ISO9001/ISO14001
コンサルティング・研修

   
論評
  実務の視点  ISO マネジメントシステム コンサルタントの切り口
このセクションでは、 MS 実務の視点主宰者が、ISOマネジメントシステム規格を取巻く種々の問題を取上げ、
実務の視点に立つ  ISO マネジメントシステム コンサルタント としての見方、考え方を披露します。
目  次
ISO9001/14001
2015年版
誤訳・空論・珍説
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

組織の取組み
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

規格理解・規格解釈
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

認証制度と運営
ISOマネジメントシステム
認証登録の疑問と正解

認証業界よもやま話
メールマガジン
マネジメントシステム
と 規格



テーマ別  目次
-日本のISO取組みの問題点-
権威主義的制度運営
筋の通らない見解と決定
空虚なJABの信頼性向上対策
信頼性向上が目的のISO/IEC1702
JABの信頼性向上対策

QMS能力実証型審査の怪
東日本震災被災組織の支援策
有効な適合性審査
審査登録についてのJAB新見解
ISO機能不全の構造要因
不祥事防止は制度の狙いではない
審査機関の顧客は組織でない
製品の品質と システム の品質
日本のISO取組みの疑問と正解論 評 我田引水
認証制度とその運営
62c
実務の視点で、ISO9001/ISO14001マネジメントシステムの認証制度とその運営に関する日本の実態について
制度の狙いや意図の観点から問題を提起し、考察します。
   目 次
<最新号>

102.家電大手の経営危機とISO9001認証制度‐顧客満足の軽視(H24.4.15)
101不適合な是正処置−JABの信頼性向上対策
(H24.3.26)
100.認証制度信頼性向上が目的のISO/IEC17021改定(H24.1.11)
95. そんなに難しいことか、ISO9001と認証−QMS能力実証型審査の怪(H23,7.12)
  認証制度の意義、効用
102. 家電大手の経営危機とISO9001認証制度‐顧客満足の軽視(H24.4.15)
94. 登録証の継続した有効性の確保−制度の責任そして震災被災組織の支援(H23.5.23)
76.発展の芽を自ら摘み取る認証業界−JABが2つの文書を発表した意図(H21.9.10)
55. (続々)登録取得組織が不祥事を起こす理由−誤った登録審査基準の適用(H19.9.12)
51. 不二家再建の道筋狂わすISO9001登録停止の決定−時事寸評番外編(H19.5.9)
49. ISO登録証の有効性への疑念報道−不二家の品質不祥事(H19.2.2)
47. ISO14001と環境配慮投資、融資−価値のない登録証(H18.9.10)
45. 登録組織の不祥事と業界の対応−審査登録制度の信頼性を毀損(H18.8.14)
29. 審査機関の顧客は受審組織ではないという考え方(H17.4.5)
24. ISO14001:2004 で認証審査が厳格化される?(H16.11.20)
17. 製品の品質とシステムの品質(H16.7.19)
16.論理の説明のない簡易版EMS(H16.7.3)
6.役に立たないISOマネジメントシステム の行く末(H15.12.31)
3.付加価値のある審査
(H15.8.31)
2. ISOは役に立っているか?−混迷の実状(H15.8.31)

  認証制度の運営
95. そんなに難しいことか、ISO9001と認証−QMS能力実証型審査の怪(H23.7.12)
60. つながる点と線 -認定改革IAF案対応のJAB筋書(H20.1.20)
54. (続)登録取得組織が不祥事を起こす理由−誤った登録制度統制(H19.8.17)
52. 混迷を深めるか審査登録制度−審査のあり方に関するJAB新見解(H19.6.18)
38. ISO機能不全の構造要因(H17.12.10)
13. 審査とコンサル分離のJAB 新指針(H16.4.30)
 
  認証制度の信頼性向上取り組み 62c-c
101.不適合な是正処置−JABの信頼性向上対策(H24.3.26)
100.認証制度信頼性向上が目的のISO/IEC17021改定(H24.1.11)
89. 新日鉄防食配水管品質事故−早速試される有効性審査の本気度(H22.9.8)
83. ISO9001認証制度の有効性の検討−トヨタ自動車の大量リコール問題に関連して(H23..11)
迷走を続ける有効性審査論議
85. (6) まやかしの議論と結論−有効な適合性審査(H22.3.21)
84. (5) 審査現場混乱が必至の権威主義的決着(H22.3.9)
82. (4) 監査の論理を無視した議論が原因(H22.1.19)
80. (3) 有効性審査の監査基準、判断基準は何か(H21.12.26)
79. (2) 何の有効性を審査するのか(H21.12.18)
78. (1) 有効性審査は適合性審査とどう違うのか(H21.11.27)
68. 登録取得組織の不祥事は認証審査にも責任−有効な適合性審査(H21.1.13)
65. 「有効性審査」で認証制度の信頼が回復するのか−>経産省ガイダンス文書(H20.9.7)
 


102. 家電大手の経営危機とISO9001認証制度 ‐ 顧客満足の軽視  
   家電大手の深刻な経営状態が様々に報じられているが、4月2日付け日経新聞のコラム「経営の視点」はこの原因を分析し、各社が進める事業再建の取組みを概括している。コラム子は、経営危機の直接原因を設計から製造までを一貫して自前で行う垂直統合モデルによる高コスト体質であるとしつつ、真の問題は「消費者が歓迎する商品を出せなくなった」ことだと断じている。これはISO9001規格が狙いとする顧客満足の問題であり、各社はその認証を取得している。
 
  品質保証規格は第二次大戦後の米国国防省の調達武器の品質確保のための購買基準に始まるが、これが1987年に『不適合を防止することによって顧客満足を得ることを第一の狙い』とするISO9001規格として国際標準化された。顧客満足とはつまるところ製品が売れるという状態であり、規格の意図は不良がない、故障しないということで世界を席巻した日本製品並みの品質の追求であった。すなわち、不良品でなければ売れるという時代であった。
 
  1980年代に日本式品質マネジメントが世界で取入れられた結果、1990年代には製品に不良がないのは当たり前という状態になった。この時期に改定作業が行われた2000年版は、顧客満足は顧客のニーズと期待を満たすことで実現するという考えに立つこととなった。これは1990年代の市場競争のグローバル化という情勢に対して提唱された実務のマーケティング論と軌を一にしている。すなわち、企業が永続し成長するには顧客が創造・維持されなければならず、それには顧客満足を軸にした売れる仕組みとアイデア・発想の新機軸が大切であるという考え方である。
 
  00年版は「顧客のニーズと期待を満たすことへの有効性に焦点を当てた品質マネジメント システムの要件」を規定しており、旧版の伝統的な品質保証の上に製品の顧客満足を追求する規格である。規格は、不良品を顧客に出さないための日常業務管理に加えて、変化する顧客のニーズと期待を満たし続けるための製品の継続的な改善に関するトップマネジメントの戦略的判断の必要を規定している。
 
  コラム子は、家電各社が「物の良さ」に頼り、競争激化に対して設備の大型化と安売りで対処してきたという戦略上の過ちを指摘し、3社の新社長の経営改革の方向を示す「驚きと感動を与える商品をわいわいとつくる風土」「商品開発で冒険をする意気込み」「開発リーダーの若返りを図る」という言葉を肯定的に受けとめている。これは、各社の品質マネジメントが94年版以前の不良の防止にのみ焦点を当て、狙いを00年版以降の顧客満足に拡げなかったということである。このことは基本的に家電各社の過失であるが、『顧客要求をかろうじて達成したと顧客が受けとめれば顧客満足である』『継続的改善には製品の改善は含まれない』という規格解釈に基づいて、形式だけの顧客満足度調査の有無だけで顧客満足追求の規格適合性を判断する認証制度の責任でもある。
 
  家電大手の製品を登録証取得を理由として選ぶ顧客はいない。製品を売るために登録証は必要ないのに取得しようとするから、顧客満足を軽視することになり、無意味な様々な形式の実行を強制される。家電大手の現状は、審査員の言うままに登録証の維持にのみに精力を費やしていては会社を潰すことにもなるという見本とみることもできる。経営者や管理者は、自分の頭で考えて自らの組織の発展のために役立てるよう規格を解釈し実践するべきである。登録証が必要ならこの結果として手に入るのである。
このページの先頭へ 詳しくは<62c-01-102>

101. 不適合な是正処置−JABの信頼性向上対策
   ISO9001の改定の方向性を検討する2月22日のワークショップにおいて、JABは現状に関する問題意識を「日本における認証の実態」という講演で開陳している。資料を見ると、この数年のいわゆる認証の信頼性向上取組みが近年の登録件数減少傾向への対応を意図するものであることがわかる。ISOマネジメントシステム規格流に表現するなら、期待される成果ではない登録件数減少は認証制度運営上の不適合であり、信頼性向上取組みは原因を除去して問題を解消するための是正処置である。
 
  ISO9001では、問題の解消又は再発の防止を確実なものとする効果的な是正処置であるためには、a)不適合の内容検討、b)原因の特定、c)再発防止処置の必要性の評価、d)処置の決定と実行、e)実行の結果の記録、f)効果の総合評価の6段階の手順が必要であるとしている。これを基準に、JABの信頼性向上取組みにより登録件数減少が止まるのかどうかを占ってみたい。
 
  資料によると、a)で登録減少の総件数が建設業の減少件数にほぼ一致するとの解析結果を示し、b)で社会の登録証への信頼の低下が原因であり、その根本原因が登録組織による不祥事であるとしている。しかしb)には建設業の不祥事が含まれていないのに不祥事が建設業主体である登録総件数の減少の原因であるとするのは理屈に合わない。原因の特定が正しくなく、b)項の手順を踏んでいないから不適合である。
 
  c),d)で信頼性向上取組みの中の一連の施策が説明されている。しかし、d)の各施策は不適合の真の原因の除去でなければならないが、どの施策も不祥事発生防止とどのように関係するのかわからない。この理路整然とした説明がないのなら、d)項に対して不適合と判断されてもしかたがない。
 
  e)は、処置を実行した後に信頼性向上に係わる予定通りの結果が出ていることを確認することであるが、資料では何も触れられていない。これはd)で、どの処置もその実行により具体的にどのような結果を出すことを狙いとしているのかを明らかにしていないから当然といえば当然である。実行結果を追跡できず、従ってその記録をとることはできない。ともかく結果の記録がないから不適合である。
 
  f)も資料には記述がない。しかし最後は「今後の課題」として新たな信頼性向上施策が挙げられているから、今日も登録件数が減少を続けている事実で以て、上記の是正処置が有効でないと判断したのかもしれない。これでは是正処置をとる意味がないのであり、こうならないための最後の砦がe)なのである。これをやっていないから何年も経ってうまくいかなかった、新たな対策が必要ということになる。
 
  JABの一連の信頼性向上施策と実施は、登録件数減少を阻止する是正処置としては規格が定める手順のほとんどどれにも不適合である。信頼性向上を言い始めてからのここ数年の間の登録件数の更なる減少は当然の結果である。「今後の課題」も新たな是正処置であるが、a)〜d)の手順を踏んでいそうもないから、元の是正処置と同様に不適合な是正処置であるに違いない。今後も登録件数の減少が続くだろうと予測することは規格の規定に照らして合理的である。JABや業界権威者が本当に登録件数減少を食い止めたければ、傘下の研修機関の是正処置の講習会の受講を勧めたい。
このページの先頭へ 詳しくは<62c-01-101>

100. 認証制度信頼性向上が目的のISO/IEC17021改定 
   JABなど認定機関が認証機関を認定する基準となる規格ISO/IEC17021の改定2011年飯が発行された。改定の中味は、監査の指針規格ISO19011にあった認証審査の実行と審査員の能力に関する要件が明示的に取り入れられたことである。認証業界からはJABの出方を慮っての不安と期待が交錯したざわめきが聞こえるが、この改定を認証制度の信頼回復に活かさなければならないという認識や責任に関しては何も伝わってこない。
 
  そもそもISO/IEC17021は、認証制度の発展には社会に信頼される登録証の発行が不可欠であるという認識の下に、そのような登録証を発行できる認証機関であるための要件を規定している。認定機関はこの規格を認証機関を認定する基準として採用し、これを満たす認証機関を認定することにより、その発行する登録証が社会の信頼に足るものであることを社会に保証する。
 
  しかしながら、登録組織の不祥事の多発により登録証への社会の信頼が低下する状況が世界に拡がったのであるが、この状況は規格の論理に従えば、その認証機関が信頼に足る登録証を発行する能力がないのに能力があるとして認定された結果である。この事態に鑑み、旧版の規定が不十分であったために認定機関による認証機関の能力の見極めの判断に誤りが生じたとして、認定条件を追加し厳しくしたのが改定版である。認定機関は改定版を基準として信頼に足る登録証を発行できる認証機関であるかどうかを今度こそ確実に見極めることが期待されている。
 
  従って、JABは追加された要件を認定審査で認証機関の能力を正しく判断し、以て社会を失望させるような登録証が発行されることのないようにするという観点で適用しなければならない。しかし、JABは改定版を基にその認定基準を改定した際にも、その趣旨も新要件適用の考えについても何も述べていない。 このような規格と改定の趣旨については規格の序文及びJIS規格巻末解説にも明確に記されているからJABがこれを知らないはずはない。とすると、JABが知らん振りをしているのは、改定の趣旨がこれまでの信頼回復取組みの振りと矛盾すること、また、信頼低下への自らの責任を認める訳にはいかないことが理由であるのかも知れない。
 
  その一方で今年のISO公開討論会を「認証のブランド価値を高める」として認証制度の信頼回復への取り組みを社会に訴えようとしている。JABや認証業界はこんなご都合主義のまやかしがいつまで通用すると思っているのであろうか。実際、公開討論会の参加者はこの5年で半減している。登録件数の引き続く減少も、認証業界のこれまでの様々な独善的で権威主義的な見解と行動に潜むまやかしが組織や社会に見透かされ、愛想を尽かされつつあるということかもしれない。
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95. そんなに難しいことか、ISO9001と認証−QMS能力実証型審査の怪
 JABによると今年の5/30のISO9001公開討論会では、ここ数年の認証の信頼性向上の議論と検討を具体化する方策が議論された。資料によると、適合性審査とは「組織のQMSのあるべきQMS能力像への適合の評価」でなければならず、「あるべきQMS能力像からの解離を、ISO9001の箇条に対する不適合に起因するQMS能力の脆弱性として指摘」することであるとされ、このための「QMS実証型審査」が提唱され、その具体的方法とその価値の検証結果が報告されている。そもそもISO9001規格とその認証制度、或いは、認証の信頼性とは、こんなに難しいものなのだろうか。
 
