ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
101       条文は大きく変わっても要求事項の追加はわずかという考え方
           2015ISO9001/CD に関する画期的な国内委員会の見解
<62b-01-101>
0. 要旨
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1. 委員会原案(CD)の概要 説明
  国内委員会副委員長、山田 秀氏は、雑誌*1で「次期改定最新動向を明かす」という副題の下で2015年版ISO9001の「委員会原案(CD)の概要」を説明している。この中で同氏は、改定方針、改定作業の実情に鑑みてCD版が「08年版に比べると順序や見た目が大きく異なるものの、本質的にはいくつかの細かな要求の追加ということなる」と前置きして、要求事項の追加は共通テキストからくるリスク関連だけと説明し、その他には大幅な要求事項はほとんどないとCD版の内容を総括している。この同氏の見解は、見た目(条文表現)と要求事項(条文の意図)とは別物だとする考えに立っているという点で画期的である。
 
 
2. 要求事項と条文
  ISO9001は、品質保証、顧客満足の追求の観点から事業発展を図る経営管理活動が効果的であるための必要条件を規定している。各規定は経営管理のそれぞれの業務が如何にあるべきかを示すものであり、それが文章で表現されたものが「〜しなければならない」という記述様式で書かれた条文である。それぞれの「如何にあるべきか」は、世界の品質経営管理の実態の中の最も効果的と考えられる行為、方法であり、これを正確に伝えようとして、わかり易く簡潔な表現を意図して書かれた文章が条文である。
 
  規格の意図では「如何にあるべきか」が品質経営管理の業務が効果的であるための必要条件(requirement)であり、JIS和訳の『要求事項』の本当の意味である。規定の「〜しなければならない」の文章の「条文」は、これとは本質的に別物であり、『要求事項』が同じであっても、それをどこまでどのように表現するのが必要で十分かの観点から様々な条文があり得る。どの改定時でも『要求事項』をわかり易くするための「条文」の改善が改定の目的に含められてきたのは、『要求事項』と「条文」が異なることの現れである。
 
 
3. 伝統的な日本流規格解釈
  しかし日本では、必要条件(requirement)が『要求事項』と和訳され、『要求事項』は「如何にあるべきか」を意味するものではなく、組織に「要求する事項」であり、「〜しなければならない」という条文そのものが『要求事項』である。従って条文の文章の意味するところが変われば無条件に要求事項の変更と見做される。
 
  8年版改定は「条文の要点を明瞭化する」ためであったと序文に明記されているように、「如何にあるべきか」の伝え方の改善としての条文表現の変更であったが、文章の変更を理由に検査合格の記録や次工程送りの許可者の記録は不要になったと「如何にあるべきか」の解釈が変更された。
 
  逆に条文に書かれてないことは規格の要求ではないから、「如何にあるべきか」の実現に当然必要なことでもやる必要がないとされる。例えばISO9001,14001両規格共に法規制遵守が要求事項となっており*4、そのために実務的に必要となる法規制の最新版の把握と遵守評価はISO14001では条文に書かれているので認証審査で厳しく審査されるが、ISO9001にはその条文がないことを以て「ISO9001はそこまで要求していない」として組織は何もやらなくともよいと解釈されている。
 
 
4. 山田氏見解の重要性
  雑誌記事で山田氏が、「見た目」たる条文の文章が変わっても『要求事項』の追加や変更とは限らないとの考え方でCD版の規定を説明しているのは、これまでの国内委員会主導の規格解釈にはなかった考え方という点で正に画期的であり、本来の規格解釈の原則に則った正当な考え方である。
 
  条文の「〜しなければならない」を、認証取得のために組織が何をしなければならないかの『規格の要求』として捉え、文章で表されたその何かの実行を組織に求める規格解釈が、役に立たない規格、信頼のない認証制度という評価と実態の根本原因のひとつである。組織と社会が不満を持つISO9001を取り巻く現状の打破には、同氏の示唆する考え方が広く行き渡ることが不可欠である。
 
 
5. 今後の展開
   記事の説明には、規定の意図の「如何にあるべきか」と条文の「〜しなければならない」との本質の違いには直接触れた部分がないから、同氏の「見た目は変わっても要求事項の変化とは限らない」との説明が、同氏が本来の規格解釈の原則を意識した上のものであるかどうかは定かではない。実際、同氏は、08年版に存在せず共通テキストから来たという理由で新4章中心の一連のリスク対応の規定を新たな要求事項であると説明し、同記事続編の改定版箇条別解説*2では新4.4.2項(プロセスアプローチ)の規定を08年版序文(0.2項)で書かれていた「推奨事項」が「要求事項」として追加されたと説明している。
 
  また、記事では私見と断った部分もあり、同氏の規格解釈の新しい考え方が国内委員会の総意かどうかも疑わしい。例えば箇条解説で同氏が、新8章を08年版の7章(製品実現)に対応したもので、「変わったという印象を受けるかもしれないが、大幅な要求の追加についての議論、合意はないので、あくまでも見た目が変わっているだけである。」と断定しているのに、同じ国内委員会の日本代表エキスパート、須田晋介氏の8章に関する箇条解説*3では「要求事項の追加」が連発されている。
 
  CD版解説で同氏が示唆する「条文は変わっても要求事項の変更とは限らない」との考え方が、伝統的な日本流規格解釈に一石を投じるものとなり、正しい解釈と価値ある認証制度の実現に向かうことになることが期待される。ただし、現実は、一時の波紋として同氏を含めて誰にも気づかれずに消えてしまうことになる可能性も高い。
 
 
*1:山田 秀、ISO9001次期改正最新動向を明かす、委員会原案(CD)の概要、アイソス No.190, 2013年9月号、p.1〜5
*2:山田 秀、次期改定ISO9001&14001 CD エキスパートによる徹底解説、Part1 ISO9001、改定版箇条4〜7.9/10解説、アイソス No.191, 2013年10月号、P.12〜19
*3:須田 晋介、次期改定ISO9001&14001 CD エキスパートによる徹底解説、Part1 ISO9001、改定版箇条8・解説、アイソス No.191, 2013年10月号、P.20〜26
*4: ISO9001, 7.2.1; ISO14001、4.3.2, 4.5.2
H25.11.18 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所