国際的評価を反映したものと受けとめるべきであろう。今や中露両国にとって日本の経済力は必要ではなく、従って国益を露骨に追求できる。日本は舐められているのである。筆者は6年前に管理者の「ISO思考停止症」を嘆いたが、今日これが経営者に拡がっていることが窺われる。されば、「ISO思考停止症」がひとりISO規格認証に留まらず経営全体に拡大し、経済沈滞の背景をなしているとも考えられる。
 
  ISO9001/14001の認証制度に関して、取得組織がその効用に満足していない状況は10年前も今日も同じである。JABの毎年の調査でも、効用に満足しているとの回答は半数前後であり、普通の製品ならとても売れるものではない顧客満足の水準である。また、回答からは認証取得の大半は顧客の要求が動機であることが明白である。JAB調査からは、費用に見合う効用は認められないが、必要悪として認証取得を継続しているという組織の姿が浮かび上がる。この必要悪の「必要」は、欧州輸出に必須、取引先が要求するであり、なぜ「悪」かというと、手間がかかるのに効用が実感できていないからであり、それは規格が西洋文明で日本には不向き、内容が幼稚で日本のTQCの方が優れている、基本的に日本叩きの西欧の陰謀であるからだと考えられている。最近の民間会社の調査では、取引先の要求がなければという条件では25%の組織が登録返上、又は、その検討をすると回答している。こちらの統計には、もうやめたいという位の必要悪であるという組織の本音が見える。
 
  一方、減少に転じたとはいえ、日本ではなおISO9001が4万件、ISO14001が2万件の認証登録がある。認証登録に関して組織が認証機関に支払う費用を年間100万円とすると、日本全体では600億円である。認証維持のために仕事に手間がかかるという不満を1人分の不要な仕事をしていると乱暴に仮定して人件費に換算すると2400億円である。今日の沈滞した経済状況の中で、かくも巨大な必要悪産業が存在を許され、必要悪の人件費が放置されている。聖域なきリストラを叫び、人の首を切りながら、さらに、効用への強い不満を持ちながらなお、世の常識を鵜呑みにするだけで必要悪の実体にメスをいれようとしない経営者も「ISO思考停止症」の患者である。
 
  管理者の「ISO思考停止症」には、物事を真剣に考えることをしないで、世評や定説に身を委ねる怠慢が原点だが、問題が首尾よくいかなくとも責任が身に降りかかってくることはないという保身の術に変質し易い。経営者の思考停止は、実はもうひとつの重要な「必要」を認識しての意識的なものかもしれない。すなわち、認証取得は、経営上に不首尾が生じた場合に「認証取得をしていたのに」と言い訳になり、逆に取得した登録証を放棄した場合、だから「売れない」「クレームが続く」「重大な品質事故が出た」というような批判に曝されるかもしれない。
 
  日本の高度成長の過程は、人々が目的志向で努力を惜しまない状況に対して、効率化を目的とする管理の枠組みが成熟していく過程でもあった。規則化と統制は一般に官僚主義、権威主義、形式主義に結びつき、失敗を恐れる保身主義を生み易い。管理者と経営者の「ISO思考停止症」が、この悪しき組織風土に根ざしたものであるとするならば、「思考停止症」はISOの品質、環境の両経営管理の分野に留まらず、組織の経営管理の全般に拡がっている可能性がある。11月28日付け日経新聞は経済の長期停滞の背景のひとつに「語らぬトップ、内向く若者」を挙げているが、これは思考停止の症状でもある。意図的な思考停止による言い訳重視の保身経営がかくも実態であるなら、中国やロシアから相手にもしてもらえなくなる時が来るのを覚悟しなければならない。
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74. ISO14001登録大国の京都議定書未達の不思議  
   日本のISO14001認証登録件数は2007年に中国に追い越されるまでは、2位以下の欧米諸国をはるかに引き離して世界一であり、今年3月末現在でも約23,500件と、依然ISO14001認証大国である。今日、市場にはエコと銘打った製品が溢れ、エコビジネスが花盛りであるが、この状況がISO14001認証と関係するのなら、なるほどISO14001認証大国だけはあるといえる。
 
  ISO14001規格の誕生は1992年の地球サミットを契機とし、産業界の地球環境保全取組みの道しるべとして作成された。ISO14001を採用することを決めた組織は、組織に起因する環境影響を地球環境保全の観点から捉え、耐え得る経済的負担の範囲内で社会の必要を満たす環境影響低減の努力をしなければならない。この努力をしていることの証明がISO14001登録証である。今日の情勢では組織の地球環境保全の努力は、温暖化ガス排出削減に優先的に向けられなければならない。様々なエコ製品やエコビジネスの繁栄は、最終的には温暖化ガス排出削減につながるとの顧客や社会の期待が背景にある。人々がISO14001認証取得組織の製品を購入するのは、自身の温暖化ガス排出削減責任を果たすことに繋がると考えるからである。
 
  しかし、日本ではISO14001の規定する環境マネジメントシステムは現場中心の環境影響改善運動であると見做され、それも、環境改善に名を借りて自身の些細な利益を追求する運動に留まっていることが少なくない。日本のISO14001取組みには、組織の地球環境保全責任という視点、或いは、収益と両立しない経営上の環境取組みという視点などISO14001の原点が一貫して欠落している。そして、認証業界がこのようなISO14001取組みを是とし、推奨し、このような組織に登録証を発行している。
 