  ISO9001の大元が1959年制定の米国国防省による品質保証規格MILQ9858であることには日本でも異論はない。これは、兵士の命に係わる不良兵器が納入されることを阻止するために、国防省が購買基準として兵器産業各社に遵守を課した品質保証活動の規範である。MILQ9858には兵器製造各社がこのように兵器製造と関連する活動を管理すれば、不良兵器を納入する危険をなくすることができるという、当時の国防省が最良と考えた管理の手順や基準が定められていた。1970年代に入って日本製品によって民生製品の品質の重要性に気付かされた欧州の企業は、材料や部品の不良をなくするためにMILQ9858を下敷きにしたそれぞれ独自の購買基準を制定し、納入業者に遵守を求める風潮が拡がった。やがて各国でそれぞれの国家の品質保証規格が作成されることになるが、これは乱立する購買基準による納入業者の負担の軽減が目的である。
 
  1982年になると英国のサッチャー首相が品質競争力を高めることで英国産業の再生を図らんとして、その品質保証規格BS5750を不良品を出さない業務管理方法を示すものと見なして、その適用を企業に求めた。そして、不良品を出さない企業であることを特に国外市場に明確にするために規格適合を証明する認証制度を始めた。すなわち、政府の管理する認証機関がBS5750規格を満たしている企業にその証明の登録証を発行する制度である。この制度の登録証は従って、当該企業の製品が日本製品並みに不良の少ない優れた品質を持つので、どうぞ安心して買って下さい、取引をして下さいというサッチャー首相のお墨付きである。
 
  一方、各国では統一的な購買基準たる品質保証規格が、他国からも材料や部品を調達する時代になると、国際的に統一されることが必要になる。ISOは1976年に規格作成のTC176を設け、1987年にBS5750を土台にISO9001初版を発行した。この経緯から初版は購買基準の世界標準として作成され、1994年改定版で初めて第三者認証制度での使用が謳われることなる。認証制度では世界各国の認証機関が共通の方法でISO9001規格適合性を評価し、登録証を発行する。サッチャー首相に代わって中立の公正な認証機関が不良品を出さない信頼できる企業であることのお墨付きを出すこととなり、英国以外の国の企業も不良品を出さない企業であることのお墨付きを持つことができるようになった。また、世界のどの国のどの企業もISO9001を購買基準とし、それを満たすという登録証によって不良品を納入しない企業を選択できることとなった。
 
  日本でも親企業からの要求でISO9001の認証を取得する企業が大半であるが、規格と認証制度の趣旨からして当然であり、要求の真意が不良品を納入しないでほしいということであるのは明白である。一般消費者を相手にする企業がISO9001登録証を店頭に掲げるのは、不良製品・サービスを提供することはありませんという誓約である。ISO9001は不良品で顧客に迷惑をかけないための経営管理の在り方を規定しており、登録証はISO9001適合性を切り口として不良品をやたら出すような企業ではないということの公正な証明である。ISO9001の狙いも書いてあることも、認証制度の目的も登録証の意味も、顧客や社会の想いも簡単、明瞭である。企業が不良品を出さないことである。何も難しいことはない。公開討論会のあの小難しい、もったいぶった屁理屈は一体何なのだろう。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-95>

94. 登録証の継続した有効性の確保−制度の責任そして震災被災組織の支援
   一連のISOマネジメント システム規格の登録証は、規格の対象のそれぞれの分野で登録組織が顧客や利害関係者、社会の必要や期待に応え、損害や迷惑をかけることのない信頼できる組織であることの証明である。各規格はそのような組織であるための経営管理の活動の在り方を規定しており、この規格要求事項を満たしていると認証機関が判断した組織に登録証が発行される。しかしこの後も、組織の事業環境や経営管理活動の必要が変化するから、経営管理活動の実態、つまりマネジメントシステムも変化する可能性がある。このような変化の中を組織が一貫して規格適合性を維持し、顧客や社会の必要と期待に適う業績を継続して挙げることを確実にする仕組みが、3年毎の更新、毎年の定期審査である。
 
  翻って東北大震災では、多くの被災組織、及び、被災組織と取引関係にある組織の事業活動は大きな影響を被っている。この中で事業活動を継続し、または中断の後に再開した組織の多くでは、震災前と異なる業務方法で事業活動が行われている。あり得る変化を想定して登録証発行後の審査を制度化しているなら、震災により確実に大きな変化が生じている被災組織のマネジメントシステムについての特別な審査が必要というのが論理である。しかし、JAB/JIPDECの震災対応は、審査時期や審査規模に手加減を加えるというものであり、混乱の中の登録証の有効性の確保に関する責任感が見えず、それこそが被災組織に対する本当の支援だという考えが見えない。
 
  米英の適合性認定機関も登録取得組織の数の拡大の方を優先する商業主義的傾向を強めてはいるが、東北大震災に鑑みてその傘下で日本で活動する認証機関に発した通達は、非常時の登録証の有効性の維持に焦点が当てられている。すなわち、ANABは「認証されたマネジメント システムが受けた影響に関する審査及び必要な評価が行われるならば」との条件付きでJABの処置を容認する一方で、ANABの既存の非常時の際の認証機関の行動基準を参照するよう求めている。UKASは、発行済登録証の有効性維持に関してもっと直接的な通達を出している。両通達には、認証機関が組織のマネジメントシステムがどの程度の影響を受けたか、その状況下でも規格適合の経営管理活動が行われているのかどうかを調べることと、システムの継続した有効性を確実にするために定常審査とは別の審査を行うことが含まれている。UKAS通達では、認証機関はこの調査結果をUKASに報告する必要があり、正常化に至るまでの期間中も認証機関は、電話での事情聴取、インターネット利用の文書審査などの方法で監視を怠ってはならないともされている。
 
  JABは認証制度の目的を組織が起こした問題に是正処置をとらせることとしているから、被災組織が混乱の中で規格適合性に支障を生じ、顧客や社会の必要や期待に反する問題を起こすことを防がなければならないという発想が生まれない。これが被災組織の最大の支援だという想いも、認証制度が登録取得組織の発展を支援するものだとする考えがないから生まれない。被災組織の認証機関が米英系かJAB系かによって実際の復旧の円滑さやその過程での問題発生に違いが生じるかどうかはわからないし、日本の社会が非常時の登録証の信頼性に関心あるとも思えない。しかし事実は、日本の認証業界が、審査や登録証が有用なものであることを、批判的で関心を失った社会に訴える絶好の機会を失したということである。期限切れ失効による登録組織数の減少が一時的で、近年引続く減少傾向を加速させることにならないことを願うしかない。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-94>

93. 支援になってないISO認証業界の震災対応  
   JABは、大震災の被災組織に対する対応措置を発表したが、制度の定める審査の期限をどう猶予するかという事務的な問題に過ぎない。加えて、認証機関のウェブサイトはこの処置さえほとんど説明せず、審査日程調整の問い合わせ窓口の設置を告げるだけである。認証業界が、非常事態にあっても認証制度の信頼性を維持しつつ、かつ、被災組織の復旧と復興を支援しようとする姿勢が伺われない。
 
  JABの措置では被災組織が所定の時期に次回審査を受けなければ登録証はそのまま失効するが、登録証を再び回復しようとする場合には、制度本来の初回審査でなく、失効前の予定の通りの定期審査又は更新審査でよいという便宜を図るというものである。しかし前者は、事業を停止して登録証の価値を利用していないのに有効期間だけは経過するという組織には腑に落ちない処置である。後者には、組織の被災状況が様々で、事業の再開の態様も様々であり、規格適合性の判断に必要となる審査の視点、範囲、工数も様々であるから、震災前の予定の審査で正しく適合性を評価できるとは限らないという審査の有効性の問題がある。ISO27001の認証制度を手がけるJIPDECは次回審査の時期の猶予を強調した対応措置を発表しているが、決められた期間を延長してもなぜ規格適合性が維持されると判断できるのかの根拠が示されていない。両認定機関の措置には、自らの創設した認証制度を運営しているとの勘違いがあり、認証機関が意のままに審査し、登録証を発行している現実が映し出されているだけで、被災組織の支援になっていない。
 
  被災組織の復旧、復興を認証業界が支援するということは、被災組織の被災から完全な復旧に至るまでの、どの時期においても関係する規格への適合性を確実にするように審査を行うことである。これには経営管理活動の平時における変化に対応する定期、更新審査の枠組みでは不十分であり、震災と復旧に至る過程における事業活動とその管理活動の大きな変化に対応して時宜を得て臨時審査を行う必要がある。これによって混乱と変化の中でも、組織が顧客満足、環境保全など各観点の必要な業績を維持し続け、円滑な復旧の道を歩むことが可能となる。組織は顧客や社会を裏切る業績、事故や不祥事を出すことがないから、登録証の信頼性も継続して維持される。
 
  被災3県のISO9001、14001登録組織数は、認証機関当たり高々30組織位である。認証機関は直ちに被災組織を訪問し、事業活動の状況と発行済登録証の信頼性の実態、また、事業活動停止中なら再開時期、完全復旧に至るまでの各段階についての見通しを調査する。事業活動停止中の組織の登録証には、登録証有効期間の進捗を停止する。臨時審査は、事業活動の現状又は再開した事業活動と登録証を発行した時の事業活動との相違の大きさに応じた視点、範囲、工数で行う。臨時審査は認証機関の費用で行い、大仰な審査の形式は省く。JABは臨時審査を行った認証機関に対して、毎年徴収する認定料金を割り引く。マネジメント システム構築支援に当たったコンサルタントの多くは今度は無償で支援することを厭わないはずだ。事業活動を再開した組織の登録証の有効期限は元の時期に事業停止期間を上乗せした時期にまでに延長され、次の審査は予定していた定期審査なり更新審査となる。
 
  被災組織が大きな被害と混乱にもかかわらず、このような認証機関による継続した規格適合性の適切な判断を基に、必要な業績を維持し、登録証が保証するような信頼できる組織であり続け、以て、速やかな復旧、復興を達成することができたとすれば、震災復興に対する認証業界の貢献が称賛されるであろう。しかし同時に、認証機関は顧客たる受審組織を維持でき、社会には認証制度の有用性を認めさせることにもなる。遺憾にも認証業界の震災対応は、世間との横並びだけを意識した、自らの腹を痛めることを避けた、口先だけ、形だけであり、被災組織の支援になっていない。業界の根底にある権威主義だけが明瞭で、そのお蔭で自らの事業が成り立っている被災組織のこと、日本経済のこと、そして、おかしなことに自分のこと、つまり、認証制度の発展のことさえ考えた節がない。

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89.新日鉄防食配水管品質事故−早速試される有効性審査の本気度
   9月6日の日本経済新聞は、新日鉄が3種類、月間600tの配水管用鋼管の亜鉛めっき付着量が契約より1/3程度も少ない製品を出荷していたことが判明し、出荷停止中であると報じた。同社は9月1日付けでウェブサイトに「めっき加工及びその検査方法に不適切な取扱いがあったことにより、めっき付着量の不足しているものがあることが判明した」と発表している。亜鉛めっき付着量は耐食性能に直接関係するから、これを受取った顧客には想定以上に配管寿命が短くなるという実害がほぼ確実に生じる。一方、売値は亜鉛めっき付着量に比例するから、高価な高級品の注文に安価な低級品を出荷したことによる不当な利益が同社にはもたらされたことになる。世界に冠たるべき同社として凡そ信じられない失態である。

  本件は、発生元の君津製鉄所がISO9001登録取得事業所であるから、認証制度の信頼性の毀損に係わる問題でもある。JABの認証制度では、登録証は不祥事の防止の保証ではなく、このような場合は認証機関が調査して見出した不適合の是正処置を組織に課し、また、登録証の一時停止処分に付せばよい。当該の認証機関のJICQA社は、「早急に事実関係を調査し、適切な処置を取る」旨の「お知らせ」をウェブサイトに掲載している。
 
  しかし、JABは登録取得組織の相次ぐ不祥事で低下した登録証への社会の信頼性を回復する対策として、認証機関が「有効性審査」を徹底するべきことを、昨年8月に決めた。その上で今年7月からは「有効性審査」を行なっている組織であることを「市場に対して明確にする」ために、登録証にJABマークの添付を原則化することにした。JABの認定を受けずに日本で活動する認証機関の登録証は「有効性審査」の結果でないので、信頼性に劣ると言いたいのである。それなら、JICQAの本件対応は、従来の不祥事と登録証とは無関係という前提ではなく、「有効性審査」との関係を明らかにしたものでなければならない。
 
  JABによると、システムの有効性とは「構築された仕組みによって期待される結果を出すことができる状態にある」かどうかであり、この判定を行なうために「マネジメントシステムの適合性の評価では、マネジメントシステムの有効性を確認しなければならない」ということである。そして「期待される結果」が何であるかは、ISO/IAF共同声明「認証に対して期待される成果」を和訳してウェブサイトに掲載しているから、これがJABの考えでもあると思われる。これは平たく言えば、登録取得組織は不良品を出さないことを確実にするよう手順を定め、手順の通りに効果的に業務を行なっているから、単発的な些細な不良品を出すことはあっても、顧客に深刻な損害をもたらすような不良品や、大量に或いは続けざまに又は常態的に不良品を出すようなことはあり得ないということである。
 
  本件品質事故は、この「期待される結果を出すことができる状態」ではなかったことに起因する。すなわち、単発的な、偶発的に生じた品質不良ではなく、手順が正しくなく設定されていたか、手順が明確な意図でその通り実行されなかったかの可能性が強く、その実態が見つかるまで続いていたと推察される。この判定を誤ったJICQAは「有効性審査」の徹底が足らなかったと反省するべきである。JICQAのこの度の調査では、どのように審査して、どのような客観的証拠で「マネジメントシステムの有効性」を判断したのか、そして、巧妙に隠蔽されたからなど判断を誤った理由を明らかにしなければならない。これに対する認証審査上の是正処置をとることが有効性審査の有効性の改善であり、ISO9001の継続的改善の論理である。
 
  日本では認証機関は、顧客の顧客、つまり、消費者や社会のために審査しているのだと主張し、この消費者や社会の期待に応えるために有効性審査を徹底するのだと言っている。これが単なるお題目かどうか、また、JABマークのある登録証はそれがない登録証より信頼性が高いのかどうかは、本件品質事故に対するJICQAとJABの対応で明確になる。
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85. 迷走を続ける有効性審査論議 (6) まやかしの議論と結論
   2年間迷走を続けた有効性審査論議は、信頼回復の道筋が明らかにされないまま、狙いや方法論の具体性のない有効性審査の徹底という結論で決着した。議論が迷走したのは論理不在のためであり、訳のわからないままでも議論が決着したとするのは業界の権威主義の反映である。しかし、このような議論となり、このような決着となる別の本質的必然がある。すなわち、議論は初めから、社会の期待する認証組織の品質/環境事故、不祥事の抑止を目指したものではなかったからである。
 
