ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
102     家電大手の経営危機とISO9001認証制度 ‐ 顧客満足の軽視 <62c-01-102>
 1.家電大手の経営危機
  特に昨年来、かつては世界を席巻した家電大手の深刻な経営状態が様々に報じられている。4月2日付け日経新聞のコラム「経営の視点」は「電機再建に挑む新社長たち」という見出しで、この原因を分析し、各社の事業再建のための経営改革の取組みの共通点を肯定的に、また、期待を持って概括している。コラム子は、各社が経営危機に陥ったのは設計から製造までを一貫して自前で行う伝統的な垂直統合ビジネスモデル による 高コスト体質が原因であるが、真の問題は「消費者が歓迎する商品を出せなくなった」ことだと断じている。これはISO9001規格が狙いとする顧客満足の追求の問題である。大手家電のどこもがISO9001規格の登録証をしている。そうであれば現状は、各社が規格を活用してこなかったこと、それにも係わらず規格に適合するとして登録証が発行されていたことを意味する。
 
2.ISO9001規格の狙い
  品質保証規格は第二次大戦後の米国国防省の調達武器の品質確保のための購買基準に始まるが、これが1987年に国際規格ISO9001となった時には1970〜1980年代に品質不良のないことで世界を席巻した日本製品への対応が背景にあった。すなわち初版ISO9001規格は、規格冒頭(1章)に規定されているように『不適合を防止することによって顧客満足を得ることを第一の狙い』とするものであった。顧客満足とは実務用語としては製品が売れるという状態を指す。この時期には、日本製品が売れるのは安価な労働力の結果や無理な安売りのためではなく、当時の欧米の製造業が不振に陥ったのは日本製品と比べて不良が多い、すぐに故障するというような品質不良が原因であるという認識が欧米で広く定着していった。つまり、不良品でなければ売れるという時代であったということである。
 
  1980年代に日本式品質マネジメントが世界で取入れられた結果、1990年代には製品に不良がないのは当たり前という状態となった。この時期に改定作業が行われた2000年版は、顧客満足は顧客のニーズと期待を満たすことで実現するという考え方で、旧版の伝統的な品質保証の上に製品の顧客満足を追求する規格となった。すなわち「組織は顧客に依存しているから、現在と将来の顧客ニーズを正しく把握し、そのニーズ又は期待を満たした製品を供給し、顧客の期待を上まわるよう真剣に努めなければならない」という基本的な考え方*1の下に、規格の規定は「品質マネジメントシステムの顧客のニーズと期待を満たすことへの有効性に焦点を当てた要求事項」を規定するものとなった(0.3項)。
 
3.顧客満足
  この顧客満足の考え方は、1990年代に進行した市場競争のグローバル化という新たな情勢に対して提唱されたマーケティング理論の原点でもある。すなわち、近代マーケティング論は、企業が永続し成長するには顧客が創造・維持されなければならず、それには顧客満足を軸にした売れる仕組みとアイデア・発想の新機軸が大切であるという考えを基礎としている*2。顧客の要求通りの製品では競合他社と同じ満足しか与えることができないから、競争優位を得ることはできない。顧客のニーズは、顧客の明示の要求を超えて、組織が探り、推し測るべきものであり、それを製品に転化する際の、製品における新機軸と他社にない製品を提供する差別化が、顧客満足の要諦である。
 
  00年版の規定は、このような競争社会の中にある組織が製品の顧客満足を継続的に維持、強化して生き抜くことを目指したものである。ISO9000規格(基本及び用語)は、規定の論理的根拠*3を次のように述べている。すなわち「顧客はニーズと期待を満たす特性の製品を求めている。・・・顧客のニーズと期待は契約で規定されることもあり、組織自身が決めなければならない場合もある。しかしいずれの場合でも製品をどのように受けとめるかは顧客の判断である。顧客のニーズと期待は変化し、市場競争があり、技術の進歩もあるから、組織は製品と業務方法を継続的に改善するよう駆り立てられる」のである。また、顧客満足の意味に関しては「顧客のニーズと期待が顧客と合意され、満たされたとしても、必ずしも高い顧客満足を保証するものではない」とも説明されている*4。00年版の顧客満足が実務のマーケティング論の顧客満足と軌を一にするものであることは明白である。
 