  麻生首相は6月10日、中期温暖化ガス排出削減目標を2005年比で15%とすると発表したことにより、京都議定書の1990年比6%削減という目標を達成できないということを公式に認めた。これで、登録件数が多いだけで中味のないISO14001取組みとまやかしの登録証の実態がはしなくも炙り出されることとなった。 汚染たれ流しの公害大国中国がISO14001認証件数で世界一になったことに対する日本の関係者の大方の反応は、その登録証の価値への軽蔑と冷笑であった、しかし、日本の登録証もISO14001の趣旨と認証制度への社会の期待に適ったものかどうかという点では、中国の登録証とあまり変わりはない。目くそが鼻くそを笑っているだけだ。
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 61. (追補) 登録取得組織も事故、不祥事を引起こす理由
             
− 経営トップの空虚な コミットメント が 問題を潜在化させ不祥事に
<新たな不祥事>
  昨年の一連の食品表示の偽装に比べて社会の関心は薄いが、エレベーター強度不足(7月)が偽装かどうかの決着のつかない間に建材耐火性能偽装、型枠強度偽装(11月)が発覚し、今年に入って古紙配合の偽装が、そして先週には再生樹脂配合の偽装が明らかになった。偽装は流行語の域を越え、企業の日常となったかにも見えるほどである。これらの偽装問題の特徴は、製品の性能ないし効能に係わる品質を偽っていた問題であること、いずれもが堂々たる大企業であること、最初に問題発覚した1社だけではなくほとんど業界ぐるみの状況にみえること、不祥事の分野がISO9001からISO14001に拡がったことなどである。多くがISO9001や14001の登録証取得企業であることに言及する報道がないのはISO規格の登録制度の存在の希薄さの反映であろう。
 
<製品品質のためという言訳>
  古紙や再生樹脂配合の偽装の原因説明は、色合いや異物混入など顧客の品質要求に応えるためのやむをえない処置であり、良い品質を供給したのだから問題ないという開き直りを含んでいる。 しかし、企業が顧客に訴え、顧客がそれに共感して買ったのは、古紙や再生樹脂から成る製品であるということである。ISO14001に関して言えば、古紙や再生樹脂の配合は企業の活動が森林破壊や天然資源の消費という“著しい環境影響”の原因となっているとの認識の下に、企業が採用した地球環境責任を果たすための方策である。ISO14001登録取得は、技術的、収益上の困難さとのバランスさせつつ必要な環境責任を果たすという意志表示であり、だから製品を買ってほしいという顧客への訴えである。色合いや異物混入防止が顧客のニーズや期待だから古紙や再生樹脂使用が出来ないなら、それをやめればよいのであり、別の責任の果たし方を探せばよい。
 
   ISO9001で「品質」とは、ものやサービス の特性が顧客のニーズや期待を満たす程度を意味する。この場合、古紙や再生樹脂を配合することが顧客のニーズと期待であるから、その配合程度が品質である。色合いや異物混入防止が品質なら、古紙や再生樹脂の配合も品質である。偽装がばれた企業の品質は良かったという言い訳は成り立たないのである。 配合していないのに配合していると言ったとすれば虚偽以外の何物でもない。日経新聞1月14日号の囲い記事「大機小機」は、刑法の理論上は詐欺罪が成立すると論じている。
 
<経営トップの コミットメント>
  ISO9001、14001は、組織が真っ当に発展するための顧客第一の貫き方、又、地球環境責任の果たし方に関する指針である。しかしこの指針に則る経営を実践することは、収益企業としては必ずしも容易なことではない。 従って、経営に規格の指針を導入せんとするなら、 経営トッフ はこれをあくまでやり通すという揺るぎない決意を固め、自他に約束しなければならない。 規格が トップマネジメントに求めている コミットメント(5.1項/4.2 b),c)項)とは、規格の実践を職を賭してやり抜き通すという覚悟である。やり抜くと言う以上、まして、やらなければ辞任すると言う以上は、あれをやれ、これをやれと号令をかけるだけではなく、ちゃんとやられていることを自身で確信できるところまで確認するはずである。従って、この度の不祥事で大半の経営トップが知らなかったと主張しているのは、コミットメント をしていなかったと言っているのと同じである。 登録証取得が目的化する中で、規格の品質マネジメントシステム、環境マネジメントシステム の大半は現場の品質又は環境の改善運動と認識されて取り組まれている。多くの経営者には両システムに係わる業務が経営者としての自らの責任の不可分な一部であるとの認識がないから、コミットメント が必要とは知っていても その意味の理解は希薄である。どの経営トップも不祥事は遺憾であり、知っていたなら許さなかったと言っているから、これらの内のISO9001、14001の登録取得組織は トップマネジメント の空虚な コミットメント が問題を潜在化させ、結果として不祥事を発生させた。
 
<登録取得組織が事故や不祥時を引起こす第5の理由>
  筆者は昨年、日本で登録取得組織が事故や不祥事を引き起こす理由について考察し、誤った規格解釈と取組み、誤った登録制度統制、誤った登録審査基準の適用、組織の業務能力醸成の困難さの4点を取り上げた。 しかし、この度の新たな特徴を有する一連の不祥事は、経営トップの空虚な コミットメント に立脚する規格取組みという第5の理由の存在を明らかにした。
 