  有効性審査なるものはJABが意図を明確にせずに持ち出し、経産省ガイドラインで信頼回復の手段となった。すなわち、認証取得組織の相次ぐ事故や不祥事が認証制度に対する社会の信頼の低下の原因であり、有効性審査でこの解決を図らんとするものである。従って、有効性審査は、事故や不祥事を起こすような組織を見極めることが可能な審査方法でなければならない。可能性の認められる組織には是正処置を繰り返させ、或いは、登録証を発行しない。これにより、登録取得組織が事故や不祥事を発生させることはなくなり、社会の認証制度に対する不信が解消する。
 
  ところがJABは、認証制度は組織が品質/環境事故や不祥事を発生させないことを保証するものではないとする立場である。事故や不祥事を起こした組織に再発防止処置をとらせることに制度の意義があるのであって、社会が制度に事故や不祥事の抑止を期待することが間違っているという主張である。これはJABの考え方として文書に表され、この数年の信頼回復を掲げたISO大会の基調講演資料にも、婉曲的な表現ではあるが、明確に記されている。経産省ガイドラインもこの考えに立っていることは、信頼性回復の対応策として有効性審査の徹底と共に認証制度の積極的広報が挙げられていることで明らかである。しかし、この主張をこの時期にあからさまに述べることは憚られるので、後に嘘つき呼ばわりされるのを避けることができる程度に記録としてひっそりと残している。
 
  昨年秋まで2年半の有効性審査論議は、この前提に立って行なわれてきた。従って、有効性審査を、マネジメントシステムが有効に機能していることを見る審査だと言いながら、有効に機能していることと事故や不祥事を起こさないということとの関係については、議論は立ち入ることが出来ない。最終結論でも、これを「期待される結果を出すことができる状態にある」こととするだけで、事故や不祥事の抑止との関係には頬被りするしかない。
 
  さらに、JABは有効性審査が必要とする根拠にJISQ17021:2007の序文の記述を挙げ、以降の有効性審査論議はすべてこの文言に関して行なわれた。しかし、この規格は適合性評価制度の下のマネジメントシステム認証機関に対する要件を定めたものであるから、その序文は適合性審査のあり方を記述している。序文文言について考えれば考えるほど、適合性審査とは異なる有効性審査など存在しないということになる。そこで最終結論では「有効性審査は適合性審査に含まれる」となった。しかし、適合性審査でよいというのでは従来と変わらず、信頼回復という建前に照らして理屈がつかない。だから、「従って、有効性審査をしなければならない」という日本語にもならない結論となった。
 
  信頼回復と称しながら社会の期待に応えるつもりのない有効性審査論議が続けられ、適当なところで幕が引かれた。こう見るのは、憶測に過ぎないかもしれない。しかし、JABや業界が、社会の期待する事故や不祥事の抑止は制度の目的ではなく、或いは、制度の,限界を越えるとする考えに立ち、有効性審査論議がこの上に立って行なわれたことは間違いない。少なくとも、事故や不祥事を発生させる可能性のある組織を見極めることを目的として議論が行なわれたという形跡はない。最終結論の有効性審査についても、事故や不祥事の発生防止に繋がるという説明はない。この有効性審査論議と最終結論は、社会の期待に真っ直ぐに向き合ってはいない。これを信頼回復の追求であると主張するのなら、まやかしと言われてもしかたないのではないか。
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84. 迷走を続ける有効性審査論議 (5) 審査現場混乱が必至の権威主義的決着
    同じようで違うようでもある見解が様々に出され、議論がぐるぐる廻っているだけに見えた有効性審査論議は、昨秋のガイドライン対応委員会の見解で決着したのだそうだ。この見解が最終結論であり、今後の認証審査を拘束する。これでは、社会の認証制度への信頼回復などあり得ないばかりか、認証審査の現場の混乱が待っているだけである。
 
  第一に、最終報告書は、内容も論理も矛盾に満ち、徹底しなければならないとされる有効性審査なるものの狙いも効果も、方法論も何ひとつ明確でない。
すなわち、最終見解は次の通りであり、
@ 有効性審査と適合性審査は本来、切り離して扱われるものではない。マネジメントシステムが規格の要求事項に適合しているということは、有効に機能していることでもある。
A 従って、マネジメントシステムの適合性の評価では、マネジメントシステムの有効性を確認しなければならない。
B システムの有効性とは、「構築された仕組みによって期待される結果を出すことができる状態にある」かどうかである。
 
  ここに@は、誠に正しい見解である。WG4報告会では「適合性審査の中に有効性審査も包含される」と歯切れがよい。つまり、適合性審査ではない有効性審査という代物は存在しないという結論である。しかしそれなら、3年前のJABの適合性審査だけでは不十分であり、有効性審査が必要と言う見解は間違っていたことになる。 更に、@で適合性審査は有効性審査を含むと言うのだから、適合性審査をやればよいのかと思ったら、Aでは、だから有効性審査をしなければならないと言う。WG4報告会のQ&Aでは、「今まで(適合性審査)と同じ」かそれとも「期待される結果が実現できるように運用されているかを評価する」という(別の)ことかという質問には「両方を意味している」と答えている。適合性審査に含まれるが有効性審査も必要と言うというのだから日本語になっていない。
 
  Bも正しい。規格で有効性とは「計画した活動が実行され、計画した結果が達成された程度」であるから、システムの有効性を定義するとこうなる。問題は、この「期待される結果」が社会の問題視する事故や不祥事のないことなのかである。WG4報告会では「仕組みがあってもそれが有効に機能していないことを認証審査で見つけられなかったために不祥事を防止することができなかったのではないかという問題意識から経産省ガイドラインができたと考える」と官僚の国会答弁で、まともに答えていない。
 
  第二に、この報告書のどこにも、それまでの数々の有効性審査論議の様々な見解を考察した跡がない。発端の3年前のJAB見解との関係にさえ頬被りであり、その最終見解の妥当性の説明もない。この見解には論理がなく、社会の信頼回復との関係も不明である。何事も権威者の都合のよい上意下達で済むこの業界ならではの有効性審査論議の決着のしかたである。認証審査に携わる人々の多くが、納得も理解もしていない。
 
  この何のことかわからない有効性審査とやらが、今後の認証審査では徹底されることになるのだそうだ。認証機関も権威に服従し、わかった振りをして有効性審査とやらを目指すのであろう。不祥事はなくならず、審査を意味なくややこしくして受審組織に迷惑をかけるだけなのにである。
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83. ISO9001認証制度の有効性の検討−トヨタ自動車の大量リコール問題に関連して  
   欧米向け車のアクセルペダル動作不具合とプリウスのブレーキの効き方不具合に対する大量リコールでトヨタ自動車への信頼が揺らいでいる。この2件の品質事故が登録取得組織のT社が発生させたという仮定の下に、T社に登録証が発行されたことの是非、つまり、認証制度や登録証の信頼性について考察したい。ここに、T社は優れた品質実績で顧客の信頼を確立し成長してきた組織であり、規格適合の品質マネジメントシステムの手順が確立し効果的に実行され、組織全体に体系的業務実行が定着していると仮定する。
 
  初めに、規格の論理であるが、1件の品質不良や苦情をも出さないということを狙うものではない。規格の品質マネジメントでは、組織や製品の信頼を揺るがすような品質不良の絶無を図ることが基本であり、発生した苦情には顧客本位で対応する。また、規格は、業務には要員の過誤や技術的不確実さ、予期できない事項が付き物であり、すべての業務が完璧に定められた通りに実行されることを前提としていない。規格では業務手順は、ひとつの詳細手順不履行だけで、品質事故が発生するというようなものであってはならない。
 
  次に、認証審査の論理であるが、審査では抜取検査の消費者危険に相当する不適合の見落としの危険が付随し、すべての不適合を検出することはできない。また、審査員には純技術的或いは専門的な適合性を判断する能力はない。規格の論理では、偶発的、単発的な不適合があっても個々の品質不具合や苦情に結びつくことはあるが、組織を揺るがす品質事故は発生しない。審査員は、問題のありそうな部門や業務を重点的に抜取り調査し、検出した不適合の状況を品質事故発生の可能性の観点から評価して登録証発行の可否を判断する。
 
  さて、規格では効果的な手順の確立とその効果的な実行とが品質保証活動の両輪である。品質事故のどちらも設計品質の問題であり、2件の原因が定められた手順のどこかの効果的実行に齟齬があったとすると、とりわけ規格の設計開発の検証、妥当性確認に関係し、設計開発結果を良しとして承認する手順の実行に関して問題があった可能性が高い。この手順不履行が、試験のやり方や試験値の記載の誤りなど単発的であれば、審査は見逃した可能性がある。試験法や基準の適用の技術上の誤りがあったとしても審査が検出できた可能性はまずない。しかし、この手順不履行の見落としだけでは、品質事故には繋がらないはずである。2件に関連する設計開発チームの業務に開発期間や予算上の制約などの特殊事情があり、試験の部分省略や判断の甘さなど種々の手順不履行を生んでいたことも考えられる。もし審査員がこの特殊事情を斟酌して審査対象に選べば重要な手順不履行を検出できたであろう。しかし多数の設計開発業務があれば2件が抜取り審査対象から漏れることはあり得る。
 
  一方、T社の近年の急速な事業拡大による人材不足、或いは、成功体験からの慢心を背景とすることを指摘する報道が少なくなく、経営の慢心と弛緩を非難する報道もある。これは、人手不足や気持ちの弛みによって、組織ぐるみで、又は、特定業務を中心に偶発的ではない手順不履行があることを指す。認証審査では、承認手続きのない文書、検討会の実行省略や参加者不足の見逃しなどとして検出できる。また、マネジメントレビューでの検討事項の抜けや形式的結論、トップマネジメントへの苦情報告の抜けなどの手順不履行が見つかるかもしれない。審査員は検出した不適合から、この2件と限らず品質事故の発生の可能性を予見しなければならなかった。
 
  更に、報道は事故の深刻さの懸念より、T社の対応の遅さの批判の方が色濃い。同社も当初は、通常のあり得る品質不具合と見做してきたようであり、結果的に市場の信頼を揺るがす品質事故になった感もある。規格適合の苦情対応手順が効果的に実行されなかったと言える。上記のトップマネジメントの意識と行動の弛緩が事実なら、審査はこの事態を予見できたが、T社たたきの風潮を読みきれないで事態が進行したとすれば、登録証の保証範囲を越えたものである。
 
  2件の問題がT社の品質マネジメントの想定内の通常の品質不具合と捉えるなら、登録証の信頼性を毀損する問題ではない。品質事故と扱われ政治問題にまで発展したことには認証審査の責任はない。あってはならない品質事故、不祥事と捉え、組織や特定部門全体の手順不履行の状況が背景とするなら、審査はこれを検出し登録証の維持、更新を控えるべきであった。2件に限った特殊事情による手順不履行が原因なら、認証機関はこれを見落とした反省を公けにしなければならない。しかし、業務が膨大で広範囲にわたり管理要素も多く高度であるT社にとって、効果的な業務実行の量、質の両面での微々たる綻びでもこの2件のような品質事故が起き、しかも2件と言っても同社の存亡に係わる事態ではない。この綻びを認証審査が効果的に検出することはほとんど不可能であろう。認証制度と登録証の信頼性の確保のためには、その審査能力に余る巨大先進組織に登録証を発行してはならない。元々、規格と認証制度はT社のような世界的巨大先進組織を対象に生み出されたものではないのである。
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82. 迷走を続ける有効性審査論議 (4) 監査の論理を無視した議論が原因  
  有効性審査とは何かという2年半の議論は、前報までにまとめたように、なるほど従来の適合性審査では不十分で、有効性審査によって審査はこのように変わり、認証制度はこのように良くなるのだということがわかるところには到底たどりついていない。しかし業界では、昨年8月の経産省ガイドライン対応委員会報告で結論が出されたと考えられているようだ。議論がこのように混迷し続けること、それでも有効性審査が何かが明確になったと当事者達が誤解するのは、論理不在の、とりわけ、監査の論理を忘れたどんぶり勘定の議論であることが原因である。
 
  登録証を発行するために認証機関が行なう調査活動は日本では適合性審査と呼ばれるが、これは一般の監査の論理と手法に基づく監査活動である。有効性審査の議論が真に効果的で、審査員など関係者の期待に応える明確な結論を出すためには、議論はこの監査の論理に則った体系的なものでなければならない。すなわち、監査は、監査の目的のために監査対象事項に関して監査人がその意見を表明する活動であるが、その意見が監査の結論であり、この監査の結論を導くことが監査の目標である。この結論を導くために監査で立証すべき命題は監査要点と呼ばれ、監査人は監査で収集した客観的証拠を所定の基準に照らして判断し、監査要点が満たされているかどうかを確認する。それぞれの監査要点が満たされた程度を総合して監査の結論が導かれる。監査基準と判断基準は監査要点の立証のために適当で十分なものでなければならず、監査要点が満たされている程度と監査の結論との間には科学的で合理的な繋がりが確立していなければならない。
 
  JAB提唱の有効性審査が適合性審査とどのように異なり、或いは、どのような審査であるのかを議論するなら、議論は有効性審査という監査の目的、審査の目標ないし審査の結論、監査要点、監査基準、判断基準のそれぞれを、適合性審査と場合と対比して明確にすることでなければならない。また、明確にした有効性審査が従来の適合性審査では不十分であったとされる事項をこのように解決できるということを説明しなければならない。しかしながら、この2年半の間の有効性論議でこのような監査の論理が意識された形跡はない。議論に関して明確なことは、議論が専らISO/IEC17021の序文a),b),c)の条文に依拠していることであり、議論が導いた見解が、有効性審査がマネジメントシステムの有効性を審査することだということ、及び、有効性審査では○○を評価する、有効性審査とは○○を見ることだという種類の見解が中心であるあることである。監査の論理に当てはめると前者の見解は監査の結論に関係し、後者の見解は監査要点に関係すると考えられるから、議論がこの2項目に限られていることになる。しかもこの2項目に関してもそれぞれについて適合性審査と有効性審査ではこのように違うというような見解は示されてない。また、どの議論の見解も他の報告や発表の見解との違いを検討し、だから自身の見解の方が正当なのだという説明もない。ただ、こうだと言うだけの見解の表明の結論ばかりである。
 
