ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
103‐1
      ISO事務局という無駄と害  <62a-01-103‐1>
1. ISO事務局
  ISO9001/14001認証取得組織のおそらく90%以上は、ISO事務局という組織を品質/環境マネジメント システム組織図の中に位置づけている。一般に管理責任者を補助する部門とされ、担当者がひとりで他の業務との兼務であることもあるが、管理者クラスが専任であることも多い。事務局の役割は取得した認証の維持であり、仕事はそのために必要な業務と社内のとりまとめである。
 
  ISO事務局の仕事には多くの場合、次のようなものを含む。
@ 審査対応、審査に関する組織内とりまとめ
A 内部監査の計画と実行管理、内部監査員数維持の管理、マネジメント レビューの手配と記録、環境側面調査の実行管理
B 品質/環境方針書の管理、品質/環境目標の計画と実行の管理
C 手順書の作成・改定と配布管理、品質/環境マニュアルの改定と配布管理、是正処置・予防処置の実行管理
D 品質/環境法規制調査と適用一覧表の管理
E 供給者への環境順守事項の伝達、環境方針の伝達、供給者要員の教育、供給者の評価、供給者の品質監査、
 
 
2.規格の意図
  事務局という組織を置いて品質/環境マネジメント システムの特定の業務を担わすことは規格の意図ではないし、規格や関連文書のどこにも規定されていない。認証機関の審査規則でも認証組織が事務局部門を持つことを要求しておらず、事務局がなくても審査員は指摘しない。
  
  しかしそれにもかかわらず事務局が置かれているのは、コンサルタントの指導であろうが、組織がISOマネジメント システムを日常業務とは別の品質/環境改善運動の形式と認識し、この実行がISO規格の導入や登録証取得の意味であると考えているに違いない。なぜなら、どのような組織でも管理者がいる限りはそれぞれの責任権限は決まっており、トップマネジメントと共に組織内の管理業務を分担しているから、その一部に過ぎない上記@〜Eの業務に改めて担当部門を別に決める必要はないのである。
  
(1) 責任及び権限の明確化
一般に小規模組織や創業者が絶対的な決定権を持つ組織を含みどの組織でも管理者のそれぞれの役割は決まっており、文章化されていないとか、境界があいまいであるということだけである。一般には、それぞれの機能を担う機能部門から成る階層式の組織体制があり、それぞれに責任を持つ管理者が決まっている。明記されてはいないが規格は、組織のマネジメント(経営管理)が幾つかの機能部門から成る組織体制の下に行われることを前提としているが、これは組織或いは経営管理の実態を反映したものである。
このことを規格は『責任及び権限』の規定を設けて、ISO9001(5.5.1項)では『責任及び権限が定められ、組織全体に周知されていること』、ISO14001(4.4.1項)では『効果的な環境マネジメントを実施するために役割、責任及び権限を定め、文書化し、かつ、周知すること』として表現している。これは、組織が品質/環境マネジメントを効果的に行うためには、部門又は管理者の担当業務範囲を誰にも明らかなように明確にすることが必要であることを指している。規格の文脈では、規格が各条項で規定する業務(プロセス)のそれぞれをどの部門の業務とするのかを明確にすることの必要が記述されている。
  
(2) ISO事務局業務の本来の担当部門
  規格の『責任及び権限』の規定は、上記@〜Eの業務を含みどのような業務であってもそれを担当すべき部門が誰でもわかるような形で各部門の業務範囲を決めておく必要を意味する。規格の規定は例えば、認証を取得せんとする組織で、もし品質保証/環境管理の担当部門があいまいであったり、決められていなかったなら、それらを既存のどれかの部門に位置づけるかを明確にし、または、品質保証/環境管理の重要性に鑑みて担当するそれぞれの部門を新たに設けることの必要を意味している。これはISO認証維持に関係する雑多な業務を担当する実態のISO事務局という部門を置くこととは本質的に異なることである。
  
@Aの業務
  品質保証/環境管理の各担当部門が明確である組織では、典型的な事務局業務である@Aは必然的に品質保証/環境管理を担当するそれぞれの部門の業務とみなされる。これによって例えば、同じ製造現場の品質管理体制の監査を顧客が行う場合は品質保証を担当する部門が行い、認証機関が行う場合がISO事務局が行うという二重帳簿的業務が解消する。
 
Bの業務
  Bに関しては年度方針の下に重点事項に取り組む体制となっている組織は、その中に品質/環境方針や目標を織り込めばよい。その手続きや担当部門は、組織の重点事項取組みの枠組みから自然と判断される。トップマネジメント直轄の業務を取り扱うなど組織全体にわたる管理を担う部門、例えば総務部、管理部というような部門、或いは、筆頭部門がとりまとめを行うことが多い。このような体制のない組織なら規格導入に当たって、年度方針と重点事項を部門業務目標として展開する体制を確立するのがよい。年度方針を品質方針、環境方針のいずれかに限定するなら品質保証又は環境管理部門がとりまとめの任に当たることとしてもよいが、組織の全体マネジメントの年度方針であるなら、作成や実績管理は品質保証や環境管理など個別マネジメント業務の主管部門が行うものの、年度方針全体としてのとりまとめは組織全体にわたる管理を担う部門が行うことが普通である。
 