   ISO9001,14001の審査は組織の不正を見破るのが目的ではない。審査は、組織が規格に則って顧客満足第一の又は地球環境への責任意識をもった経営を行っていることを確認することであり、組織が一生懸命やっているから見てほしいと言うのを受けて審査が行われる。不正はないというのが審査の前提である。 審査で コミットメントをどのように確認したかという問題は残るが、善意の組織を審査するという前提に立てば、認証機関を非難することは必ずしも適当ではない。むしろ、この度の一連の不祥事に関しては、企業が不正を認めた時点で直ちに、当該認証機関の能力と審査登録制度への信頼を傷つけた理由で登録停止処分に付すのが筋道であった。このような認証機関の対応は、この第5の理由の存在に対する有効な抑止力になるであろうし、また、登録制度の意義を社会に明確にでき、信頼毀損への影響を少しは緩和できる。認証機関は一時的に顧客(登録取得組織)を失っても、長期的には社会から信頼される認証機関との評価を得て繁栄の道を歩むことができる。
このページの先頭へ H20.2.13

 56. (完) 登録取得組織も事故、不祥事を引起こす理由
−組織の業務能力醸成が最後の難関
<登録取得組織の事故、不祥事発生の理由>
  日本でISO9001,14001登録取得組織の事故や不祥事が相次ぎ起きるのは、 誤った規格解釈、規格取組みを背景とし、誤った登録制度統制が根本原因であり、誤った登録審査基準の適用が直接原因である。それなら、これらがすべて改められれば、事故、不祥事が起きなくなるのであろうか。事はそんなに簡単ではない。
 
<業務の効果的実行>
  規格に則って組織が業務を行えば、製品品質又は環境保全に関して利害関係者のニーズと期待を満すことが出来、逆に、利害関係者の想いを裏切る事故や不祥事は起こさないようにできる。しかし、規格が示すのは業務の在り方であり、規定はrequirement(必要条件)であり、「効果的に、適切に業務を行うこと」と言うだけで、規格が業務を行ってくれるのではない。 業務を効果的に実行する業務能力は組織自身で育み、醸成しなければならない。規格では、この業務能力も「資源」であり、要員には力量がなければならず、ものごとをやり通す意志と責任感につながる「認識」「自覚」をもち、トップマネジメント 初め管理者には職責を全うすることに職を賭す覚悟、つまり、コミットメントが必要だと言っている。装備力や資金も必要であると言っている。これも組織がやらなければならない。特に人的資源に限界がある中小規模企業では容易でない。
 
<事故、不祥事の防止>
  諸業務を効果的に実行しなければ、規格の狙いは達成できず、事故や不祥事を防ぐことはできない。相次ぐ登録取得組織の事故や不祥事よる規格と審査登録制度への信頼低下は、欧米でも関係者の深刻な問題である。この議論の日本との違いは、登録取得組織が事故や不祥事を発生させること自体を問題とし、その原因を登録審査での組織の業務能力の評価、或いは、業務の効果的実行の判断の不適切さに置いていることである。正に業務能力の不足が事故や不祥事の原因なのである。
 
  組織は規格に則って業務を行い、登録証を維持するのには相当な資源を投入している。これは一般に業務の効果的実行に十分な資源とは言えない。しかし、この資源ないし業務能力を事故や不祥事防止に集中投入する、すなわち、事故や不祥事の発生の阻止に焦点を当てて品質又は環境マネジメントシステムの諸業務を行うべきである。事故や不祥事の発生は組織の経営を危険に晒らすから、その防止は組織の最重要事である。但し、今日のJAB統制下の審査登録の論理との相当の軋轢を覚悟することが必要ではある。
 
<結論>
  登録取得組織が事故や不祥事を引き起こす原因と背景を改めても直ちには事故や不祥事がなくならない。規格に則って業務を効果的に行えば事故や不祥事を防止できるが、効果的に業務を行うことができるかどうかは、組織の業務能力の如何によるからである。登録証を取得すれば事故や不祥事を効果的に防止できるとの期待は、登録証はそんな意味で発行していないとの審査登録業界の見解と同じ程度に不適切である。
 
<総合結論>
  ISO9001,14001の目的には、組織が事故や不祥事を発生させて経営破綻に追い込まれることを防ぐことが含まれ、規格にはその発生防止を図る要件が適切に規定されている。また、このような組織の能力と実態を保証することも審査登録制度の目的であり、IAFの定める登録審査基準では事故や不祥事の発生が懸念される組織の業務状況に対しては登録証は発行できない。しかし、規格は、事故や不祥事の発生防止を含む最新の効果的な経営管理の在り方の世界標準を示す情報媒体であり、規格を学ぶことと規格の教えを実行することとは別問題である。組織が規格の示す要求事項を効果的に実行する業務能力を育み、確保することは容易ではない。事故や不祥事を発生させないための最後の難関は、組織の業務能力である。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-56>

 53. 登録取得組織が不祥事を起こす理由 −誤った規格解釈と規格取組み
<続発する事故、不祥事>
   ISO9001/14001の登録取得組織が品質或いは環境に係わる事故や不祥事を引き起こして、規格や審査登録制度への社会の不信が高まっている。そのような組織にも規格適合性の登録証が発行されるなら、規格や審査登録制度とは何なのかというのが、社会の正直な疑問である。なぜなのか考えてみる。
   
