ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
102 冷凍食品農薬混入事件と
ISO9001/CD 新要求事項「意図的な規則違反の防止処置」
<62b-01-102>
 
要約  こちら
  
 

1月に発覚のマルハニチロ食品の冷凍食品への農薬混入事件が従業員による犯行であったことが社会に衝撃を与えている。事件を食品テロだとして作業現場での不法行為の監視と防止の体制の確立の必要を説く専門家さえテレビに登場した。はしなくも改定中の2015年版ISO9001 CD版には業務実行管理に関して「意図的な規則違反のような人的過誤による不適合が阻まれていること」との規定がある(8.6.1 i)項)。これは日本の国内委員会が品質不祥事防止に必要として提案したものと説明されているから、同委員会は我が意を得たりと鼻を高くしているかもしれない。しかし、どちらも大きな間違いである。
 
  なぜなら、2008年発覚の中国製毒餃子事件の際に日本人が原因として問題視したのは、中国企業の品質管理や内部犯行監視体制の不備ではなく、そのようなことを従業員が引き起こすという中国人の職業意識やそのような従業員を内在させる企業の経営体質の方であったと記憶しているからである。すなわち当時、経営の専門家ではない大衆が問題の本質が中国の文化水準の低さにあると看破したのである。この判断の元はみんなが事件が自分たちの国では起き得ない性格のものだと考えたことであり、判断は自分自身を含む日本人や日本社会の倫理性、教養、誠実、勤勉の文化への誇りと自信の裏返しであったはずである。中国の毒餃子事件の裁判が判決を言い渡して結審したというニュースがマルハニチロ食品事件の報道に隠れるように報道されたが、そのような扱いが中国並みの低級な犯罪を日本人が起こしたという大衆の恥ずかしい気持ちをメディアが慮った結果と考えると合点がいく。
 
  そして、この大衆の判断は、原因が犯罪的行為でなくても不良品を出さない或いは顧客満足の製品・サービスを提供できるかどうかは、従業員の文化水準とそれに根ざす勤労精神と密接に関係しているという今日の世界の経営の常識に合致しているのである。このような認識は、1970年代の後半になって日本製品に対する低賃金労働の産物の安物の廉価品というレッテルが外された時に始まる。すなわち、この時期に日本製品の優れた品質を欧米の政府や産業界が認めたのは、欠陥がなく故障がないと消費者が実感した高い品質水準が、日本人と日本社会の高い文化水準とこれに依拠した企業の経営手法を背景としたものであることが理解されたからである。1980年前半に米国に滞在した筆者も近隣の人々から異口同音に「日本人はよく働く/日本人は優秀だ」とのほめ言葉を頂戴した。米国の大衆も日本製品の優れた品質の由来を理解していたのである。
 
  実際、1980年代に米国企業が製品品質向上のために取り入れたのは、日本の品質管理手法ではなく、従業員の意欲向上や職場の活性化など当時のいわゆる人間重視の経営の手法であった。レーガン大統領が米国産業の品質競争力向上のために設定した優秀業績企業表彰制度では、7項目の必要条件の1000点満点で業績の優秀さが判定されるが、事業実績に与えられる450点を除いて経営体制に対する550点の内で労働条件、教育訓練・能力開発、従業員の幸せ・満足感という人的資源に対する取組みに対して85点が与えられている。以降の米国では、やる気を持った従業員という意味で“engaged”という言葉が盛んに使われるようになる。
 
優れた品質、顧客満足の追求、ひいては企業の業績追求には、要員のやる気、責任感、開かれ活性化した職場が不可欠である。すべての要員が決められた手順に則って業務を行い決められた結果を確実に出すことで初めて組織の狙いの業績を実現できるのであり、組織にはそのための様々な手順や資源を工夫し用意すると共に、要員がその職責を理解し職務を完遂する意志と能力を涵養し、それを発揮できる環境を維持することが必要である。これはISO9001では、コミットメント、認識、職務能力(JIS和訳は『力量』)、教育訓練、品質方針の従業員への伝達、情報交換(コミュニケーション)、作業環境(物理的環境+心理的環境)として規定されている。
 
  しかし、日本の認証制度では例えば、方針と個人品質目標を書いたカードの携帯が認識を持った従業員の証となり、個人スキルマップが職責の理解と遂行能力の証となり、照明の照度点検記録があれば作業環境に関する要件を満たしたことになるなど、規格の意図とかけ離れた解釈が幅をきかせてきた。日本で起きた品質不祥事の原因が「意図的な規則違反」であったなら、規格の規定を正しく実践してこなかったことが原因である。これを放置しておいて、2015版では審査員が、マルハニチロ事件に鑑みて異物が隠して持ち込まれ意図的に混入されることのないような処置、例えば工場入口でのX線全身透視検査や作業者による相互監視体制を求めることになるのだろうか。日本人としての誇りの倫理性や誠実さ、勤勉さを疑われ、管理者や仲間から信頼されず、仲間を信用できないような職場で組織のために一生懸命働けというのだろうか。組織の発展の道しるべのISO9001の実践により逆に組織が内部崩壊するという悪夢が頭をよぎることにもなる国内委員会の問題認識と提案の規定である。
H26.2.11 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所