  認証業界の製品は組織がとんでもない品質不良や環境事故を出す可能性はないという保証であり、製品実現の活動が審査である。認証業界の製品は論理、思考、判断に基づく製品実現の活動の論理的帰結であり、目に見えたり、感じたりできる実体はない。しかし、製品が不良かどうかは組織の品質不良/環境事故の発生の有無という事実によって誰の目にも明らかになる。認証業界は科学的な論理と思考によって生きているのであり、何事につけ大切にしなければならないのは論理と思考であるはずである。この認証業界がどんぶり勘定の議論を続けるだけでなく、その議論で有効性審査が明確になったとする論理性のない安易な思考にはあきれる他はない。
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80. 迷走を続ける有効性審査論議 (3) 有効性審査の監査基準、判断基準は何か  
   審査又は監査は、監査証拠を監査基準に照らして客観的に評価して、満たされている程度を判定する活動*8である。規格の規定は要求事項と呼ばれるが、効果的なマネジメント システムとしての要件を表している。適合性審査ではこの規格の規定のひとつひとつが監査基準であり、組織の業務とその実行が規格の規定のひとつひとつを満たしているかどうかを判断する。すなわち、適合かどうかの二者択一が判断基準である。それでは有効性審査では、有効性を判断するための監査基準は何か、有効かどうかの判断基準は何か、この第3報では有効性審査では「マネジメントシステムの有効性」を判断するために具体的に何を調査し、評価し、判断するのか、或いは、監査基準は何で判断基準は何かに関連した、発表、報告におけるそれぞれの見解をまとめた。
 
@ システムのパフォーマンスが向上しているかどうかで判断する
A アウトプットを考慮しながら仕組みを見る
B パフォーマンスが向上しているかどうかで判断する
C 規格適合性、方針・目標達成能力、製品の適合性の3つの事項を評価する
D “結果”又は“実施された程度(パフォーマンス)”が目標又は結果を生み出しているかどうかを評価する
E 規格適合性、方針・目標の一貫した達成、所期の結果の実現の3つの視点で審査する
 
  以上のように、いずれの議論も、有効性審査とは○○を評価する、判断する、審査することだというだけで、監査基準や判断基準については議論した形跡さえない。○○を評価することだというのも、ISO/IEC17021の序文a),b),c)の文面をそれぞれに言い変えただけであり、@以上の内容はない。有効性審査を実際に行なうということに関しては何の実質的な議論も行なわれてこなかったようである。
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79. 迷走を続ける有効性審査論議 (2) 何の有効性を審査するのか
   何の有効性を審査するのかは有効性審査議論の前提である。この2年半の有効性審査論議を追って、有効性審査で評価する有効性が何の有効性であるかに関する見解をまとめた。
 
@ マネジメントシステムの有効性
  有効性審査を持ち出したH19.4月のJAB見解は、それまでの審査は「規格要求事項への適合、不適合の確認」であったとし、それでは不十分であって「MSがシステムとして有効に機能している」かどうかを判断する「MSの有効性の審査」が必要であるとしている。これが「有効性審査」の出発点である。この根拠に同見解は、ISO/IEC17021規格*6の序文のマネジメントシステムの認証の意義に関する記述を引用している。このc) 項「有効に実施されている」が「有効性」という言葉に繋がったのであろうが、JAB見解はこのb),c)項を繋ぎあわせて有効性審査を定義している。JAB見解では有効性審査で判断するのはマネジメントシステムの有効性であり、それは「明示した方針、目標に向けてMSが有効に実施され、一貫して達成できる」「マネジメントシステムが有効に機能している」ことである。
 
A 規格の有効性
  翌年7月の経産省の信頼性回復ガイドラインでは、有効性審査の徹底が必要とし、それを「規格適合性だけでなく、規格がシステムとして有効に機能しているかどうか」を判断する審査であると明記している。この記述を文字通りに受け取れば、ガイドラインの有効性審査の有効性とは規格の有効性である。ただし、ガイドラインの有効性審査は@のJAB見解の丸写しであるから、この表現は単に筆が滑った結果であると考えられる。
 
B マネジメントシステムの有効性
  11月のJACBの有効性審査検討の報告書は、適合性審査は「マネジメントシステムの目的に適切な有効性を含めるものである」と独立した有効性審査を否定している。それでも、@の規格序文a),b),c)項が「マネジメントシステムの有効性について有効に適合性審査を実施するための中心的な原則を記述する」ものであると、マネジメントシステムの有効性を審査する必要を認めている。
 
C 作られたQMSに誤りがない
  今年の3月のテーマ「審査を変える」のJAB討論会では、これまでの審査は「差異(不適合)を指摘する審査」であり、有効性審査とは「作られたQMSに誤りがあることを指摘する」審査であるとの記述もあるが、「本来規格適合性を見ることはQMSの有効性をも見るはず」とBと似た考えの記述もある。後者の記述では、マネジメントシステムの有効性を見る審査が必要であると言っている。
 
D マネジメントシステムの有効性
  今年8月の経産省ガイドライン対応委員会報告では有効性審査の定義に@のJAB見解の文面をそのまま踏襲している。従って、有効性審査で審査する有効性はマネジメントシステムの有効性を指していると理解される。
 
  上記のまとめで判断する限り、有効性審査を否定する見解を含みどの見解もマネジメントシステムの有効性を審査することが必要であるとしている点で一致していると理解される。ただし、底の浅い有効性審査議論の中での一致した見解であるようにも思える。
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78. 迷走を続ける有効性審査論議 (1) 有効性審査は適合性審査とどう違うのか
   認証機関や審査員の目下の気懸かりは、業界の有効性審査論議の行方である。有効性審査とは相次ぐ認証組織の不祥事で揺らぐ社会の認証制度への信頼を回復するためとして、H19年4月に発表されたJAB見解「マネジメントシステムに係わる認証審査のあり方」の中で取り上げられたのが発端である。それから2年半、様々な有効性審査論議があり見解が発表されているが、最も大切な点、すなわち、有効性審査のこれまでの審査との違い、とりわけ、どのような審査の手法、審査の判断、審査の結論が有効性審査であるのかについては、議論は迷走を続けている。この間の有効性審査論議を追って、その迷走ぶりを明らかにし、最後に、迷走が続き、今後も結論に至ることのないことが予想される背景を指摘したい。
 
  最初に、有効性審査とは何か、従来の審査と何が違うのかについての、この2年半に発表された見解を順を追ってまとめてみる。認証制度の根幹は適合性評価であり、JABも「……が、特定の要求事項に適合していること、つまり“適合性”を第三者が保証する」手続きであると説明し、この説明は今日も変えていない。しかし、有効性審査とは何かとの議論の発端となったJAB見解では、組織のマネジメントシステムが本来業務と異なる仕組みとして構築、運用されてきたのを認証審査が見逃し助長してきたことが問題であるとし、ISO/IEC17021序文を引用して、審査は「規格要求事項への適合、不適合の確認だけでは不十分」であり、「マネジメントシステムの有効性を審査すること」が必要であると論じている。以下は各議論で変転する結論である。
 
@ 適合性審査は不十分、有効性審査が必要 (H19.4 : JAB発表)
A 有効性審査を黙殺 (H20.3: JAB討論会)
B 適合性審査だけでなく有効性審査が必要 (H20.7: 経産省ガイドライン)
C 有効性審査は適合性審査の一部 (H20.11: JACB報告書)
D 有効性審査の方が適合性審査より優れている (H21.3: JRCA機関誌)
E 有効性審査と逐次審査と合わせたのが適合性審査 (H21.3: JAB討論会)
F 適合性審査は有効性の審査でもあるが、有効性審査が必要 (H21.8: ガイドライン対応報告書)
 
  最新のFでは「有効性審査と適合性審査は切り離して扱われるものではない。規格要求事項に適合しているということは有効に機能していることでもある」となり、2年半前のJAB見解を否定し、適合性評価の原則に戻ったように見える。然るに報告書はこれに続けて、「従って、マネジメントシステムの適合性の評価では、マネジメントシステムの有効性を確認しなければならない」と結論づけている。 これが適合性だけでなく有効性も評価しなければならないという意味なら、最初のJAB見解への回帰である。11月のJRCA講演会ではこれと同じ結論が、長々とした前置きの後に説明されたが、JABの意向に従順な人々さえ説明に釈然とせず結論には疑問を抱く向きが多かったように思える。 最後のFも過去の異なる見解との関係を検討することなく、自説を述べているだけであるから、これが業界の結論ということにはならない。有効性審査が必要とは言うが、従来の審査と何が違うのかについては相変わらず霧に包まれたままである。
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76. 発展の芽を自ら摘み取る認証業界
   ISO9001/14001認証業界の焦眉の課題は登録証への社会からの信頼性の回復である。近年の登録証への社会からの信頼性の低下は、登録取得組織が相次いで引き起こす品質又は環境の事故や不祥事が原因である。これに関して9月、JAB(日本適合性認定協会)は2つの文書をそのウェブサイトに発表した。ひとつは、「MS信頼性ガイドライン対応委員会」報告書で、「有効性審査」のあり方がまとめられている。他のひとつはISO9001/14001の認証の意義に関するIAFとISOの共同声明をJABが和訳したものであり、内容はISO9001/14001規格と認証制度の意義の再確認である。この趣旨では、規格適合の登録証は、組織がこの顧客や社会のニーズや期待を裏切らない、顧客や社会をがっかりさせるような不祥事は出さないという保証である。
 
  しかしJABは、不祥事を起こした組織に再発防止対策をとらせることが認証制度の目的であるとして、不祥事を引き起こすような組織にも登録証が発行されることに対する認証制度の責任を一貫して否定してきた。 9月の2つの文書の発表は、JABのこの主張を社会に改めて確認することを狙いとしたものであることが窺える。IAF/ISO共同声明の和訳発表は、その苦情や事故が皆無でないとの記述を強調することを意図したものであり、JABの予てからの主張が国際的に認められたとして鬼の首を獲ったかの、これみよがしの発表である。「有効性審査」の報告も抽象的で空虚な、辻褄の合わない論理が展開されるばかりで肝心の不祥事との関係への言及を避けている。
 
  ISO9001流に言うと認証業界の製品は規格適合性の判断を表明する登録証である。登録証への社会からの信頼性の低下の実相は、製品たる登録証の品質に顧客が不満足だということである。認証業界の製品は目下売行き不振であり、普通なら低迷する需要を回復するために顧客のニーズや期待を満たすように製品を改善する。しかるに実際は、製品が顧客のニーズや期待に応えるものでないという事実を顧客に納得させようと懸命である。顧客満足が得られなくとも認証業界の製品は売れると考えているのであろう。なにしろISO9001/14001の認証制度は社会制度であり、悪徳組織を取り締まる認証機関は警察と同様に存在意義を失うことはない。
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68 登録取得組織の不祥事は認証審査にも責任−有効な適合性審査 ((勇気ある正しい結論)
   認証機関の集まりJACB(審査登録機関協議会)はそのウェブサイトに「社会に価値のある有効なQMSの審査のために」を副題とする品質技術委員会の報告書*1を掲載している。同委員会はH17年以来、登録組織による不祥事で低下する認証制度の信頼性回復の道を検討する活動を続けており、その4度目の活動報告書である。今回の検討目的は、認証に関する規格ISO/IEC17021*4の序文にその規格作成の背景や目的などが書かれているということに着目して、その記述から認証制度の意義を読み取って、認証審査のあるべき姿を探求することであったと書かれている。この検討はこれまでの3回と異なり、視点や論法に画期的なところがあるばかりか、結論が衝撃的である。業界関係者として初めて、登録組織の不祥事に対する認証審査の責任を認めたものとなっているからである。
 
  検討作業はまず、業界で唱えられている「有効性審査」には
組織の品質マネジメントシステムの有効性を調査する審査という意味の「システムの有効性の審査」と、
この審査が有効なものかどうかの「有効な適合性審査」
との2種類があるとする、業界関係者としては画期的な問題の取り上げ方から始まる。認証制度の信頼低下は登録取得組織が相次いで不祥事を発生させる状況において、登録証はそのようなことを起こさないという証ではないのかという社会の率直な疑問に起因している。然るにこれまで業界は、問題取組みとして「有効性審査」*2を掲げ、これを、先の経産省の指針*3でも、システムが有効かどうかを「パフォーマンスが向上しているかどうかで判断する」という審査であるとしてきて、社会の疑問には気がつかない振りを通してきた。 この状況の中でJACBは、「有効な適合性審査」という自らの責任に踏み込んだ問題の存在を取り上げたのであるから、画期的である。
 
  報告書によるとこの視点を中心においた検討は、登録証が保証すべきものとして同規格序文に規定されている次の3項目について考察し、これらを組織の顧客市場や社会に“デモンストレート”することが認証審査の目的であるとの判断に至っている。
  a) 組織の品質マネジメントシステムが規格に適合していること、
  b) 表明した方針と目標を達成する能力があること、及び、
  c) 品質マネジメントシステムを有効に実行していること
ここで“デモンストレート”という表現を使用するのは、原文“demonstrate”のJIS和訳「実証」が「全面的な事実として証明する」の印象を与えるので、「実例を与えて論証する」という意味でこの方が適切であるからと説明している。この英語理解には全面的には賛成できないが、業界関係者がJIS和訳に疑問をぶつけ、原文に立ち戻って自らの条文解釈を主張するということは過去になかったから、これも画期的なことである。
 
  そして検討は、c)項の「有効に実行している」の「有効」が品質マネジメントシステムの目的に対して有効であると考えるのが論理的帰結であるとした結論を導き出した。そして、「適合性審査」にはこのシステムの目的に対する有効性を審査することが含まれるとの理解を明確にしている。組織の品質マネジメントシステムの目的とは、組織の存続に必要として品質方針や品質目標に掲げられた品質不良を出さない、顧客満足の向上を図るという“品質保証”の追求である。とすれば、認証審査の目的は、組織がこの能力を有し、この目的に対して“有効に”業務を実行していることを組織の顧客市場や社会に“デモンストレート”することである。不祥事発生は組織の品質マネジメントシステムの目的に反する事態であることは明白であり、登録組織が不祥事を発生させたとすれば、有効でない システム を有効と判断したのであるから「有効な適合性審査」ではなかったということになる。
 
  実際の報告書では、品質マネジメントシステムの目的としてISO9001の1.1項を引用しているものの、目的に対する有効性の審査に関する論理展開や記述は心もとない。しかし、認証審査は「製品の品質が顧客要求事項や法令・規制要求事項を実際に達成しているかを評価すること」であると述べ、また、「……のようにすればISO9001認証を取得したけれど製品の品質は良くないという批判は起こってこないはずである」と、有効でなかった適合性審査も例示している。 あいまいな表現ではあるが、報告書は「有効な適合性審査」という概念を掲げることで、不祥事発生防止に対する認証審査の責任を意識して認めているものと受けとめたい。
 