<規格制定の目的>
   ISO9001などの品質マネジメントシステム規格は、品質で遅れをとり競争力を失った欧州諸国が日本製品と同じような良い品質の製品をつくるための企業の業務指針として作成された。一方、ISO14001は持続的発展の原理の下で事業組織の地球環境に対するふさわしい責任の果たし方の指針である。どの組織も顧客に製品を買ってもらうことで成り立っており、事業遂行には顧客はじめ、消費者、市場や地域社会、一般社会、金融機関、投資家、法律(官公庁)など広い利害関係者の支持が必要である。組織が事業を維持、発展をさせたいなら、顧客やその他の利害関係者のニーズと期待を満たす製品を提供することが必要であり、ニーズと期待を満たすように事業活動を行うことが必要である。組織がISO9001、ISO14001に則って業務を行えば、組織と製品は顧客やその他の利害関係者に受け入れられ、支持され、顧客等利害関係者からそれぞれの利益を受け取ることができる。逆に、組織が業務で規格の規定を逸脱することは、顧客等利害関係者のニーズと期待を裏切ることを意味し、或いは、裏切る結果を生ずることになり、組織は利害関係者の支持を失う。
 
<規格の事故、不祥事防止能力>
   両規格の規定がこのような現実の効能を有していると考えることができるのはなぜだろうか。ISO9001は品質で成功した世界の企業のマネジメント活動の優れた考えと要素を採入れたものであるとISOは、説明している。 すなわち、1970〜80年代に品質で世界を席捲した日本の輸出産業のマネジメント にも習ったものであり、組織が規格に則って業務を行えば当時の日本企業と同じ成功を納めることが期待できる。また、ISO14001は、国際合意の地球環境責任を果たすための、環境影響削減の方針、目標を適切に設定し、その実現を図る取組みを規定している。そして、このためのマネジメント の諸業務のあり方についてはISO9001の考えと要素を共有している。どちらの規格のその有用性は実績で証明されていると信じてよい。
 
   例えば、耐震性偽装マンションの販売事件(H17.11)では、ISO9001が規定する建築基準法の確実な適用(7.2.1 c))と適用されたことの確認(7.5.2, 8.2.4)、外注設計士が正しく設計を行うことを確実にする管理と確認(7.4)がどのようになっていたのかであり、賞味期限切れ原料牛乳の使用など不二家のずさんな品質管理の実態曝露事件(H19.1)では、ISO9001は原料牛乳の使用基準の明確化、確認 (8.2.4)の必要、基準はずれの場合にとるべき処置(8.3)、更にはこれらの記録の維持(4.2.4)を規定しており、管理者が責任及び権限を完遂(5.5.1)しておれば起き得ない事態である。JFEスチール、神戸製鋼、日本製紙の環境測定データ捏造事件(H17.2,5, H19.7)に関しては、ISO14001は法令など規制に関して遵守状況を責任者が定期的に評価し (4.5.2)、トップマネジメント がこれを確認すること (4.6 a))になっており、他社の経営の意に反する 改ざん事例が自社で起きないようにする予防処置(4.5.3)の手順を規定している。パロマ工業鰍フ湯沸器による死亡事故多発が発覚した事件(H19.1)では、子会社たる販売会社を顧客とし、且つ、修理保全サービスを適用除外とするなど、ISO9001の意図を逸脱した取組みしかしていない。
 
<事故、不祥事の発生の理由>
  上記の不祥事の例でもわかるように、規格は品質事故、環境事故或いは不祥事を起こさないような管理を的確に規定している。不祥事が発生したのは、これらの組織が規格の規定に則って業務を行ってこなかったからである。日本では、規格の規定を“要求事項”と呼び、その「〜すること」と記述されている事項は“規格の要求”である。組織は審査で不適合だと言われないように“要求”を満たすことを考え、そのように“要求”を満たすよう業務を行う。何のための「〜すること」かを考えない。これが登録取得組織が事故又は不祥事を起こす理由である。
 
   組織が成長、繁栄を望むなら、「〜すること」を審査員の顔色で判断するのなく、これで事故や不祥事を起こさないで済むかどうかで業務のあり方を決めなければならない。出来るか出来ないかとか、大変だとかいう問題ではない。なぜなら、事故や不祥事を起こした組織は、イメージの失墜、生産縮小、競合組織の傘下入り、破産等の重いツケを支払わされるのである。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-53>

25. 登録証取得は将来的にも取引継続の保証になるか?
   ISO9001,14001が組織に重荷で、役に立っていない実態が語られることが多くなったが、この実態が生れた背景は組織が規格を活用する気は最初からなく、顧客の要求で認証取得したまでであるからとする意見が大半である。この意見は、取引が継続できたから認証取得は組織の役に立っているのだという反論にさえ使われている。
   
   しかしこれは、顧客が組織にISO認証取得を要求した理由を考慮の外に置いた暴論である。ISO9001の制定の狙いは、海外の見知らぬ組織の製品を買う時の品質への不安の払拭であり、登録証は製品品質についての安心感を顧客に保証する。ISO14001の登録証は組織がその活動、製品、サービスの環境影響にふさわしい環境保全責任を果たしているので組織とその製品を受け入れてよいという諸利害関係者に対するお墨付きである。
   
