ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
99   共通テキスト採用の2015年版ISO9001/14001は大改訂となるのか?
           ― 規格の改定:決め事、規定、要件、文章
<62b-01-99>
1. 改定作業の開始
   ISO9001/14001の改訂作業が始まった。どちらも最近正式に決まったMSS上位構造と共通テキストを適用することになっており、規格書の構成や文章が大きく変更される改定になることが間違いない。組織には対応に大きな負担が掛かる規格の改定は基本的に好ましいことではないが、認証業界からは共通テキストに対しても重大な要求事項の変更を見出そうとする論説が早くも現れ、両規格が大改定になることへの期待が高まっている。認証業界の動きには、規格改定による自らの事業機会と収益への渇望が見え見えであっても、なぜ規格を改定しなければならないのかの視点がなく、規格改定で顧客たる認証取得組織や社会にどのような利益を提供できると思っているのが全くわからない。果たして15年改定版は大改定となるのか、組織に大きな負担が課されることになるのか、認証業界は利益を挙げることができるのか。これには規格の改定とは何かということについて考えてみることが必要である。
 
 
2. 規格、決め事、規定、要件、文章
  「規格(standard)」とはものごとの「標準」を定めたものであり、規格作成に係わり又は規格を使用する関係者や組織の間の「決め事」を「標準」としてまとめたものである。決め事を表すのが「規定(provision)」であり、「規定」は一般に「文章(text)」で表記される。すなわち、ものごとの仲間内の「標準」たる「決め事」は「規定」として「文章」で表記される。「規格書」は「規定」を一定の規則で条項別に整理して文章で表記した文書のことである。
 
  ISOの規格起草規則(1)では「決め事」を、遵守しなければならないもの、必要な時に参考にするためのもの、考えかたを明らかにしたものに分けて、それぞれの決め事を『要求事項』『推奨事項』『記述事項』と名付けて、それぞれの規定の表記方法を定めている。日本でISO9001/14001規格の規定のことを『要求事項』と呼ぶのはここから来ているものと考えられるが、この原文は“requirement”であり、「要件、必要条件」と和訳するのが正しい。ISO9001/14001規格では、この「要件」としての決め事を『〜でなければならない』『〜を〜のように行わなければならない』というような文章で表記した規定が4〜8章/4.1〜4.6項に整理されている。各規定は、効果的な品質保証・顧客満足/環境保全の経営管理(マネジメント)であるための要件を表す。
 
 
3. 規格改定の中味
(1) 規定の文章の変更
  規格の改定とは規定の文章が変わることであるが、文章の変更は必ずしも決め事たる規定の変更、つまり、ISO9001/14001の場合は要件の変更を意味しない。例えば、ISO14001の04年版も、ISO9001の08年版も、『要求事項』には変更はなく、わかりにくい或いは誤解を招く文章の変更であり、両規格の同じ規定を同じ文章で表記する、いわゆる、文章表現の両立性の改善のための文章の変更だけであった(両規格序文)。
 
  また、ISO9001の00年版は規格の構造と規定を一新する大改定であったが、改定目的が規格の適用を94年版までの製造業中心からすべての業種業態に拡大できることであったから、ほとんどの規定は決め事の変更でなく、文章表現の変更であった。例えば、『測定項目及び必要な精度を明確にし、必要な正確さと精密さをもつ適切な検査、測定及び試験装置を選定すること(94年版:4.11.2) 』と『監視及び測定の要求事項との整合性を確保できる方法で監視及び測定が実施できることを確実にするプロセスを確立すること(00年版:7.6)』とは同じ決め事の文章表現の変更であり、マイクロメーターやノギス等を使用していた組織はその計測器管理手順に何の変更を加える必要はなかった。
 
(2) 規定の意図の変更
  ISO9001/14001などマネジメントシステム規格の要件たる規定は、効果的な経営管理(マネジメント)であるための「決め事」である。ISO9001の規定する「決め事」は、組織が品質保証・顧客満足の追求を通じて、事業の発展を図るためには遵守しなければならない経営管理(マネジメント)の各業務に関する要件である。これら要件は、1970〜1980年代に優れた製品品質で成功した世界の優良企業の経営管理(マネジメント)の実態、実績に基づく論理と方法論がマネジメントシステム(経営管理の枠組み)の要件として整理されたものである。ISO14001の地球環境保全追求も基本的には同じ論理と方法論に立脚して持続的発展という世界共通の決め事をマネジメントシステム(経営管理の枠組み)の要件として整理している。
 
  マネジメントシステム規格の「決め事」は単なる約束や合意ではなく、効果的な経営管理(マネジメント)のために必要という共通認識の上の「決め事」である。製品規格の決め事、例えば蛍光灯の標準ワット数のように切りのよい数字だから20W、30W、40Wの3種類を標準とするというような「決め事」ではない。マネジメントシステム規格の「決め事」を変更するには、新しいより効果的な論理や方法論が見つかるか、状況変化のために既存の「決め事」が不適切となるなど、事実や実態に基づく変更の理由とそれに対する関係者の共通認識が必要である。
 
