ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
101       不適合な是正処置−JABの信頼性向上対策
           -登録件数減少に歯止めのかかる可能性はほぼ絶無-
<62c-01-101>
1. JABの信頼性向上取組み
  JABはISO9001の改定の方向性を検討する「今後のISO9001に関するワークショップ」を2月22日に開いたとして、ウェブサイトで報告している。この中には、冒頭の趣旨説明としてJAB認定センター長が「現在生じている問題・課題の共有」を目的とする「日本における認証の実態」という講演を行ったことの報告があり、報告に用いられたのであろう資料が公開されている。この資料では、初めに認証の現状として近年の登録証発行件数の減少傾向が挙げられ、認証信頼性向上への取り組み、今後の課題と続いている。この資料構成によって、これまでの信頼性向上取組みが、登録証発行件数の減少を食い止める目的であったことがはっきりした。
 
  ISOマネジメントシステム規格流に表現すると、近年の登録総件数の減少は認証制度管理機構としてのJABにとっては目論見に反し、その事業活動で期待される成果に対する不適合であり、一連の信頼性確保の取組みはこの原因を除去して登録総件数の減少に歯止めを掛ける是正処置である。ISOマネジメントシステム規格では再発を確実に防止する又は問題を確実に解消する真に効果的な是正処置であるための必要条件が規定されている。JABの信頼性確保の取組みが功を奏して登録件数減少が止まるのかどうかは、その信頼性確保のための一連の施策が、規格の是正処置の要件を満たしているかどうかで評価し、判断することができる。

2. 登録件数減少に対する是正処置としての有効性
(1) 効果的な是正処置の要件
  ISOマネジメントシステム規格の中ではISO9001の是正処置の要件がもっともわかり易い。ISO9001ではその8.5.2項に、問題の解消又は再発の防止を確実なものとする効果的な是正処置であるために必要な手順を6段階に分けて規定している。すなわち、a)不適合の内容検討、b)原因の特定、c)再発防止処置の必要性の評価、d)処置の決定と実行、e)実行の結果の記録、f)効果の総合評価である。これに合わせて是正処置が行われるように、登録組織では特別な書式を定めているのが普通である。
 
(2) 是正処置要求書への展開
  次は、組織でよく使用されている典型的な書式を用いて、講演に用いられた資料の内容を展開し、表記したものである。 
 
 
(3) 規格適合性の評価
  上記の是正処置要求書を用いて、登録件数減少に対するJABの是正処置の規格適合性を評価し、判断してみたい。
 
@ 不適合の内容の調査と分析(a)項)
  a)項の不適合のレビューでは、登録件数の推移を3種のグラフで表している。この中から日本のISO9001の登録総件数の減少が2006年に始まり、減少の主因は建設業の減少であり、建設業の減少件数は2006年以降の総件数の減少5,000件に匹敵すると分析している。
 
A 原因の調査と真の原因の特定(b)項)
  b)項の原因調査では、JABの過去のアンケート調査の中の、登録証の取得が顧客監査の軽減に繋がらないという組織の不満を取り上げている。そして「認証された組織の不祥事発生」が多発しているとして10件の不祥事をリストアップしている。その上で「MS認証の信頼性が揺らいだ」と記述されている。つまり、登録取得組織が不祥事を起こすことが、MS認証の信頼性を低下させ、顧客が自ら行う監査を緩めず、従って組織には登録取得の効用が無く、結果として登録件数が減少していくという筋道なのであろう。信頼性低下が直接原因で、登録組織の不祥事が真の原因である。
 
  しかしこの原因分析には問題が残されている。なぜならa)の分析では登録数減少は偏に建設業の減少の結果であり、一方b)の不祥事発生リストでは建設業は不祥事を起こしていないとされているからである。不祥事を発生させない建設業が登録総件数減少の主体であるという事実からは、不祥事が真の原因とする答えは容易には導き出すことはできない。この分析の状況では不祥事以外に真の原因が存在する可能性が否定できない。
 