  報告書のこのような結論自体は、認証制度の目的と枠組みに照らして当たり前のことであり、日本を代表する審査員らも初めてこの程度のことに気づいたということではないだろう。しかし、日本では規格執筆作業に参画する国内委員会を頂点にしたJABから認証機関、審査員、登録組織に至る縦社会の中で、認証の責任についてはJAB見解の「マネジメントシステム審査登録は改善することに意味がある」*8が絶対であり、社会の批判への対応は組織のパフォーマンスに注目する「有効性審査」*2、つまり、「システムが有効であった」ことの審査と決まっている。結論が衝撃的なのは、業界の秩序に反するが故にわかっていても言えなかったことが内部の関係者から外部に向けて公表されたことである。しかも報告書は、JABがその「有効性審査」の根拠としているのと同じ上記のa),b),c)項を用いて「有効な適合性審査」という結論を導き出したのである。
 
  この報告書の結論は当然ながら、「結果が大切(output matters)」との旗頭*5の下に進められている国際的取組み*6の視点とは軌を一にする。 同じウェブサイトには、これに背を向けた経産省指針*3の具体化検討作業の開始とJACBが参加が報じられている。報告書の「有効な適合性審査」が縦社会に自由な風が吹き込む風穴となり、実際にも認証制度の信頼回復のこれら取組みを正しく牽引することを期待したい。
 
*1 JACB品質技術委員会: JISQ17021(ISO/IEC17021)の序文を読み解く、2008.11.5
*2 JAB: マネジメントシステムに係わる認証審査のあり方、2007.4.13
*3 経産省: マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン、2008.7.29
*4 ISO/IEC17021: 適合性評価−マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項
*5 IAF: ISO9001 Auditing Practices Group Guidance on “Output matters!”、2006.12.8
*6 JAB: 認定制度の改革、第21回IAF総会報告会資料、2007.11.20
*7 JAB: マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン」対応委員会の発足、2008.11.5
*8 JAB: MSS適合性評価制度の信頼性の維持と向上、2004.7.28、p.4
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 65. 「有効性審査」で認証制度の信頼が回復するのか  
   7/5の経産省の「マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン」の発表により、各関係機関の認証制度の信頼性回復の取組みの方策が出揃った。恐らく業界ではこの ガイドライン が権威を持ち、これに沿って今後の日本における問題対応が進められるのであろう。 ガイドラインは冒頭で、登録証取得組織による相次ぐ不祥事を認証制度が抑止できていない点を社会が問題視しており、これが認証制度の信頼を低下させているとの認識を明確にしている。 そして、これを解決するために認定機関、認証機関が取組むべき課題を提唱するのがこのガイドラインであるとしている。
 
  これに鑑みると、提唱は不祥事を発生させる組織に登録証が発行されることを阻止することが狙いのものであると考えるのが自然である。 ところが、提唱の中身は不祥事を発生させた組織に対する制裁を含む事後対応の厳格化が主体であり、不祥事発生の抑止の施策らしきものは「有効性審査の徹底」とそのための「審査員の質の向上と均質化」しかない。しかも、提唱はこの「有効性審査」を「規格がシステムとして有効に機能しているかどうかを、パフォーマンスが向上しているかどうかで判断する審査のこと」であると定義し、この審査によって組織の不祥事を抑止できるという論理を示していない。
 
  因みに、過去の優秀な実績に対して発行されるのは表彰状である。登録証は現在から将来にかけての実績が優秀であろうことを保証する。 このために行なわれるのが認証制度の枠組みのシステム審査である。すなわち、システム審査では審査員は、過去と現在のマネジメントの諸業務の実行状況が規格に適合しており、過去の実績が組織の狙い通りであったこと及びそれが現在と同じ業務実行状況の結果であることを証拠によって確認し、その上で、過去と現在の実態から同じ業務実行状況が今後も間違いなく継続するであろうことの心証を固める。 組織のこの状態が、登録証発行要件*たる「マネジメントシステムが規定要求事項に適合し、定めた方針、目標を一貫して達成でき、有効的に実施されている」状態である。 このように判断され登録証を授与された組織は登録証の保証期間内では、過去と同じように組織が方針で明らかにした通りの実績を出し、不祥事を発生させることはない。
 
  提唱される「有効性審査」は、用語において「マネジメントシステムが有効的に実施されている」ことを保証する認証制度の趣旨に適う審査と似ているが、実体は過去の実績で現在から将来の実績を占うという乱暴な考えであり、不祥事発生抑止の筋道が見えない。ガイドラインの提唱には全体に、目的と施策との繋がりの論理性がなく、不祥事抑止への真剣さが読み取れず、提唱の施策によって信頼回復が果たされることは期待できない。このようなことをガイドライン作成に携わった業界権威がわかっていないはずはないのに、ガイドラインは、この取組みを以て認証制度の信頼性を確保するIAFなどの国際的取組みを主導すると述べ、しかもその国際的取組みがガイドライン提唱とは異なる方向で相当に進んでいる事実に全く触れていない。
 
  ガイドラインは、組織や社会に対して依らしむべし知らしむべからずで、都合のよい問題解決を図ろうとするこれまでと同様の権威主義の産物に見える。ただし、ガイドラインは冒頭で登録証取得組織による不祥事の抑止を目的に挙げているから、あいまいな決着はできないということが従来と異なる。今回はお茶を濁すだけでは済まないと思うのだが。
 
* ISO/IEC17021(適合性評価−マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項)  序文
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 60.つながる点と線 認定改革IAF案対応のJAB筋書
   1月11日の日経新聞は「ISO認証審査厳格化―企業の偽装相次ぎ形骸化批判」という大見出しで、昨年10月のIAFのシドニー会議で登録証の信頼性を高めるために審査方法を見直すことが決まり、国内でも経産省がIAFに先んじた実施を目指して独自に改革案を検討していると報じている。内容は社会の関心事ではあるが、時事ニュースとしてこの時期に報じられることの意味がわからない。しかし、同じ週の7日にはJABが3月に「ISO 9001認証を考える」をテーマに公開討論会を開催し、研究成果「信頼されるISO 9001認証制度」を報告すると発表しており、記事の直後に届けられた雑誌「月間アイソム」では経産省の認証制度信頼性向上取組みの寄稿文が掲載されている。これらが関連を持った動きだとすると、昨年4月の「マネジメントシステムに係わる認証審査のあり方」というJABの見解発表まで遡って一連の出来事という点が、JABの認定改革IAF案対応という線でつながる。
 
   登録証を掲げる組織が製品 リコール、法規制違反など事故や不祥事を発生させる事例の絶えないことは欧米では10年前から問題になっている。IAFは2001年には問題取組みを開始し、その後さらに拡がる顧客や社会の不信に対して設立した作業班が昨年3月に問題解決のための認定制度の改革案をまとめた。この問題の欧米の認識は、登録取得組織の事故や不祥事発生は認証活動が適切でないのが原因であり、IAFに属さない認定機関の傘下の怪しげな認証機関、格安を売り物にする認証機関、更に、母国の認定機関の監視の目の届かない海外で活動する認証機関による不適切な審査と安易な登録証発行が背景にあるというものである。従って、作業班の提案は、不良認証機関の存在を許さないようにする「認定の有効性の改善」であり、具体策として認定活動の質の改善、不祥事発生に責任があるとわかった認証機関の制裁、他国で活動する認証機関の監視強化、認証機関の価格競争抑制などを挙げている。
 
  これはJABには乗れない話である。JABの考えでは、マネジメントシステムの審査登録は改善することに意味があるのであり、登録証は事故や不祥事の防止とは無関係である。不祥事が出れば認証機関は組織にきちっと是正処置をとらせればよいだけである。IAF提案のように登録組織の不祥事に対して認証機関の責任を問うなら、JABはこれまでの考えが間違っていたことを認めなければならないから面子まるつぶれである。認定機関の認定活動が問題だったというような事は、業界に絶対的な権限で君臨してきたJABとしては口が裂けても言えない。それに、IAF作業班の報告を認めると、今後発生する不祥事の度毎にJABが世間の非難の矢面に晒されることになりかねない。
 
  昨4月13日のJABの認証審査に関する見解発表は、認証機関の認定のための新規格ISO/IEC17021の発行と関連づけられていたが、その中身では制度の信頼性回復とそのための“マネジメントシステムの有効性”の審査がやたら強調されていた。不二家問題など登録証への疑問が拡がる中のその前月の3月には、のんびりと「ISOを楽しむ」というテーマで公開討論会を開いていたのに態度急変である。しかし新見解も肝心の不祥事の防止が必要とは言わず、訳のわからない理屈が並びたてられているだけに思えた。今になってこれがその1ケ月前のIAF作業班報告への反応だったとすると合点がいく。続く4月27日、認証機関の団体JACBは、公表を約束して検討中の環境関連不祥事への審査登録機関としての対応の結果を公開しないことを決めた。これも情勢に逆らう決定で当時は疑問を感じたが、JABのIAF対応策との整合のために迂闊な内容の発表を差し控える意図が裏にあったのだろう。そしてIAFは10月総会で作業班の提案を承認し、具体策検討の新作業班TFを発足させた。JABは11月、認証機関を集めてこの総会の報告会をもっているから、何がしかの因果を含めたのかもしれない。
 
  来る3月の公開討論会でJABは、IAFの改革案を踏まえて、登録組織の不祥事に起因する登録制度の信頼性低下と信頼性回復に関する考えを明らかにするはずである。もし、日経新聞の記事や経産省寄稿文がこの前座として用意されたものであるとすれば、それらの内容から、発表される「信頼される認証制度」の骨子が昨年4月のJAB新見解に沿ったもので、信頼性の回復に何の役にも立たず、一方でJABの権限を更に強めるものである可能性が強い。経産省の改革案もこれにお墨付きを与えるものであろう。点としてのそれぞれの出来事は雑誌や報道記事に基づく事実であるが、それらをつなぐ線は筆者の憶測である。憶測が誤りで線は点のつながりでないのなら、公開討論会でJABは、認証制度の本来の目的に立ち戻ってIAFが行おうとする認定制度の改革の狙いと同じ趣旨の登録証の信頼性回復のあり方を示すことになる。
このページの先頭へ H20.1.20

 55. (続々) 登録取得組織が不祥事を起こす理由
                     −誤った登録審査基準の適用
    日本では ISO9001,14001登録取得組織の事故や不祥事報道を契機に、審査登録機関は「認証・審査の有効性の向上」や「社会財として真に社会に必要とされる方向性を探る」を掲げるが、事故や不祥事の発生防止と登録証との関係は従来通り否定している。
 
  登録審査は適合性評価の一種で、 マネジメントシステムを「ある規格、規制又は仕様に対して評価すること」であり、この評価活動が審査である。審査では監査証拠を評価して当該の「監査基準が満たされている程度を判定」し、適合か不適合かの監査所見及びそれらを総合しての監査目的に対する適否の監査結論が出される。登録証発行可否の監査結論の合否判定基準は、JABも一員の国際的枠組みIAFが指針として定め、JABも審査登録機関認定の基準に採用している。
 
   これによると「1つ以上の要件(要求事項)を欠き、又は、実施、維持されていない*」状況、又は、「組織が供給する品質」ないし「組織の方針、目標を達成するEMSの能力」に「深刻な疑念が惹起される」状況は不適合と見做される。規格の品質、環境マネジメントシステムは、事業継続にどのような顧客満足の製品或いはどのような環境改善が必要かを品質、環境方針に明確にし、その実現を図る業務体系である。方針は一般には改善に関するが、事故や不祥事のような事業継続に悪影響を及ぼす問題は起こさないことを暗に含む。IAF指針の趣旨は、不適合とは個々の業務に問題があるか否かではなく、システムとして問題があるかどうかであり、システム不全がもたらす品質又は環境方針に背く意図しない事態、例えば、事故や不祥事、が生じる深刻な疑念があれば登録証は発行しないということである。
 
  海外でも登録組織の品質事故による登録証の信頼低下が問題視されてきた。しかし、今日の議論は、IAF枠組み外のいわゆる非認定審査登録機関による安価、安易な登録証発行、及び、未熟な審査員による安易な監査結論を問題視するものであり、ISO9001の登録証は「組織が良い品質の製品、サービスを提供することの証明」というような考え方が基本となっている。また、登録否定の条件としてのシステム不全の概念や システム不全が疑われる状況について、例えばISO、米国の審査登録機関の団体IAAR、欧州認定機関協力機構が見解を発表している。このように海外では、IAF指針の則った登録証と事故や不祥事の発生との関係の論理が確立し審査が行われている。それでも事故や不祥事が発生している。
 
  日本では登録証は「不祥事が発生した場合でも根本原因究明から再発防止が確実に行われるということの保証」に過ぎず、事故や不祥事の発生防止は審査の目的にはない。この考えのIAF指針との整合性については説明がないのであるが、説明できずにこの考えで登録証が発行されているのなら誤った登録審査基準が適用されていると言わざるを得ない。そしてこれが、登録取得組織も事故や不祥事を引起こす直接的原因である。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-55>

 54. (続) 登録取得組織が不祥事を起こす理由 −誤った登録制度統制
   ISO9001,14001登録取得組織の品質、環境の事故や不祥事の発生に対して、審査登録制度を司る日本適合性認定協会(JAB)は問題意識は持っても、発生に対する責任を完全否定している。このJABの主張は果たして、規格とその適合性評価制度の国際的枠組みに照らして正当なものかどうかを、ISO9001を例に検証したい。
 
  品質保証規格と二者監査の始まりは1959年制定の米国の軍事規格MIL-Q-9858と言われるが、やがて1970年代、欧州諸国では顧客企業が独自に品質保証活動の規範を定めて供給者に順守を求める二者監査が拡がり、各国ではこれの統一のために品質保証規格がそれぞれに制定された。これら品質保証規格の中身は供給者がこれを順守すれば不良品が納入されないと顧客企業が考える供給者の業務方法を定めたものであり、顧客企業は供給者が規格を順守することを物品購入の条件とし、これを監査で確認して供給者を選定し、以降も業務遂行を監視した。
 
  1982年、英国政府は企業の品質競争力の向上の手段としてこのような性格の品質保証規格のひとつBS5750の適用を企業に求めた。同時に規格への適合を確認し、当該企業が不良品を出さないという業務能力を有することを未知の顧客に保証する第三者監査制度を推進した。国際貿易促進の観点から1987年に国際規格化されたISO9001シリーズ規格は、契約当事者間の二者監査への適用が主眼であったが、1989年のISO適合性評価委員会年次総会の決議によるISOマネジメントシステム規格の審査登録制度の国際的枠組みの確立を経て、1994年改訂で第三者監査への適用が明確にされた。
 