   組織の親会社や顧客組織が認証取得を求めてくるのは、組織が供給する製品、サービスの品質或いは関係する環境保全取組みで起こした問題が親会社や顧客組織の活動、製品、サービスに影響し、結果的にその顧客や利害関係者の品質、環境保全に関するニーズや期待に応えることができなくなる状況があるからである。親会社や顧客組織はこのような問題を防ぐために供給者たる組織の活動、製品、サービスを管理する必要があるが、自身による監査や受入れ検査の強化では負担が増すばかりであるから、組織に規格に従って業務を行わしめ、その実行を第三者審査で監視せしめるという方法の方が効果的で経済的である。
   
   親会社や顧客組織が組織に登録証の取得を求めるのには、品質、環境保全に関するニーズや期待を満たさせるという狙いがある。登録証を取得して取引継続を確保しても、或いは新規顧客との取引機会を得たとしても、そのニーズや期待を満たすことが出来なければ、いずれ親会社や顧客組織から排除されることになる。
   
   日本ではISO規格や審査登録制度の本質を顧みないで、規格要求事項をして登録証を得るための条件視した形式な取り組みが大手を振り、それが許容されている。しかし、規格の論理と審査登録制度の趣旨に則ると、親会社や顧客組織に応えない組織は登録証を維持してもいずれ取引関係から排除されることになり、登録証を得ること即ち親会社や顧客組織の要求に応えることという理屈はない。親会社や顧客組織が登録証への信頼を失えば、ISO規格と認証登録制度の崩壊にもつながる。
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21. 審査のばらつきは受審組織が原因  
   ISO規格取組みに関して審査のばらつきが しばしば問題となるが、審査員の規格解釈能力や審査対象業務に関する知識の不足に原因があるとする見方が一般的である。
 
   しかし現実に様々な規格解釈が発表される中で審査員はそれぞれ独自に自身の解釈を構築せざるを得ない。 審査員の解釈が分かれるのは当然である。また、審査員には過去の実務経験に基づき"専門性"が認定され、審査チームには対象業種の専門性が確保されることになっている。 当該業種に疎いため的外れの指摘をしたなら、審査員を選んだ審査機関の責任である。どちらの問題も直ちには審査員に責を帰すことは適切でない。
 
   そもそも審査のばらつき、つまりは審査員と指摘に対する受審組織の不満は当を得たものではない。監査員は不適合指摘に際してはその根拠となる証拠を提示し、被監査者の合意を得る努力をするのが監査の原則である。合意出来なければ審査員は監査報告書にそれを明記しなければならない。これは審査機関内の登録可否判定の審議に影響を及ぼすことは必至である。更に審査機関は、受審組織からの異議を受付け、処理する手順を持つことになっている。 組織は納得のいかない指摘に泣き寝入りする必要はないのである。
 
   日本では要求事項は登録証を求める組織に対する"規格の要求"である。 発表される規格解釈のほとんどは神の啓示よろしく根拠を示さない結論の提示である。 審査での「規格が要求している」との理屈抜きの不適合指摘を組織は平伏し受入れる。 不満な指摘でも組織が受入れるのは、規格解釈が審査員の権限かの誤った認識が背景にある。
 
   しかし、規格は効果的なマネジメントの必要条件を規定した、過去の成功体験に基づく理論の体系である。規格解釈は組織にとって必要かどうかの観点で、組織が主体的に行うべきなのである。組織は納得できない指摘には自らの利益のために反論するべきである。監査はそういうものであり、登録制度も反論を受入れるようになっている。審査のばらつきの原因はばらつきを許容している受審組織の側にあると言える。 それは、規格と審査の本質を顧みずにひたすら登録証を追い求める組織の安易なISO取組みのつけでもある
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20. 継続的改善はマネジメントの普遍的目的
   日本では ISO9001,14001 認証取得の組織の大半がその効果を実感できていないという事実がISO関係者にも認められ始めている。このような場合に規格導入の利益として挙げられるのが継続的改善である。確かに両規格とも継続的改善を謳っている。
   
   規格はマネジメントシステム規格であり、マネジメントの在り方に関する必要条件を規定している。マネジメントとは各層管理者の業務であり、作業活動を直接担当し実行するのではなく、それが効果的、効率的に行われるようにする業務である。具体的には、手順の決定、要員の教育や指導、作業の実行指示、作業実行状況の監視、結果の把握等々である。管理者は業務の手順を決め担当者に実行させ、問題が生ずれば、原因を調査して再び問題が起きないように手順を変更する。これを担当者に教え、その実行を監視し指導して、改善された新手順を職場に根付かせる。また、日々の業務を通じて、自部門の機能や役割を果たすために支障となっている問題点、或いは、より良く役割を果たすためにとり得る処置について常に考え、課題を特定して必要な手続き、処置をとり問題を改善する。
   
   管理者の業務つまりマネジメントの本質は改善である。改善はマネジメントの存在理由であり、その普遍的目的である。管理者は問題現象を、それらを生んだ業務の問題点の改善により解決している。すなわち、マネジメントの目的の改善は業務の改善であり、改善を繰り返すことによって業務体質を強化し続けることである。両規格の継続的改善は、不適合の是正、予防処置を通じた活動と目標を設定し達成を図る活動とによるシステムの改善のことであるから、実務的には業務改善の繰り返しによる業務体質の継続的な強化の活動に他ならない。規格の継続的改善はマネジメントの普遍的な目的を指しており、規格に特有の概念ではない。規格に特有の主張があるとすれば、体系的なマネジメントという点である。
   