  00年版以降の規格では、不良品を顧客に出さないための日常業務管理と共に、永続企業として必要な顧客満足の維持のための製品の継続的な改善に関する トップマネジメントの戦略的判断の必要を規定している。トップマネジメントは、事業の維持発展に必要な顧客満足を確実に実現するよう組織を経営管理することに職を賭す覚悟でなければならず(5.1項)、製品の顧客満足を追求することの重要性を組織内に周知させ(同a)項)、どのような顧客満足を目指すべきかを明確にし(5.3項)、組織内の業務がその実現を図るように行われていることを自ら監視しなければならない(5.2、5.3項)。さらに、定期的に顧客満足の実現に関する経営管理の実績を総括し、変化する事業環境を勘案して、事業継続に必要な顧客満足の狙いの変更、新製品投入を含む製品の改善に関する戦略的判断を行わなければならない(5.6項)
 
4. ISO9001取組みの誤り
  コラム子は、家電各社が「物の良さ」に頼り、競争激化に対して設備の大型化と安売りで対処してきたという戦略上の過ちを指摘し、その上で各社の売れる商品づくりを目指すという経営改革の方向を「敗因を直視」するものとして肯定的に取り上げている。そして「電機再建に挑む新社長たち」としてそれらの3社の新社長の想いを表す「驚きと感動を与える商品をわいわいとつくる風土」「商品開発で冒険をする意気込み」「開発リーダーの若返りを図る」というそれぞれの言葉を挙げている。
 
  このことは、各社の品質マネジメントが94年版以前の不良の防止にのみ焦点を当て、狙いを00年版以降の顧客満足に拡げなかったということである。これは基本的に家電各社の過失であるが、『顧客要求をかろうじて達成したと顧客が受けとめれば顧客満足である*5』『継続的改善には製品の改善は含まれない*6』という規格解釈に基づいて、形式だけの顧客満足度調査の有無だけで顧客満足追求の規格適合性を判断する認証制度の責任でもある。今日の日本の認証制度では、規格解釈や認証審査が認証業界の恣意的な意向で行われている。この結果として規格が防止しようとしている事業不振、経営危機に認証組織が陥るのを傍観してしまった。この意味では日本の認証制度が効用を生み出さないばかりか組織の発展の足を引っ張ることにもなり得るという事例とみなすこともできる。
 
5.事業再建のためのISO9001取組み
  コラム子の肯定する製品の差別化による事業再建という各社長の想いは、その品質マネジメントを規格の要求事項に沿って実行することを意味する。しかし、どの社長もISO9001認証や規格取組みを自らの経営管理活動と関係するものとは思っていないだろうから、審査員の評価に供している現行の品質マネジメントの業務の枠組みを改めるというようなことはないのであろう。社長が顧客満足を重視し、顧客に買ってもらえる製品づくりに発破をかける一方、今後も顧客の要求を辛うじて満たせばよいのだとする、顧客満足軽視の認証審査用の業務が行われることになる。せめて社長は認証審査に合格したことに対してよくやったと部下を褒めないことである。
 
  家電大手の製品の品質評価は確立しており、登録証取得を理由として製品を選ぶ顧客は誰一人としていない。顧客が自分のニーズと期待が満たされていると感じる製品は登録証がなくてもその企業名やブランドで売れるのである。登録証は公正な第三者による品質信頼性のお墨付きであるが、ブランド商品と同じ品質なのに名前が知られていないために買ってもらえない企業に対して発行されてはじめて意味を持つ。ISO9001の認証制度とはそのようなことが目的である。
 
  必要ないのに登録証を取得しようとするから誤った規格解釈と様々な形式の実行を強制されることになる。家電大手の現状は、審査員の言うままに登録証の維持にのみに精力を費やしていては会社を潰すことにもなるという教訓である。登録証を取得する限りは経営者や管理者は、組織の発展の道筋を示すISO9001を自分の頭で考えて自らの組織の発展のために役立てるよう主体的に規格に取り組むべきである。登録証はこのような規格取組みの結果として自然に手に入るのである。
 
 
*1: ISO9000, 0.2(品質マネジメントの原則)、a)(顧客重視)
*2: 嶋口充輝: 顧客創造, 蒲L斐閣, 1998.12.25; (p.2)
*3: ISO9000, 2(品質マネジメント システムの基本)、2.1(品質マネジメント システムの論理的根拠)
*4: ISO9000, 3(定義)、3.1.4(顧客満足)、注記2
*5: JISQ9001:2000, 規格書文末解説 3.2e)
*6: JISQ9001:20

H24.4.15 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所