   MIL-Q-9858に遡る不良品の出荷防止に関する考え方と手法は、欧州各国規格、BS5750からISO9001の各版へと追加、強化されてきたが、2000年版は1980年代の成功企業の体験を反映した現時点における最も効果的な品質保証マネジメントの規範であると考えられている。このISO9001の審査登録制度の国際的枠組みは、知らない企業同士の取引において組織が「必要な品質の製品を供給できる」という「安心感」を顧客に提供することが狙いである。登録証は国際的 サプライチェーンの中で「組織が異なる国に存在する供給者を選択する」指標として使用されるものであるが、そのような指標たり得るのはこの安心感の故である。従ってこの安心感とは、顧客がこんな不良品を受取らされるのなら取引したくないと考える水準や程度、種類或いは頻度の不良品は出荷されることはないという安心感であると言える。
   
   一般に、事故や不祥事と言われるのは、“組織”たる企業の製品品質又は品質関連業務に関して顧客ないし消費者が強い不安や不満を抱く事柄の曝露であり、過去の多くの事例では実際に顧客離れが起きている。取引開始の段階でこのようなことが予測できれば、顧客はそのような企業や製品を選定しなかったはずである。顧客は普通、不良品絶無は期待しないまでも、著しい品質不良なかんずく新聞種になるような品質事故や不祥事の発生の恐れのないことは期待して企業や製品を選択している。この顧客の淡い、しかし、切実な期待を正当な安心感までに高めるのがISO9001と審査登録制度の本来の趣旨である。
 
  JABは、審査登録は不祥事発生のないことの保証ではなく、不祥事を発生させた組織に再発防止処置をとらせることが審査登録の趣旨であるという立場である。この程度の安心感で顧客が初めての取引、とりわけ国際取引の決断をするとJABが考えているとは思えないが、その主張が国際的枠組みの意図する「安心感」との関連で語られ、正当であることが説明されることはない。これに関連するISO9001は“顧客の要求”であり、審査登録制度は“社会制度”であるとするJABの説明も、それなら顧客が何のために要求しているのか、社会を何から守るのかの説明を欠き、そもそも、このような考えが規格と審査登録制度の国際的枠組みの論理のどこから出てくるのかの説明もない。業界権威層の論理性を欠く説明を何事も鵜呑みにし、自在の断片的論理の権威主義で以てJABが司る国際合意に悖る誤った審査登録制度統制が、登録取得組織も事故や不祥事を発生させる根本原因である。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-54>

 52. 混迷を深めるか審査登録制度−審査のあり方に関するJAB新見解
    JAB(日本適合性認定協会)は4/13、ウェブサイトに「マネジメントシステムに係わる認証審査のあり方」という声明を発表した。これは審査登録機関認定の基準が、ISO/IEC Guideから 新規格ISO/IEC17021に変わることに伴うJAB認定基準の改訂作業に係わる見解の表明である。声明は不祥事で揺れる制度への信頼回復を旗印にしており、反対意見を封じ籠めて今後のJABによる審査登録機関の統制に新見解を押しつける意図が汲み取れる。
 
  声明を斟酌すると登録制度に対するJABの問題意識は、各種のISOマネジメントシステム規格のシステムが“有効に機能していない”が、それは各システムが組織の“本来業務(ビジネス)”と異なる別々の仕組みとして構築、運用されていることに原因があるということのようだ。そして、規格要求事項にばかりに囚われ、また、各審査員の専門知識に深入りした登録審査がこれを助長してきたと見ている。よって、現状を改めるためには登録審査を“ビジネス全体の視点からの審査”とし、“マネジメントシステムの有効性の審査”としなければならないというのが結論である。
 
  一方で声明は、“有効性の審査”の必要の根拠を新規格の序文の記述に置き、「認証はマネジメントシステムが『a)規定要求事項へ適合している、b)方針、目標を達成できる、c)有効に実施されている』ことを実証するものである」という記述を引用している。しかし、これが“有効性の審査”であるというなら、これまでも“有効性の審査”であった。第一に、ISO9001,14001両規格とも“一般要求事項”として「マネジメントシステムを確立、文書化、実施、維持、及び、有効性を継続的に改善すること」と規定し、これを含むすべての要求事項に関する審査の結果が登録証である。それに、JAB認定基準(R300:G.2.1.2)も登録の条件を「組織が品質マネジメントシステムを効果的に実施かつ維持していることを実証するものでなければならない」と明確に規定しているのである。制度への信頼性の本当の問題は“有効性の審査”であるかどうかでなく、“登録証の有効性”を社会が“事故、不祥事を起こさない”ことと期待するのに対して、JABの率いる業界が“事故、不祥事の場合に再発防止処置をとる”ことだとしていることなのである。知ってか知らずかJABの声明はこの本質問題を棚上げしたまま、加えて、声明の“有効性の審査”がこれまでの審査とどのように違うのかも説明しないで、信頼回復のためにこれからは“有効性の審査”だと言っている。これでは信頼回復が図れるとは到底思えない。
 
  声明は“品質の推移”や“環境パフォーマンスの変化”を審査しなければならないとし、“ビジネスの流れに沿った審査”“プロセスアプローチ的審査”“付加価値のある認証サービス”“規定要求事項への適否確認に終わらない審査”の必要をも唱えている。これらに関しても、例えばパフォーマンスの向上がどの程度以下なら不適合とするのかなど、審査にこれら見解を適用するのに必要な説明はない。また、製品や環境パフォーマンスの改善は規格の「要求」ではない、審査で確認する要求事項に抜けがあってはならない、コンサルティングと見做される審査の指摘は厳禁というようなこれまでのJABの統制を変更するのかどうかについても触れていない。
 
  このようにJABの新見解は論理性に乏しく、制度の信頼回復の道筋も見えない。内容は抽象的で判断基準が示されていないから、新見解の運用はすべてJABの胸先三寸ということになる。審査登録機関はJABの意向をあれこれに慮り、審査へのあれこれの形式を審査員に求め、審査員はこれを確認するあれこれの証拠の提示を求めるから、受審組織にはあれこれと余計な形式的な業務がまた増える。JABの業界支配力の強まりと裏腹に組織の困惑と悲鳴が大きくなり、不祥事は続き登録証への信頼の低下は止まらない。ISOマネジメントシステム規格の審査登録制度のこんな明日は見たくない。
このページの先頭へ 詳しくは<sub62-01-52>

 51. 不二家再建の道筋狂わすISO9001登録停止の決定
        −時事問題でISOを考える(番外編-3)
   5/2の新聞各紙は、洋菓子大手の不二家がその菓子3工場などに対するISO9001登録の一時停止措置を受けたことを報じている。1月の“ずさんな品質管理”の実態の発覚後の臨時審査で指摘された8件の不適合に対する是正処置の5件を審査登録機関SGSジャパンが不十分と結論づけたとのことである。実際には既に登録は停止状態にあるから、その解除とならなかったということであろう。これはJAB認定の基準に準じた所定の手続きに従ったもので、現行の審査登録制度の枠組みでは正当なのであろう。
 
  これによりISO9001再登録を条件にしていた大手小売り数社は取引再開を見送り、不二家は当てにしていた再建の道筋を狂わされた。SGS社もこの情勢を知っていたはずだから、決定はISO審査が情実に流されない、公正なものであることを社会に示したとも言え、また、登録証を裏切った組織にはちゃんと制裁を加え、実効ある再発防止対策をあくまで追求する姿を見せたとも言える。SGS社や業界にはこの決定が審査登録制度への社会の信頼回復に与ればとの想いがあるのかもしれない。しかし、社会が審査登録に不信を抱いたのは、社会制度であるなら品質事故や不祥事を出さないよう企業を監視すると期待していたのに、不祥事が発生したからである。不二家に裏切られた感情はあっても、だからと言って社会が今の不二家に登録停止の制裁を加えることを望んでいるとは思えない。消費者や小売り各社の期待は、再審査が購入又は販売の再開に必要な安心の保証をもたらすことではなかったのだろうか。
 
   また、登録証は組織にとって、品質関連業務がISO9001規格の要件を満たして実行されており、出荷する製品の品質に安心感をもってよいということについての第三者による客観的な裏付けである。半年前の審査で裏付けを得たのに、不祥事の報道が出た途端に数々の不適合指摘が出され是正した上でなお登録が拒否されたことに対して 組織に困惑があっても直ちにはおかしいと言い切れない。然るにSGS社は経緯を顧みた形跡なしに、再登録に藁にもすがる思いの組織に対して大向こうを意識した登録停止処分を、しかも問題発覚後3ケ月にして、言い渡した。これが業界の日頃標榜する“経営に役立つ審査”なのだろうか。
 
  多くの小売り各社が販売を再開している状況の中でのこの度の決定は、買っている消費者に不二家製品の品質は安心できないという警告になることも意識されていないようだ。関係者の間で利害の対立する影響の大きい微妙な決定には、審査の経緯や結論に関しての説明があってもよい。しかし、一時停止については「公表する必要はない」とのJABの基準のまま、SGS社は口をつぐんでいる。
 
  この度のSGS社の決定は、審査登録機関の論理や制度の基準を満たしていても、組織と社会の利益に資するのが目的の審査登録制度の趣旨に適うものとは思えない。不二家の再建の道筋を狂わし、社会の販売再開の期待に冷水を浴びせ、既に購入を再開した消費者には品質不安を匂わした。再開された販売は続けられるから、これは逆の意味での審査登録制度への露骨な不信表明である。再審査の一連の経過は審査登録機関の論理に忠実であったが故に、社会の審査登録制度への信頼を回復するのでなく、信用を失う方向に作用したように思える。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-51>

 49. ISO登録証の有効性への疑念報道 −不二家品質不祥事
   不二家洋菓子工場の期限切れ原料使用の問題は、全社的なずさんな品質管理を浮き彫りにするまでに発展し、経産相が同社取得のISO9001に関する疑念をJAB(日本適合性認定協会)にぶつけたと報じられるに至った。不祥事報道はこれまでも少なくないが、登録取得との関係に直接言及されたのはほぼ初めてであり、それだけに業界の危機感は強く、対応も迅速である。
 
  まず、JABは声明を発表し、不祥事の報道があった場合の審査登録機関とJABのとるべき制度上の対応処置を説明し、当該審査登録機関のSGSジャパンもこの手続きを実行中と発表した。JACB(審査登録機関協議会)も会員機関に向けて、「不祥事が起こった際の適切な対応も審査機関の社会に対する重要な義務である」とし、各機関が認証・審査の有効性の向上に主体的に取り組むことを求める声明を発表した。
 
  JAB声明は、民間の制度であるので国の指示を受ける謂われはなく、不二家の再審査など言われなくともやっているというもので、JACB声明は「ISO認証の有効性及びISO認証制度の信頼性が問われている」との認識を示して少しはまじめだが、制度上の対応処置の実行以上の内容はない。しかし、報じられる経産相の要請が実際にあったとすれば、監督官庁の立場からではなく、ISO9001登録組織がなぜ品質不祥事を起こすのかという一般消費者の率直な困惑や疑問を代表したものであろう。
 
  そもそも、ISO9001は品質保証の国際標準であり、「品質保証能力を実証する場合」に適用するのだとJIS解説は説明している。そしてJABは、審査登録機関認定基準において「組織が供給している製品の品質に重大な疑いを生ずる状況」を「不適合」とすべきことを規定している。登録証は審査で当該組織の「製品の品質に重大な疑い」がないと判断された結果であり、登録証のJABマークはそのような審査と判断基準で登録証が発行されているとのJABの判断て証拠である。これが審査登録制度の論理であるなら、経産相の疑念と要請は理に適っている。不祥事の露顕に際しては、なぜ「疑いがない」と判断したのかという審査の判断の適切性の検証がJABや審査登録機関の最初の対応でなければならない。
 
  しかし、日本の登録制度では、品質保証の規格ISO9001への適合と品質保証能力の実態とは無関係という理屈である。審査登録は「製品認証の概念とは異なり、マネジメントシステム審査登録は改善することに意味がある」というJABの解釈の下に行われている。登録証は品質不祥事が起きない保証ではない。これが、どの声明も経産相要請の背景に応えず又は気づかない振りをしている理由である。それでいて各声明は社会に審査登録制度の信頼性向上に対する理解と支援を求める文章で締めくくられている。つまり、不祥事も出るのが登録制度だと言いながら、登録制度を信頼して欲しいと言っているのだ。
 
  日本では、ISO9001規格導入の狙いの通りに機能していると評価する組織はJAB調査でも50%強に過ぎない。しかし先年、これと無関係な「負のダウンスパイラル」と称する別の機能不全が持ち出され、審査機関の安易な審査とコンサルタントの能力不足が原因としてJABは管理を強めてきた。同時進行形で、登録制度は社会制度であるとか、審査機関の顧客は受審組織ではないとの主張が現れ、今や業界常識となった。登録制度は組織の悪行の監視、組織の顧客の保護が目的であって、組織には直接役立たないものだと言っている。しかし、今度はその顧客からあからさまに機能不全を指摘されるに至った。
 
  この度のISO9001登録証への疑念報道への対応は、何事につけ論理不在の業界らしい。この業界体質の背景には、規格と登録制度の理解や解釈において一握りの指導層が天啓的判断を下す権威主義とそれを鵜呑みにする無責任主義がある。ISO9001と登録制度を機能させるには、関係者が自分の頭で考えてすべてを本来の姿に戻すしかないように思えるのだが。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-49>

 47. ISO14001と環境配慮投資、融資 −価値のない登録証 
<ISO14001環境マネジメントシステム>
   ISO14001は、組織が活動及び製品・サービスに付随する環境影響を管理し、継続的に改善する環境マネジメントの業務体系の枠組みを提供する。その狙いは“持続的発展”の理念に沿って組織の発展と環境の保全とを両立させることにある。つまり組織は、その環境影響を把握し、適用される環境法その他の規制を遵守すると共に、組織の環境影響を受け或いは関心を有する人々(利害関係者)のニーズと期待に応え、且つ、技術上、財務上で実行可能な精一杯の環境改善を着実に、継続的に行う。
 
<環境責任>
   ISO14001規格制定のきっかけは、“持続的発展”を共通の理念に掲げ、世界の環境取組みを方向づけ、枠組みを定めた1992年の地球サミットである。ここでの産業界の環境取組みの誓約を検討するための会議“BCSD”が開催され、「組織の確実で一貫した環境改善努力を評価する普遍的な指標がない」という問題意識が明確にされた*1。ISO14001はこれへの応えであり、組織が規格に則って環境マネジメントを行えば、地球環境に対する環境責任を果たすことになる。
 
