ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
100       国内委員会の役割を超えた規格解釈の説明
           - 2015年 ISO14001 CD.1版 詳細解説
<62b-01-100>
1. Committee Draft 1 詳細解説
  国内委員会の日本代表エキスパート、奥野麻衣子氏が書いた「Committee Draft 1 詳細解説」という表題の2015年版ISO14001のCD.1版に関する雑誌記事*1を読んだ。記事で同氏は、改定作業の進捗動向を説明し、改正作業の基準となるEMS将来像報告書*2の改定推奨事項に触れ、大きく変わる箇条として5点を取り上げて見解を詳しく説明している。この「詳細解説」は、肝心の改定推奨事項がどのように条文化されたかの具体的説明のないまま、国内委員会が主導しようとする改定版解釈*4を披瀝するものとなっており、規格執筆者の役割と責任に照らして強い疑問を禁じ得ない内容である。
 
 
2. 規格に関する組織と規格作成者の役割
  そもそも規格作成とは、「自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化することを少数化、単純化、秩序化する」という標準化*3の活動である。規格作成活動は、発明や発見を主張する学術書や特許、架空の世界を創造する文芸作品、規制のための法規の作成のような創造活動ではない。既存の事物を整理し体系化する活動である。
 
  環境経営は組織の必要に基づく活動であり、その効果的実行と考え方や手法の開発、改善は組織の経営者や管理者の職務そのものである。ISO14001規格の作成、改定の作業とは、世界の実績ある様々な環境経営の考え方や手法を調査分析し共通点を見出し、論理化し体系化して、その時点での最も効果的な環境経営のあり方としての論理の体系を確立し、世界の組織が利用できる実用的指針とし規格書に記述することである。
 
  ISO14001規格作成者の責任は、組織の環境経営活動を規制する基準としての規格づくりではなく、世界の組織に使用されて世界経済の発展と地球環境の保全が両立する持続可能な社会の実現に繋がるような組織の環境経営の指針としての規格をつくることである。規格改定作業における議論はこの観点で行われているはずである。
   
 
3. 規格作成者の役割としての規格解説
  このような役割と責任に照らすと規格作成者たる国内委員会の規格解説とは、規定化の意図と条文表現の意味を説明するものでなければならない。それは、持続可能な社会の実現に資する環境経営のための、このような実績ある実態、それらに関するこのような論理、方法論を表すために、このような条項、条文でこのように表現をしたというような説明である。そのような意図の条文を具体的にどのように受け止めてどのように業務に適用するか、つまり、規格の条文をそれぞれの事情に応じて事業発展に資するように実践的に解釈するのは規格使用者の認証組織の役割である。
 
  例えば「詳細解説」では、「大きく変わる箇条」のひとつとして4.1(組織の状況の把握)をとりあげて、「自社のEMSに関して取り組むべき課題を見出し、これを6.1(リスク及び機会に取組むためのアクション)へと流れ込ませて計画段階で考慮する。 9.3(マネジメントレビュー)は『関連する内外の課題における変化』の考慮の規定によって4.1と繋がりがある」というような規格解釈の説明がされている。しかし規格作成者の役割を果たす説明とは例えば、「4.1,2−5.2(方針)−6.1,2−8(実行)−9.3のサイクルは、実務の経営活動の課題の抽出とその解決のための方針、目標を明確にしこれを確実に実現するように業務を管理するというPDCAサイクルを、或いは、経営論のPlan-Do-Seeサイクルを、或いは、経営論の計画−リード−統合及びその結果の目標達成度評価を事業環境・組織能力の再認識に繋げて再び計画に戻るという循環により組織目的を達成していく経営活動の過程、を表している」というように、条項設定と条文の意図の説明であるべきである。
 
  2015年版改定作業はその必要性と改定の意図と方向を示した「ISO14001の将来像報告書*2」の11項目、24件の改定推奨事項に基づいて行われることになっており、それにより以降20年間は改定の必要なく社会と組織に役立つ内容にすることが改定の意義とされている。改定作業の経過報告である「詳細解説」であるなら、各改定推奨事項の意義とそれらがどの条文にどのように反映されているという説明を中心としたものであるのが筋というものである。これにより規格使用者は約束されたように意義のある改定版となりつつあるかどうかが判断できる。また、この説明があれば、要求事項の変更か表現の変更かを含めて変更された条文の意図が明らかになる。
 
 
4. 国内委員会と認証組織の正しい役割分担
   考えるにこれまで国内委員会が規格解釈に絶対的権威を保ち、それを規格使用者からも認められてきたのは、関係者が規格というものの性格をよく考えてこなかったからであろう。実際、ISO14001規格が組織に認証取得を許すための組織に対する要求を規定するものであり、国内委員会の役割をこの要求を決める権限の行使であるかに思われている。このような認識の下に、国内委員会が改定説明をせずに規格解釈を発表し、これを専門誌が掲載し、組織や認証機関、研修・コンサルティング組織や個人が高い関心を示す。この状況の下に、初版では全員参加の環境改善活動という解釈により”紙ごみ電気”節減活動が蔓延し、04年版では「本業での環境改善」が唱えられて歩留向上が環境改善活動とみなされるような状況がもたらされた。「詳細解説」では「戦略的な環境改善活動」という国内委員会の2015年版解釈*4に沿った条文解釈が説明されている。
 
  国内委員会が規格解釈のすべての側面で認証組織の上に立つ認証制度のこれまでの結果に組織や社会が満足していないことは、認証件数の引き続く減少という事実で明らかである。国内委員会が2015年版で新しい解釈を押し出してこの状況を改善しようとしているなら、これまでと同様、組織や社会には認証制度への失望しか生まない。ISO14001規格と認証制度が組織や社会に有用なものとなるには、規格というものの性格に照らした規格作成者と規格使用者が本来の役割分担に戻ること、とりわけ認証組織の認証制度の意義と規格解釈に関する主体的判断が必要で不可欠である。
 
*1: アイソス No.191 2013年10月号
*2: TC207, the future challenge for EMS, Report of the future challenge for EMS task force to ISO/TC207/SC1
*3: 日本工業標準会、工業標準化とは、http://www.jisc.go.jp/std/index.html
*4: ISONET Vol.95, ISO EYE‘S 対談シリーズ第8回、時代の変化に対応する「2015年改正」
H25.10.19(H26.7.5修) 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所