Cの業務
  Cは、その業務を行う、或いは、その業務に責任を持つ部門の当然の責任である。各部門の『責任及び権限』を決める場合は同時に、その業務の実行に係わる、或いは、実行に必要な基盤業務はそれぞれの部門の責任であることを明確にしておくことが必要である。要員の勤怠、安全や健康の管理、業務に係わる教育、文書と記録の作成や管理、資材や用具の手配、関連法規制の順守、設備導入と保守など、或いは、部門の業務の問題を抽出し解決し、担当業務を効率的、効果的に遂行することである。これらの実行に係わる業務の責任が他部門にあっても、実行の必要を把握し、他部門に実行を依頼し、その実行を管理する責任は、それぞれの部門にあるとみなされる。
 
  例えば受注処理業務に関する手順書の作成は営業部門、設計開発に関する手順書は設計開発部門の当然の責任であり、そのような業務を行っていないISO事務局が作成できるはずはないのである。クレームの管理は品質保証を担当する部門の重要な業務であるはずが、その再発防止対策の実行はISO事務局が『是正処置』として管理するという心の籠もらない顧客対応となっている。
 
Dの業務
  Dもその業務を行う、或いは、その業務に責任を持つ部門の当然の責任である。しかし法律問題は多岐にわたり、それ自身が専門性を必要とする業務であり、これを各部門それぞれに担保することは困難であるから、法務部門又は担当者の支援体制が用意されている組織もある。組織が順守しなければならない法規制はISO事務局が品質/環境法規制調査と適用に責任を持つという体制では、それ以外の法規制の順守はどうなっているのかという疑念を呈せざるを得ない。
 
  同じ供給者と関係する業務のEであるが、その中には日常的な業務やその関連業務と非定常的管理業務とがある。環境順守事項の伝達、環境方針の伝達、供給者要員の教育は前者であり、供給者との間で実際に業務のやりとりを行う部門の責任である。供給者の評価、品質監査は後者であり、供給者の起用を決める部門の責任である。そのような責任分担でなければ前者の業務も後者の業務も効果的に実行され得ない。多くの供給者との間の業務の中から前者と後者のどちらの業務にも責任のないISO事務局がこれらの業務を摘み取りする利点が見当たらない。
 
 
3.ISO事務局の問題点
(1) 二重帳簿
  規格は特別な業務の実行や特別な業務の形式を組織に要求しているのでなく、組織の実務に対する要件を明らかにしているだけである。しかし実際にはISOマネジメント システムは、日常業務とは別の品質/環境改善運動の形式と認識され、この実行がISO規格の導入や登録証取得の意味であると誤解されている。ISO事務局という部門を組織構造に追加して、いわゆるISO業務を担わせ、組織内をとりまとめさせることは、この誤解を増長し、多くの組織でISO業務と通常の業務という二重帳簿的業務実行の状況の存在を許している。
 
  規格の意図に沿って組織構造を確立し、各部門の役割を明確にすれば、事務局という組織を設けなくとも、ISOマネジメント システムに関連するすべての業務はそれぞれの部門の当然の業務として組織内で分担され、抜けなく実行される。しかも、各部門は マニュアル に記載されたISOマネジメント システムに関連する業務、いわゆるISO業務を、担当する部門業務の一環として、他の実務と一体となって行うことになり、規格の意図に適う効果的な業務実行が実現する。この状況でトップマネジメントが品質保証/環境管理の強化の必要に気づき、その実現を目指せば、組織の事業の発展に必要な顧客満足/環境改善を達成することができる。これによりISO9001/ISO14001は役に立つ規格となり、その認証制度に対する信頼が確立することに繋がる。
 
(2) 事務局要員の能力の浪費
  ISO事務局の業務とされる業務は、組織構造の広い範囲の部門にまたがる業務であり、認証維持という目的のために行われる雑多で手続き的色彩の強い業務の寄せ集めである。その業務遂行には組織の事業に係わる専門性をほとんど必要としない。極端な話、ISO事務局業務を何年続けても、組織の事業に必要な専門性の向上も、要員が組織内で活躍するのに役立つ専門性の向上も期待できない。事務局を廃止し、要員を専門性に応じて品質保証なり環境管理なり、或いは、他の部門に戻して、その部門業務の一環として関連するそれぞれのいわゆるISO業務をも担当させるようにすることで、それぞれの部門業務の専門性を伸ばしていくことができる。
 
(3) ISO事務局体制の固定化の懸念
  事務局経験を積んだ後に審査員やコンサルタントに転ずる向きが少なくない。これらの人々が事務局体制下のISO業務という考えや経験の上に立って仕事をするとするならば、実務と遊離して二重帳簿となったISOマネジメント システムに係わる業務実行の状況を固定化することに繋がるかもしれない。組織の役に立たないと言われる規格や認証制度の現状がさらに強化されることになるのだろう。
H24.7.5 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所