   日本では審査合格優先の規格解釈から、組織にマネジメントシステムという新しい業務の仕組みが持ち込まれている。この取り組みでは、規格が品質、環境の全社的な改善運動を要求していると見做されている。焦点はパフォーマンスの改善に当てられ、トップマネジメント初め各層管理者は旗振り役で、改善実行は専ら担当者が担う。 規格適用の利益として継続的改善が挙げられるのは、このような規格取り組みの実体を反映した誤解にもとづくものと思われる。
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19.自治体のISO14001認証登録は税金の無駄遣い?
   日本では自治体のISO14001の認証登録が進む中で審査登録機関による認証登録をとりやめる自治体が現れている。これは、規格と認証登録制度の趣旨に適う正しい判断である。
   
  どの組織もその活動、製品、サービスに付随して環境に悪影響を及ぼしている。一方でその影響を受ける各種の利害関係者は、組織に環境保全努力を望んでいる。ISO14001は、組織がこのようなニーズと期待に応えて環境影響の低減に取り組む場合の指針であり、環境改善のマネジメントの諸業務が効果的、効率的に実行されるための必要条件を規定している。
   
   組織が規格に沿って業務を行なえば、利害関係者のニーズと期待に応えた環境影響低減を達成することができる。このことによって組織は利害関係者の支持を得て事業上の各種利益を享受することができる。環境改善の成果は一挙に出るとは限らず、組織のマネジメントがISO14001に適っているとか、着実な環境改善成果が期待できるということは外部から伺い知ることは困難である。第三者機関の登録証は、日常的には組織の活動や製品に疎遠な利害関係者に対して、組織の環境保全努力がそのニーズと期待に応えているということを保証するものである。
 
   しかし自治体の場合は、努力や成果が身近な地域住民には目に見えるし、広報誌等で知らせることができる。規格は組織による適合性の自己宣言を認めている。わざわざ大金を使って登録証という環境保全努力の証明を得るまでもない。それに、住民が自治体の環境保全努力を比較して居住地域を選ぶというようなことはないから、競合他組織と争って支持を得るための道具としての登録証の効用もない。
 
   日本ではISO9001/14001を組織の業務に適用することが認証登録とほとんど同義語となっている。規格に従って環境マネジメントシステムを確立した自治体が当然のように、認証審査を受けて登録証を取得するのもこの誤解に起因するのであろう。公務員の仕事振りを住民に訴えるための登録証を税金を使って取得するのを住民が望んでいるとは思えない。
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14. 必要条件と十分条件 − 機能するISOシステムにするには 
   日本のISOマネジメントシステムの大半が機能していないという原因は審査合格優先の形式を重視する日本の常識的な取組みにあるが、その元は規格や要求事項というものの本質の理解がおろそかにされていることである。
 
   規格は組織が顧客やその他の利害関係者の必要又は期待を満たすように品質改善或いは環境改善に取組み、実績を挙げることを目的に制定されたものである。 組織は規格に従って諸業務を運営管理(マネジメント)すれば、必要な品質或いは環境改善を着実に達成することができる。規格は、事業の維持、発展の必要から品質或いは環境改善を図りたいと考える組織が、その諸業務をどのように運営管理(マネジメント)しなければならないかを規定している。
 
   要求事項に従ってマネジメントを行なえば本当に必要な品質改善或いは環境改善が達成されるのかという疑問に対してISOの当事者は、規格が規定するマネジメントの在るべき姿とは規格作成者の単なる思いつきではなく、世界の各企業の成功体験を織り込んだ最新のマネジメント理論として世界の専門家が合意したものであると説明している。 実績に基づく科学的な理論であるから、規格に従ってマネジメントを行なえば組織は必要な品質或いは環境改善を達成できると信じることは合理的である。
 
   然るに規格の規定は改善達成のためにはこうでなければならないとの必要条件であって、こうすれば必要な改善が達成できるという十分条件ではない。要求事項を満たしただけではシステムは機能しない。しかし規格は、マネジメントの業務体系(マネジメントシステム)の必要条件を規定した上で、それが効果的に確立、実施、維持されるべき必要をも規定している。 つまり改善達成には十分条件をも満たさなければならないということを明確にしている。
 
   規格適用の効果に関する本当の問題は、規格の要求事項は必要条件であって十分条件ではないということである。システムの構築、運用に当たっては、要求事項を単に満たすのではなく十分に満たすことが必要である。 品質又は環境改善を達成するのに十分な業務体系を確立し、運用すること、つまり機能するシステムが、規格の本当の要求事項である。
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12. ISO思考停止症の管理者達 
   日本では登録取得ということが組織が規格を適用することと同義語となっている。登録取得を重視するあまり、組織は審査機関の規格解釈に神の啓示の伝達かの如くひたすら頭を垂れる。組織の管理者はISOに関する限り思考停止症に陥っている。
   
   規格は組織のマネジメントに関して人間が組み立てた論理の体系であり、品質、環境に関する事業課題に取組む効果的なマネジメントの在り方を示している。いわば組織運営の教科書であり、内容は組織の管理者の仕事に対する指針である。要求事項の解釈は「なぜこれが必要なのか」を考えることが出発点であるべきだ。
 