<審査登録制度の狙い>
   審査登録制度は、組織の環境マネジメントがISO14001の要求事項に則って実行されていることを判定し、組織が国際標準の環境責任を果たしていることを登録証の発行により、広く利害関係者に証明するためにある。利害関係者は現実には組織から直接、間接に環境影響を被ってはいるが、登録証によって組織の現状と環境取組みが国際標準の環境責任を満たすものであるとして了承し、組織と製品を受入れ、安心して組織の活動を支援する。組織は利害関係者からの信頼を得て、競争優位の確保、社会との良好な関係の維持の他、投資家の基準を満たし資金調達を改善でき、妥当なコストで保険がかけられ、許認可の取得が容易になる、というような実務上の利益を期待することできる*2。
 
<環境配慮投資、融資>
   ところで、社会的責任投資、環境配慮型融資というような組織の地球環境保全取組みに着目した投資や融資の仕組みが世界で拡がっている。企業の社会的責任という概念は1980年頃に始まるが、今日の環境配慮投資や融資の拡がりが世界の環境取組みの枠組みを定めた地球サミットの決議“アジェンダ21”に加速されたものであることは間違いない。これらの投資、融資では、投資、融資元の機関投資家や金融機関が、組織の社会的責任ないし環境改善への取組みを一定の基準で評価して、投資先を選別し、融資条件を優遇する。しかし、投資、融資元は通常、「一口に環境といっても評価の基準が難しい。業種も企業規模も違う」という問題の下での「大変な作業」を強いられる*3。
 
<登録取得組織の利益>
   環境配慮投資、融資とISO14001の原点は同じであり、狙いも同じく、組織が環境責任を果たすのを支援することである。環境配慮投資、融資が環境責任を果たす組織を選別する基準を必要としているのに対して、ISO14001がその基準となることをも意図して環境責任の果たし方を定めている。にもかかわらず、ISO14001が環境配慮投資、融資との関連で語られることはない。昨年末で世界の21%、23,500にのぼる日本のISO14001登録組織も環境配慮投資、融資を受けるためには、未取得組織と同じように、個別の必要条件を満たし、指定データを報告し、評価を受けなければならない。ISO14001が取得組織に意図された利益を与えていない。
 
<ISO14001普及の障害>
   この状態が機関投資家や金融機関のISO14001についての認知が不足しているためであるなら、JABや審査登録機関にはISO14001の普及がその生命線である以上、ISO14001の利用価値の広報に努める必要がある。しかし、業界は“審査の公正さ”や“審査の付加価値”に熱心で、登録証の価値には関心を示さない。しかし例え広報活動を行ったとしても、環境配慮投資、融資が“環境責任を果たす企業が発展する”という信念を基礎にしているから、“紙、ごみ、電気から本業での環境改善へ”というようなことが真面目に語られる日本のISO14001の不真面目な実態は、機関投資家や金融機関の説得、理解活動の重大な障害となるに違いない。
 
*1 J.Cascio他:ISO14001ガイド、日本規格協会、1996.12.16
*2 JISQ14001;序文
*3 日経新聞: 2006.9.18号、スイッチオン・マンデー
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 45. 登録組織の不祥事と業界の対応−審査登録制度の信頼性を毀損
<審査登録制度の意義>
   規格ISO9001,14001は、組織が品質又は環境に関して利害関係者のニーズと期待を満たすことによって利害関係者から製品の購入、立地許容、操業認可、融資や投資など組織の発展に不可欠な支援を得ることができるとする原理に基づいている。組織がそのような努力を行っていることは利害関係者にはわからないから、組織は公正な第三者たる審査登録機関の審査を受け、その努力を証明する登録証を得て利害関係者にかざし、支援や支持を訴える。これが審査登録制度の意義である。
   
<審査登録制度の認知と登録証の信頼性>
   ISO9001,14001の普及び利益の享受のためには、当該の及び潜在の利害関係者の登録証に関する認知と登録証への信頼感が不可欠である。折しもパロマ工業製瞬間湯沸器に係わる深刻な品質事故が新聞等を賑わせている。ガス中毒防止はこの種製品の品質の最も基本的要件であるから、同社の問題処理は如何にもお粗末で、品質保証の観点で妥当性に欠ける。ISO9001に則り顧客のニーズ、期待である欠陥製品防止の努力をしているというなら、死亡事故を何件も発生させるような問題処理はあり得ない。報道は同社にISO9001適合の登録証が発行されている事実に触れていないから、事件が一般消費者の審査登録制度の信頼への打撃とはなっていない。しかし、報道がないのが社会一般のISO9001と審査登録制度に対する認知と信頼の無さの反映であるなら、審査登録業界としては幸いとばかり喜んではいられまい。
 
<登録組織の不祥事への業界の対応>
   近年、登録取得組織による品質又は環境事故など不祥事の報道が少なくない。JABは今年、耐震偽装マンション販売疑惑渦中の潟qューザーのISO9001登録取得の事実の報道を契機に、審査で知り得た法規制違反に対する審査員の義務を定めた通達を出した。しかし通達は対象を意図的な違反、しかもISO9001審査に限定しているなど内実に乏しい見せかけの対応である。不祥事が明らかになった場合審査登録機関は、その組織の登録を一時停止にして再発防止対策を要求し、この結果により登録を復活させるという対応をとるのが通例である。審査でなぜ発見できなかったかなど審査登録機関の責任に言及した例はなく、雑誌での見解表明では「少ない工数で最低ラインのマネジメントシステムの存在と有効性を保証しているだけで、事件、事故の起きないことは保証していない」と責任を否定している。
 
   目下の湯沸器ガス中毒事故に関しては、パロマ工業に登録証を発行した審査登録機関JIA-QAセンターは沈黙を守り、登録一時停止の発表さえない。ただ、登録範囲が「”株式会社パロマ向け” ガス温水機器・・・」であり、販売後のサービスを登録範囲から除外しているから、報道される事故は顧客たる潟pロマの問題であって、パロマ工業の登録証の品質保証の対象外であると整理できる。これが審査登録業界の沈黙の理由かもしれない。責任回避の論理はそれでよいとしても、この登録証は何のためだったのかという疑問に答える必要がある。
 
<まとめ>
   日本の登録証の圧倒的多数は国内の事業者間取引に使用され、関係者にはその有効性に関する割切りが存在している。従って、不祥事報道で直ちに登録件数が減少することはないが、認知さえ未だしの消費者はじめ一般社会に審査登録制度への疑念と不信を育む機会を与える。例え不祥事防止が審査登録制度の枠を越えるものであるとの業界の主張に合理性があるとしても、不祥事を起こす組織にも登録証が発行されるという事実は、審査登録制度の有用性に対する疑問を増幅させても、信頼を向上させることはない。
 
   問題の根底には、システムを機能させることを否定する規格理解と要求事項解釈、これらに基づく形式重視の審査と審査合格の形式を整えるシステム構築作業という日本のISOマネジメントシステム取組みがある。不祥事はこのような取組みによるシステム機能不全の結果であり、現にシステムが組織の役に立っていないという証拠である。不祥事は今後も発生し続け、社会の登録証への信頼の向上は望むべくもない。
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 38.ISO機能不全の構造要因:
     
(副題) 制度に反対する本当の理由
            (その5)規格協会のISOコンサルタント登録制度は誰のためか
   日本でISO9001/14001が機能していないことは今や業界の常識である。日本規格協会の創設した コンサルタント登録制度はこの原因がシステム構築支援に当たる コンサルタントの能力不足にあるとする考え方に基づいている。しかしこれは、現実に目をそらした、ISO機能不全の実態を強化するだけの的はずれの対応である。
 
   マネジメントシステム規格の規定は、世界の企業の成功体験を基礎とした効果的な マネジメントの規範である。例えばISO9001は、変化する顧客のニーズと期待を適切に掌握し、それを満たすように製品・サービスを絶え間なく改善、提供し続けることによる事業の繁栄が狙いであり、このための組織の マネジメント業務に対する必要条件を規定している。規格に則って業務を効果的に行えば、品質不良や苦情を減らし顧客の心をとらえて競合する他組織に伍して市場競争に勝ち残り繁栄できる。
 
   ところが日本では、規格は審査登録のための組織に対する要求を規定しており、ISO9001は顧客の「売り手はこうあってほしい」という要求を、顧客に代わって要求しているものとされている。然るに規格解釈においては、規格は製品の改善は要求しておらず、顧客要求をかろうじて達成する程度の顧客満足が狙いであり、継続的改善と言っても改善と呼べる活動をやめなければよいということになっている。つまり、顧客は不良の減少やニーズに合致する製品を望んでおらず、改善の振りだけを求めていると見做なしている。さらに、規格の要求は「最低限」であるから、規格要求事項に合わせて構築した品質マネジメントシステム はそれだけでは役に立たず効果がないと説明される。
 
   登録審査は、組織が規格の要件を満たして業務を行っており、顧客のニーズを満たす製品・サービスを提供する能力を有するという安心感を顧客に与える手段である。 このお墨付きの登録証が、輸出など未知の相手との取引や サプライチェーンの企業間取引において組織の製品・サービスに対する安心感を与える。
 
   しかし日本の審査は業務の"仕組み"が対象であり、システムの品質と製品の品質とは別物である。登録証は製品の品質保証でないとの表面的規格解釈が殊更に強調され、規格の通りの業務では効果が出ないという規格解釈の下で規格への適合性が審査され登録証が発行される実状への疑問も生まれない。登録証は顧客にとって安心のお墨付きではなく信頼してもらえるように仕組みを整えた証明に過ぎないとも説明される。審査登録機関は審査は受審組織の顧客や社会のための監視機能であると言う。しかし、組織の不祥事には顧客や社会に責任をとらない。
 
   このように、日本の規格解釈と審査登録制度理解は、規格や登録制度が機能することを否定する考えの上に立っている。 この考えに立って、規格に従った業務を、組織が実行し、 コンサルタントが指導し、審査員が審査し、審査登録機関が登録証を発行している。日本でISOマネジメントシステム が機能しない真の原因はここにある。
 
   問題はこれら解釈が規格作成関係者を中心とする業界指導層の専決事項であることである。その解釈は企業で発達した内部監査や是正処置、既存学問体系である監査、更に、マネジメントとは異分野の適合性評価にまで及び、その見解は批判や問題提起、議論の対象にならず、ISO専門誌もこれにひれ伏す。異なる見解の表明は「首をひねるような、もっともらしい内容の解説をする自称専門家」とか「商売拡大のみを目指しているとしか思えないコンサルタント」として切って捨てられる。この権威主義と関係者をこれに従属させるように機能する登録制度管理機構が日本のISOを機能させない構造要因である。
 
   日本のISOの現状を安価に登録証の入手を望む組織の増加により登録制度の信頼低下が進む「負のスパイラル」と断定した「管理システム規格適合性評価専門委員会報告書」(H15.4.25)の中心メンバーも業界の指導層と管理機構の人々である。報告書の アンケート調査結果では、顧客の評価向上、製品・サービスの質の向上、品質システムの基盤構築といったISO9001の登録取得目的を達成したと判断する組織は55%に過ぎない。しかし、これを遺憾とすることも、背景や原因を分析した形跡もないまま「負のスパイラル」を持出し、原因を審査機関の倫理性、審査員とコンサルタントの能力不足に帰している。その後にこの報告書の提唱の実施で少しでも状況が改善したという話は聞かないが、制度管理諸機関の権限と事業の拡大の事実は明らである。
 
   規格協会のコンサルタント登録制度は日本のISOを機能不全にしている構造要因の申し子である。発想はコンサルタントの管理を図る権威主義であり、中身は書類が整えば能力を認めるという形式主義であり、無能な登録コンサルタントによる組織の被害には責任をとらないという無責任主義であり、結果として機関益がもたらされる。この制度は日本のISOの機能不全の現実を一層強固なものとし状況を悪化させ、さらにその対応として管理諸機関の権限と権益の生むという過去の”スパイラル”の反復である。日本経済の発展のためにISOの健全な発展を願う者として、日本規格協会が強行する「QMSコンサルタント登録制度」には反対しなければならない。
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29. 審査機関の顧客は受審組織ではないという考え方
    審査機関は受審組織のためではなくその組織の顧客のために審査すべきであり、審査機関の顧客は受審組織の顧客や社会であるという考えがある。この説には、受審組織は登録証の安直な入手を企てる悪者であり審査機関はこれを取締まる警察官だとする業界の権威主義が透けて見える。
 
   そもそもISOマネジメントシステム規格の基本概念は、組織の事業は顧客や社会など諸利害関係者の支持で成立つものであるから組織はそれらのニーズと期待を満たすよう製品を提供し或いはその活動を行うことが必須であるということである。ISO9001/14001両規格は、組織が品質或いは環境に関してこれを実現するのに必要なマネジメント活動の在り方を規定している。組織のマネジメント活動がこれら必要条件を満たして効果的に実行されているかどうかが「規格適合性」である。組織は、その業務の規格適合性を中立の第三者に実証してもらうことによって、組織の活動と製品が顧客や社会のニーズと期待を満たしたものであることを訴え、その支持を得ることが可能となる。
 
   認証審査は「組織のマネジメントシステムが効果的に履行されているとの保証を組織と顧客に与える*1」ことが目的であり、受審組織の監督の仕組みではない。受審は規格導入の必要条件ではなく、組織の自由である。組織が受審するのは、自身のマネジメントシステムの規格適合性の権威ある証としての登録証を入手するためである。 認証審査は、審査機関が規格適合性の判断を提供し、受審組織が判断の証の登録証を対価を支払って受取るという商取引である。規格の定義では、審査機関は「製品を提供する組織」であるから「供給者」で、「製品を受け取る組織」である「顧客」は紛れもなく受審組織である。組織の顧客や社会はこの商取引では部外者である。
 
   この商取引で監督行為を含蓄する「審査(監査)」という用語が使われているが、監査は目的ではなく、登録証という製品の実現の手順として一般の監査理論で確立した監査手続きや監査技法が援用されているだけと考えた方がよい。審査は手段であり、製品は組織のマネジメントシステムの規格適合性の保証たる登録証である。審査機関の最大の責務は審査の質の向上ではなく登録証の品質向上である。受審組織は登録証を顧客や社会に示して組織の活動と製品への支持を求めるのであるから、登録証の社会的認知及び信頼性こそが、審査機関の製品の最も重要な品質である。
   