  例えばISO9001の87年初版から94年版への改定では、世界の設計管理の論理と方法論の進歩に基づいて決め事が大きく変更された。例えば、『設計審査』を設計活動を方向づける管理活動として独立させ、『設計の妥当性確認』の概念が導入された。また、要員を機械の一部ではなく人的資源とみる日本的経営の論理と方法論の世界での浸透と理解の整理の進展に伴って初版から94年版、さらに00年版へと『教育・訓練』『力量』『資格認定』『認識』など用語と要件としての決め事が大きく変更されている。さらに00年版では、供給網や外注形態など1990年代に大きく変わった企業間取引の論理と実態を写して下請負契約という用語が姿を消し、供給者やアウトソースという用語に置き換えられた。
 
 
4. 15年版改定の中味と認証取得組織に必要な対応
  改定作業中のISO9001/14001は上位構造と共通テキストを適用することになっており、とりわけISO14001は条項構造も文章も大きく変わる大改定となる。しかし、『共通テキスト』とは原文では“identical text”であり、すべてのマネジメントシステム規格に「同一の文章」を使用するという目的で作成された文章である。従ってISO9001/14001の共通テキスト適用による規定の変更は、いわゆる要求事項、つまり、決め事たる要件の変更ではない。単なる文章の変更であるから、規定が同一文章化されても例えば既存の文書や記録の管理などの手順は何ら変更する必要はない。共通テキストには従来にない新しい用語や規定があるようにも見えるが、既存の決まり事の新しい表現に過ぎないから、既存の手順を新しい表現に照らして見直し、理解することでよい。改定が共通上位構造化と共通テキスト化に留まるなら、規格は大幅な改定であるが、決め事は何も変わらないということである。規格に適合した品質/環境マネジメントの手はずを整え、実践し、登録証を取得している組織は、組織の仕事のしかたは一切変える必要はなく、マニュアルの文章を新しい条項に従って並び替えるだけでよい。
 
  問題は、文章の変更を越える規定の改定、つまり、決め事たる要件の変更がどれくらいあるのかということである。認証制度に係わる人々が絶対多数を占める両規格の改定作業はこれまでずっと、改定ありきの議論が先行してきた。しかしISO規格の5年毎の定期見直しは、「技術革新、新技術や新製品、品質や環境に関する新たな必要によって、また、解釈や使用上の問題から規格が時代遅れにならないようにする」ことが狙いであるとされている(2)。ISO9001の08年版、ISO14001の04年版の改定作業では、何百件にもなる改定提案があり、収拾がつかない状況を経て結局、いわゆる要求事項の改定を先送りにしたとされているが、ISOの規格見直し基準に適合する改定の理屈が見出せなかったというのが実態であったとも推定される。しかも、この中の共通テキストに関連する事項は事実上改定することはできない。
 
  いずれにせよ、15年版に決め事の変更が含まれるなら、ISOの規格起草規則(3)に従ってその趣旨は規格の前書き(Foreword)で説明されることになる。JIS規格は原文のForwardを省略しているから、15年版に決め事の変更があるなら、この部分を原文で確認する必要がある。組織は、規定の変更の趣旨を把握して変更された文章を解釈し、必要な業務の手はずの修正と新手はずに基づく業務を行うようにしなければならない。当然、手順書や使用する資源の変更が必要であるかもしれず、マニュアルの記述の変更も必要になる。しかし、決め事が大きく変わることはあり得ず、例え改定があっても組織の対応の必要はごく限られた手順の変更で済むはずである。
 
   
5. まとめ
  ISO9001/14001の15年版が認証業界が大改定と囃し立て、認証取得組織には改定対応のための負担と新たな形式的業務の無駄が課されることが十分に予想される。認証取得組織がしっかりしないとそれに踊らされることになる。同時に改定の負担に鑑みて登録証を放棄する組織が多数現れる可能性もあるから、大改定すなわち認証業界の大きな利益ということには必ずしもならない。
 
  日本では「規定」は「規格の組織への要求」を意味するとされ、認証機関が登録証を発行する基準と広く誤解されている。また、「規定」が意図する「決め事」とその表現たる「文章」との違いに対する認識が欠けており、「文章」すなわち「規格の要求」とするいわゆる要求事項解釈が行われている。さらに、「規定」の意図たる「決め事」の解釈は原文の英語に基づいて行わなければならないとするISO規格の国家規格化に関する規則(4)に従わないで、翻訳文であるJIS規格の日本語を用いて行われている。このような規格理解と解釈が日本でISO9001/14001規格とその認証制度が無力となっている根本原因であり、規格改定毎に大騒ぎをすることになる原因でもある。
 
  次回改定を「規格の要求」という馬鹿げた認識を改める機会とし、「規定」の改定の意味を正しく理解して大騒ぎしないことが、組織にはもちろん、認証業界にも利益となるものと思われる。
 
 
引用文献
(1) ISO/IEC Directives, Part 2: Rules for the structure and drafting of International Standards; 3.12 (Provisions)
(2) ISO中央事務局: News, Ref.:1180, 2008-11-14
(3) ISO/IEC Directives, Part 2: Rules for the structure and drafting of International Standards; 6.1.3 (Foreword)
(4) ISO/IEC Guide 21:1991(E), Adoption of International Standards as regional or national standards; 3
H24.8.9 
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