  原因の調査が適切に行われたと言えず、正しい原因が特定されたと判断できる証拠がない。不祥事を真の原因した原因調査と特定の活動はb)項に照らして不適合である。
 
B 再発防止処置の必要性の評価(c)項)
  信頼性向上取組みを進めているのだから、必要性が評価されたのであろう。
 
C 処置の決定と実行(d)項)
  登録総件数減少の真の原因が登録組織の不祥事だとした場合、信頼性向上取組みの一連の施策のどれもこの真の原因を除去することとどう係わっているのかが明らかでない。「MS認証信頼性向上イニシアティフ」にはJABの取組みに「組織不祥事への対応」という項目が挙げられているが、これに対応する具体的な施策は明らかにされていない。一連の施策は原因を除去するという規格の是正処置であるとみなすための根拠の説明がない。従って処置が正しく決定されたという証拠がなく、d)項に照らして不適合である。
 
  更に、例えば「認定審査結果の情報公開」の内容は明らにされているが、それによってどのようなことを実現しようとしているのかが明らかにされていない。是正処置であると言う以上は、それによってどのような原因が取り除かれ、どのようなことが実現し、それによって問題の解消又は再発防止にどのように役立つのかが明らかでなければならない。どのような結果、効果が出るかわからないものをやるというのは、規格のPDCA/プロセスアプローチ サイクルの原則に反する。規格ではある目的を果たすためにどのような結果が必要かを決め、次に、その結果を確実に出すように仕事の仕方を決める。ましてや、問題を防がなければならないという緊迫した事態で、どんな結果を出すのかを明らかにせずに、とりあえずやってみるというようなことは許されない。規格の是正処置の定義(ISO9000; 3.6.5))は誤訳されているが、原文では「検出された不適合の原因を除去する処置」であり、除去効果が明瞭でないものは是正処置とは言えない。信頼性向上取組みの一連の施策は定義に照らしても不適合である。
 
D 実行の結果の記録(e)項)
  効果があるかどうかわからない処置に費用と人をかけ、しばらく時間が経過して問題が再発し、又は、問題が解消しないことがわかったというのでは何をしたのかわからない。是正処置をとる以上、それでどのようなことが実現して、それにより問題又はそのある部分が再発しない又は解消するということが明確になっていなければならない。d)の処置の決定は、試験や実験、試行などに基づいて効果を明確にした上で行うのが普通である。これができない場合は処置を実行して結果を評価して効果のあることを確認する。e)は、この確認の記録を指す。
 
  これは行われた形跡はない。やろうと思っても、d)で処置の狙いを明確にしていないから行いようがない。それは別にしても、記録がないから e)に対して明確な不適合である。
 
E 効果の総合評価(f)項)
  登録件数の減少が止まらないという現実をみて、新たな処置として「今後の課題」を決めたのだろう。それなら「今後の課題」は是正処置の是正処置であるから、a)〜f)項の手順を踏まなければならないが、どのようにしてこれらの処置を取り上げたのか、その狙いは何かの説明はない。「今後の課題」が是正処置だというなら、不適合である。
 
3. 結論
  以上のようにJABの一連の信頼性向上対策処置は、登録数減少傾向に歯止めを掛けるための是正処置としては多くの点で規格要求事項を満たしていない。8.5.2項の各項は、処置が問題の再発防止又は解消を確実に実現させる効果的なものであるための必要条件であり、規格の意図に沿って満たさない限りは問題の再発防止や問題解決をすることはできない。JABのこれまでの是正処置も「今後の課題」という是正処置も規格に照らして不適合だらけであり、規格の論理を正しいとすれば、信頼性を向上させることも、登録数の減少を押しとどめることもできる可能性は絶無である。今後万一、登録件数が増加に転じ、それをJABが信頼性向上取組みの成果と主張するなら、それはISO9001規格に依らずとも再発防止が出来、規格は無用の代物であるということであり、規格の普及によって成立っているJABがその存立の基盤を失う時である。JABや業界権威諸氏には、傘下の研修機関の是正処置の講習会を受講することを勧めたい。
H23.3.26 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所