   例えば、ISO9001、14001両規格で日本語訳が異なるが、教育訓練は必要な competence と awareness を要員に身につけさせる手段である。規格で「力量/能力がある(competent)」とはその要員にその仕事をさせてもよいということである。力量/能力のない要員には教育訓練を施すが、その記録はその要員がその作業に力量/能力があることの証拠となる。つまり、どのような教育訓練を受けたかは、その要員の力量/能力の指標である。教育訓練の記録を用いれば、新任の管理者でも部下のそれぞれを間違いない職場に配置し、作業を命じることができる。現実には多くの組織で手順書改定の教育の記録が整然と保管される一方、新人の職場配置のためのOJTの教育訓練の記録はあいまいである。手順書改定の周知は必要であるが、その教育の記録を後に使用するかという観点からは規格の意図する記録ではない。考えればわかることだ。
 
   規格は他ならぬ管理者の業務に対する指針である。規格は日本の物づくりのマネジメントが下敷きなので、要求事項の多くは日本の管理者にとってはほとんど常識的である。 ただし各種の要素を織り込んだ包括的な論理の体系であり奥が深い。部下を指導監督する管理者たる者、規格を自ら学び自ら考えなければならない。また、その価値のある規格であると思う。
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11. 規格の意図に沿わない内部監査の落し穴  
   ISO9001,14001両規格とも、組織が内部監査を行なうことを規定している。規格の内部監査はマネジメントシステムの計画と実施及び維持の両面で行なわれる。 実際の内部監査では、後者の面を主体に行なわれ、承認印の欠如、文書の改定遅れ、記録記入もれ、手順の逸脱、あるべきもの不在など、決められた事の不遵守が不適合指摘の大半を占めている。 そして、不適合指摘とその是正処置の多いことが監査の有効性の証とみなされる。 それは内部監査が、認証審査での不適合指摘をなくする組織の自主的活動と考えられているからであり、問題点を見出し是正することによって、そのマネジメントシステムの適合性を改善することが目的と考えられているからであろう。
   
   しかし、何であれ決まりや決め事がきちんと守られ実行されるということは組織運営の基本であり、人々に決まりを守らせ、その目的の実現を図るのは各層管理者の最も基本的な責任である。 ISOマネジメントシステムの確立とはいわば、この決まりを明確にすることであり、決まりは守られ実行されることが前提である。 それに監査は本来、業務の遵法性或いは妥当性に問題がないことを第三者が客観的に確認することであって、存在する不適合の是正が目的ではない。
   
   実際、規格が内部監査に求めているのは、システムという業務の体系が「効果的に(ISO9001)或いは適切に(ISO14001)実施され,維持されている」か否を決定することである。 効果的、適切な実施とは、システムとその諸業務が方針や目的・目標に定めた所定の必要な結果を出すように実施されているという意味である。 決められた事の遵守とその確認は管理者の日常的業務である。 内部監査はその上で、決められた通りに業務が行なわれて各業務が所定の結果を出しているかどうかを、客観的、専門的な立場から評価、検証する活動である。
 
   日本では、内部監査が決まり事の遵守を図るための部門間の相互チェック活動であるかに取り扱われ、 決められた事が守られていないことの発見と指摘が内部監査の役割となっている。これは規格の意図ではない無意味な活動であるばかりか、決まり事の遵守という絶対の価値観に対する人々の認識と判断を狂わせ、管理者の責任感をあいまいにする危険をはらんでいる。永い年月の間に悪くすれば、職場秩序の崩壊を招きかねない憂慮すべき問題である。
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.記録の意義 
  日本ではISO規格導入組織の問題意識の筆頭は、文書量の多さとその管理の手間の煩雑さであるが、これにはとるべき記録の多さとその保管管理の手間の問題が含まれている。 規格において記録は「要求事項への適合」と「マネジメントシステムの効果的運用」の証拠であるから、組織にとって認証審査への重要な備えと写り、審査合格優先のISO取組みでは、審査員の判断を容易にするために実務上の意味のない多くの記録と永い保管期間を設定しがちである。
 
   翻って、業務に関する事実や実績を記した文書である記録は、証拠としての役割以上に、組織の業務の効率的かつ効果的な実行に重要な役割を果たしている。 即ち、記録は、組織内での知識や情報の共有、共通認識の形成を促進し、組織内の議論や問題検討に無駄を省き効率を上げる。また、個々人の記憶や勘に頼らない、事実に基づいた判断や決定は適切で間違いが少ない。問題が起き、或いは機会があって必要な関係事項を調査した場合にこれを記録にしておけば、次の同種の問題検討の際に再調査の手間を省ける。 新しい問題や何かの問題解決への取組みの際には、過去の記録を参照することによって取組み自身が効率化できるだけでなく、同種の失敗を回避でき、過去の対策を繰返す堂々巡りに陥ることを防ぐことができる。
 
   記録はそれ自身価値ある情報であるが、多くの記録を生データとして分析することによって、それぞれの事実の裏に潜む真実を炙りだし、個々の記録ではわからなかった事実を見出すことができる。データ分析は問題の根や改善の芽を見出す有力な武器である。その記録は利用価値が高い分だけ生データ以上に保管の重要性は高い。

   組織の実務において記録の果たす役割は多様で重大である。規格は間接的には種々の場面で多様な活用を示唆しているが、要求事項は記録のごくわずかな部分に触れているに過ぎない。記録は組織の経験と知見、開発技術の集積である。その多様性と量は質と合わせて組織の業務の競争力の源泉である。 何をどのように記録し保管するのか活用するのかは、規格要求事項を越えた判断が必要である。ISO規格のために記録の管理が大変と嘆く組織は、実務に使用していない記録がないか、また、実務での活用と無関係な永過ぎる保管期間の定めがないのかを点検するべきである。
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.文書のスリム化とシステムのスリム化  
   日本ではISOマネジメントシステムの問題点の先頭にいつも挙げられるのが文書管理の煩雑さである。最近、組織の抱く文書管理の問題意識に対応して、システムや文書のいわゆるスリム化に関する議論が拡がっている。 この議論は多岐にわたっているが、すべての手順をマニュアルに集約したとか、全文書の厚さを○○mmまで薄くしたとの、文書の中身を少なくする方法論が盛んである。
 
   文書化の目的は多様であるが、基本は業務の標準化のためである。業務の手順決めて明確にし、皆がいつもこれに従って業務を執り行えば、常に同じ結果を得ることができる。結果に問題があれば手順を改め、また、改善をもたらす誰かの経験や提案が採用されればそれを手順の変更に反映させ、これが皆に実行されることにより、結果の改善の実績が組織内に定着する。こうして組織の業務手順は業務目的をより効果的且つより効率的に達成できるように改善されていく。これが標準化の効果である。標準化はまた、人事異動や新人の採用に伴う組織の業務能力の低下を防ぎ、退職する熟練者の経験、知識を組織内にひき留め、技能伝承を円滑化することに寄与する。
 
   業務の効果的な標準化には、手順の文書化がほとんど必須である。 手順は文書化してこそ組織内に徹底でき、改善を取込むことができる。文書は、組織の経験や知識、知見の集大成であり、その中の手順が、良い結果を効率よく達成するという点で組織独特の優れたものであるなら、文書は他組織に対する競争力である。 わかりきった常識的なことは文書化しても無意味である。 しかし、組織独自の経験、発想、技術などに発する手順は詳しく書くことが組織の利益である。 また、複雑な手順を多くの要員に間違いなく理解させるには詳しく文書化することが効果的である。手順が文書量の多さはそれ自身が悪という訳ではない。それがにもたらす管理の煩雑さは、文書体系や文書化の在り方、文書の形式と記述、文書管理の仕組み等々の工夫によって改善すべきである。
 
   問題は、膨大な文書量と手間と費用を嘆く声の背景には、文書や記録を審査の直前に整えるという極端な例も少なくないように、 実際の業務に使っていない文書や記録が多いという事実である。これには、審査合格のための形式を重視する"審査の視点"の規格理解が関係している。 文書管理の容易化のために必要なのは、 審査合格に必要とされるが実務には不必要な業務や書類をなくすることである。効果的な業務遂行の手段となっている文書ならその中身を削っては逆効果である。 文書のスリム化とシステムのスリム化は意味も効果も異なるのであり、今日の日本で必要なのはシステムの贅肉を切り落とすシステムのスリム化である。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-08>

. システムを構築する ということ 
  ISOマネジメントシステムを構築する」と聞くと「ISOマネジメントシステム」が何か形のある造形物であるかの如く感じてしまい易い。「構築」とは、「構え築くこと」「建築あるいは土木工事を行なうこと」であるからである。 この結果、「システム」なるものが、文書や記録、書式、帳票、台帳、一覧表など一連の書類から成るものであり、マニュアルや手順書に記述される「業務の仕組み」を創り上げることであるかの錯覚を抱くことになる。
   
 「システム」とは「system」のカタカナ英語であり、多数の要素がばらばらに集まっているのでなく、特定の機能を果たすために有機的に結びつけられた状態を意味する。そして規格のマネジメントシステムを構成する要素は、組織の体制、計画活動、責任、行為、手順、業務、資源などである。 因みに ISO9001の2000年版ではプロセスアプローチの考えからシステムとは「諸業務(プロセス)の有機的集合体」であるが、表現上の違いだけであって実質は同じである。システムを日本語で表現するなら「業務体系」が適切であると思う。
   
   ところで、「構築」という用語は規格でも関連文書でも用いられていない。 これに相当する用語は「システムを確立する」である。この「確立する」は「establish」であり、「恒久的な規則とする」「確固たらしめる」「存立をもたらす」、或いは、「永く続かせる組織やシステムを開設又は創設する」という英語である。「構築」が形のあるものを造り上げるという意味になるのと違って、「確立(establish)」はあいまいな或いは存在しなかった概念的なものを明確にし確固たるものにするというような意味である。
   
   今日、事業運営の上で品質や環境に関して何の処置もとっていないというような組織はまず存在しない。規格が意図する「システム構築」作業とは、これら既存システムの実態を整理して明確にし、規格の要求事項と比較してその差異を把握し、差異を埋めることである。 規格要求事項を満たすマネジメントの業務体系を明確にし確固たるものとすることが「システムを確立する」ことである。
   
   規格はシステムを「構築せよ」とは言っておらず、「確立せよ」と言っている。何もないところに新たに何かを創り出すようなことではない。 また、「構築」は、業務体系という概念的なものを有形物かに誤解させる土壌となっていることからも適切な表現ではない。 筆者も適切でないと思いながらも定着した「システムを構築する」という表現を使っているが、このような不適切な表現や概念が易々と定着してしまうのは、「マネジメントシステム」とは何ものであるのかという基本問題が論じられることがないまま、審査合格の方法論が幅を利かせる日本のISO取組みの実態と無関係ではない。

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