   認証登録制度に係わる諸機関、人々による、「審査機関の顧客は受審組織の顧客であり或いは社会である」との主張は、自らの役割を受審組織の不正を取締まる警察官に擬していることの現れである。しかし、認証審査を受けるかどうかは組織の自由である。組織が登録証に審査費用に見合う価値があると考えるから審査サービスを発注するという商取引である。認証登録制度諸機関は供給者としてその製品である登録証の有用性、つまり、顧客や社会が組織を選ぶ指標としての信頼性を確実なものとするよう努め、顧客たる受審組織の期待に応えなければならない。
   
*1 ISO中央事務局: 多忙な管理者のためのISO9000, ISOホームページ
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-29>

24. ISO14001:2004 で認証審査が厳格化される? 
   ISO14001改定版の発行が迫り改定点の解説が賑わう中で、現行版で認められていた ”紙、ゴミ、電気を中心とした本来業務と遊離した環境マネジメントシステム” が改定版では認められなくなるなど認証が厳格化されるという説が勢いを増している。
   
    しかし、それは現行版でも不適合である。なぜなら、ISO14001では組織は環境影響低減の取り組みの意図や狙いを環境方針に明確にし、その実現を図る責任があるのだが、この環境方針は「組織の活動、製品、サービスの性質と規模及び環境影響に照らして適切でなければならない」と規定( 4.2 a)項)されている。本来業務に関係ない環境取り組みを掲げる環境方針が不適合であるのは議論の余地がない。活動、製品又はサービスだから「どれかひとつの」という意味であるという解釈は4.2. a)項が何のためか考えればナンセンスである。
 
   ISO14001は、国際的に合意された組織の環境責任を果たすのに必要な仕事の仕方を規定している。組織はその利害関係者のニーズや期待を満たすような環境影響低減に可能な最大限の努力をし実績を挙げれば、地域住民による立地の容認、顧客による製品やサービスの購入、投資家や金融機関による投融資などの利益を期待できる。これを仲立ちするのが審査機関の発行する登録証である。組織のISO14001適合の環境取り組みとは、諸利害関係者のニーズや期待を満たすものでなければならず、規格の「環境方針は組織の活動、製品、サービスの性質と規模及び環境影響に照らして適切でなければならない」との規定はこの意味である。これへの不適合を許容してはISO14001はその存在意義を失するから、4.2 a)項は認証審査の最も重要な点である。従って、規格作成或いは審査機関の関係者までもがこのような認証登録が現行版では認められていると述べていることは驚きである。
   
   日本のISO取り組みでは、本質を顧みることも議論することもないまま、規格を登録証取得のための組織への要求として、翻訳規格たるJISの条文の日本語文言に基づいて、要求事項対応という形式重視の解釈が幅を利かせている。この風潮の中で論拠を示さない神様の御託宣式の解釈も容易に鵜呑みにされる。認証厳格化の説明は理由や論理展開においてご都合主義であり、引用された変更が誤訳の修正に過ぎない和訳文の文言変更であるという事実にも言及していない。改定版発行についての新聞発表を含むISOの公式見解と明らかに異なる認証厳格化論が唱えられるのは、そんなものは誰も気がつかないと高を括ったものか、解説者自身が読んでいないのか。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-24>

17. 製品の品質とシステムの品質  
   登録証は、組織の仕事の仕方を認証するもので、個々の製品の品質の認証ではない。このため ISO9001の登録証は製品に直接表示できない。しかし登録証は、不良製品が顧客の手に渡らないための適切で妥当な組織の努力の保証であり、組織の製品、サービスの品質を信頼できるという顧客への保証である。これが認証登録制度の趣旨である。
 
   一方、登録証が保証するのはシステムの品質であって、製品の品質ではないという考え方がある。この考え方では、組織が致命的な或いは重大な品質事故を起こした場合でも、原因追求と再発防止対策がきちっと行なわれるならば、その品質マネジメントシステムは健全であるとみなされる。 悪いのは製品の品質であって、システムの品質は問題ない。
 
   ISO マネジメントシステム では製品はプロセスの結果であり、ある目的のために種々のプロセスが相互関係をもって結びつけられたのがシステムである。従って組織が顧客に提供する製品やサービスはシステムの産物である。製品が悪ければシステムが悪いからである。ISO9001の品質 マネジメントシステム の目的のひとつは組織が品質不良の製品、サービスを顧客に提供するのを防止することである。組織がこのシステムを効果的に実施すれば、顧客が不良製品を手にする危険を限りなく小さくできる。システムの品質とは、不良製品をどこまで抑止できるかであり、品質事故の発生度合いで評価されるものである。規格の論理では、製品の品質はシステムの品質の結果であり、両者を別物とする考えにはならない。
 
   審査合格が目的化したISO マネジメントシステム 取組みにおいては、規格要求事項に適合する形式が重視される。 審査ではシステムにこの形式があるかどうか、この形式が実行されているかが重視される。システムが不良製品防止という目的に有効かどうか、その目的が果たされるように効果的に実施されているかどうかは通常、審査の対象にはならない。 これは正に、登録証は製品の品質と無関係にシステムの品質を保証するものであるとする考え方の反映である。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-17>

16. 論理の説明のない簡易版EMS  
   中小企業でも容易に取得できることをうたい文句にした、いわゆる簡易版EMSがいくつか存在する。 いずれもISO14001を基礎としながら、その要求事項を緩和して取り組みと登録取得を容易に、安価にしたと主張している。 腑に落ちないのは、なぜISO14001の要求事項を緩和できるのかということである。 これはどの簡易版EMSも説明していない。
 
   ISO14001規格は、組織が社会の環境ニーズと自身の経済的存立を均衡させつつ活動と製品の環境への悪影響を継続的に着実に改善するという環境マネジメントに対する必要条件を規定しているものである。 この規格の要求事項に沿って業務を行なう組織は、環境保全のためにコストである環境対策に精一杯取り組んでいると認めるに値する。 これは国際的共通認識であり、合意である。認証登録制度は環境保全にこのような正当な努力をしている組織を社会、顧客初め諸利害関係者に公報するためである。
   
   各簡易版EMSは、ISO14001の規定する正当な環境保全努力の一部の遵守が困難だからといってその努力をしない組織を、なぜ正当な努力をしているといえるのかを説明しなければならない。簡易版EMSを肯定するTC207国内委員長吉澤 正氏も「確かにISO14001の一部だけ行なって、それでEMSでいいのかという問題はあります。」と雑誌の対談で答えている。
   
   また、ISO14001に規定された努力をしない組織が取得する登録証はどのような意味を有しているのか、利害関係者は登録証から組織について何を判断できるのか、の説明もなされるべきである。 簡易版EMSは、ISO14001の対案であり、その問題点を改善したものと主張するなら、その相違や特徴に対する論理を明確にしなければならない。 取組みの容易さ、登録取得の安価さはわかっても組織が取り組む価値のというものが判断できないし、各利害関係者にも登録証の意味がわからない。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-16>

13. 審査とコンサル分離の JAB 新指針 
   審査登録制度の信頼性確保のため、審査とコンサルティングの実行区分を厳格にするJAB新指針が11月1日から施行される。 これにより、審査機関を巡る商習慣に相当の制約が加わることになり、指針の運用次第ではISO業界の構造を揺るがすことにもなる。
   
   折しも JAB はアンケート調査結果で、「ISO9001が有効に機能した」と答えた組織は、「大いに」と「かなり」とをあわせても52%だったと発表した。これについて報告書は「有効に機能していると評価している組織が過半数を越えている」と肯定的である一方、内部監査がシステムの有効性を確認し、システムの改善を図るというように活用されていないと指摘するなど、「有効でない」ことが組織の問題であるかの分析をしている。
 
   ところで JAB新指針は、審査機関とコンサルティング会社ないし受審組織との癒着により、認証審査の基準が歪められているのではないかとの社会の不安が背景である。審査に手加減しないと合格しないような"いい加減なシステム"の持主の組織とその製品には信頼は置けない。これは認証登録制度のイロハである。 そして "いい加減なシステム" とは規格の狙いを達成していない「有効には機能していない」システムである。 社会の不安の本質は「機能していないシステム」に対して「システムが効果的に運用されている」として登録証が発行されていることである。調査結果の機能していないとされるシステムのすべてが審査とコンサルの癒着の結果ではないだろうから、JAB新指針は社会の不安の解決にはならない。
   
   仕組みさえ整っていれば結果を問わないかのシステム審査の現状では、癒着が疑われるほどに審査機関がどのようにも合否を判断できる。 機能しているシステムにしか登録証を発行しないというように、認証に絶対の基準を適用することが問題解決の唯一の道である。癒着とか審査のばらつきなど社会の問題指摘が一挙に根本的に解消できるし、これこそが、ISO9001、14001規格の認証登録制度の本来の意図である。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-13>

. 役に立たない ISOマネジメントシステム の行く末  
   ISO9001、ISO14001のいずれのマネジメントシステムも登録証を得たものの、システムが機能していると実感している組織は少ない。それでも関係者には「登録証を取得して取引機会を維持或いは獲得出来たからシステム構築の利益があった」と受けとめられているようである。
   
   仕様が国際的に統一され海外の製品が使用できることはわかっても、品質に関する不安が見知らぬ企業との取引に二の足を踏ませる。ISO9001登録証は、このような顧客に購入しようとする製品の品質への信頼感をもたらす。また顧客組織は、登録証を有する供給者の製品なら品質不良を引き起こさないと安心できるので、供給者に対する自らの管理の負担を軽減できる。 一方、ISO14001の登録証は、組織が社会や顧客など利害関係者のニーズと期待に沿った環境保全努力を精一杯実行している証である。組織を受入れ、製品を購買し、取引機会を提供し、投資の対象を選択するなどの際、当事者は登録証の有無を判断の基準とすることができる。また、環境保全型製品を事業戦略とする組織にとっては、その外注製品や購入部品の持つ環境影響を低減することが必要であるが、登録証を有する供給者ならそのような管理を自主的に行なうだろうことを期待できる。
   
   顧客など利害関係者が登録証の取得を供給者に求めるのは、供給者の製品の品質或いは環境負荷に関するニーズと期待があるからである。本当の要求は自己の利益に資する供給者製品の品質或いは環境上の改善であるから、登録証を取得しても、顧客組織の必要とする製品、サービスの改善が実現しないなら、やがてその供給者を見放すことになる。そして、実際にニーズや期待に応えていないと判断するに至ったシステムにも登録証が発行されていたとすれば、それら当事者は登録証を信頼しなくなる。
   
   登録取得組織自身がシステムの実益を実感できていない現状が続くなら、やがて登録証への信頼低下は雪崩をうつ如く、第三者審査制度やそれに裏打ちされるISO9001、ISO14001規格の信頼性も崩壊に向かうことになるかもしれない。消費者、顧客組織、地域社会、投資家、行政府など利害関係者は、自己の利益の実現のために法規制、要求仕様、監視、立入検査、監査、指導などの強化で自ら管理の行動を再開せざるを得なくなろう。これに対応する組織や社会的費用は産業の国際競争力を弱める。これは最悪の筋書きだが、現状が孕む危険でもある。
このページの先頭へ 詳しくは<62-01-06>

.付加価値のある審査(Value-added Audit)
   "付加価値のある審査"の議論が少なくないが、システム運用の利益を実感できない受審組織の不満への審査機関の対応の側面が色濃い。この言葉は、米国の雑誌記事の "Value-added Audit" の翻訳であろうが、"Value added"は事業活動が創造する価値、つまり「付加価値」である。これが"value-added"という形容詞として使われる"Value-added audit"は「単なる審査を越える付加的サービス」と定義されているから、「追加的価値のある審査」の意味である。そこで「追加的価値」を考えるには、ISOマネジメントシステムに関する第三者審査の目的や意義から検討しなければならない。
 
    まず規格の「監査」は「監査基準が満たされている程度を判定する活動」であり、第三者審査では監査基準は規格であるから、「組織の品質又は環境マネジメントシステムがそれぞれの規格の要求事項を満たしている程度を判定する活動」である。 評価、判定の結果が「監査所見」(同 3.3)であり、これには「改善の機会も示し得る」し、監査結論でも「マネジメントシステムの効果的実施、維持、改善」を扱うことができる。つまり、合否判定に加えて改善の余地のあるマネジメントシステムの問題点を示すということは認証審査の一部であるから、これを追加的価値と見ることは適切でない。
 
   前記雑誌は "追加的価値のある審査"の例として、規格要求事項でなくとも欠点は指摘する、改善ないし合理化できる問題を指摘する、維持が煩雑または困難なシステムの部分については黙っていない、実際の業務に価値の認められない或いは規格が必要としていない文書や作業は指摘する、を挙げているから、これなら認証審査の通常の範疇である。記事は「もし組織が我々から得るのが壁に掲げる登録証だけであって、組織の財務上の利益の改善に寄与できなかったなら、我々は失敗したことになる」との審査機関社長の発言を引用している。これなら"追加的価値のある審査"ではあるが、どのような審査の指摘が財務上の利益をもたらすのかには触れていないから絵に書いた餅である。
 
   次に第三者審査は組織のマネジメントシステムの規格適合性評価の手段であり、適合の証拠として審査登録機関は登録証を発行する。登録証は、組織の品質又は環境マネジメントの業務が 規格に沿って効果的に実行されていることを顧客や市場、社会に保証するものであり、組織の製品ないし活動がそのニーズと期待に応えるものであるとの安心感をもたらす。組織は登録証を買っているのであって審査という活動に対価を支払っているのではない。組織が審査機関に求めるのは登録証であり、登録証の市場や顧客取引における有効性である。如何に審査という活動の価値を高めても、製品たる登録証に価値が見出されなければ受審組織は満足しない。登録証を得たことへの利益が実感できないという不満への対策に審査の追加的価値が持ち出しても問題解決にはならない。
 
更に審査機関と受審組織の専門性と責任の分別である。規格は成功を納め世界的に認められた最新のマネジメントの理論に基づいている(ISO中央事務局:ISO9001/14000謎解きの旅,[基本];汎用的マネジメントシステム規格)。規格の規定は組織の多くの管理者によって実践され、あるいは、効果的実行を目指して習得され、試みられている現実のマネジメント業務の考え方と手法を共有している。マネジメントシステムに関しては受審組織の管理者に専門性があり、審査員は審査の専門家である。審査員がマネジメントシステムの機能上の改善点を管理者に指摘できると思うのは論理的でない。実際に財務上の利益をもたらすような改善指摘を審査員の業務として結果責任を問われることになった場合に、どれほどの審査員や審査機関がこれに堪えることができるか。審査員は適合性の視点での改善の指摘にとどまらざるを得ず、それは"追加的価値"ではない。
   
  審査の"追加的価値"として、システムの機能上の欠陥を指摘するというのは、審査登録機関の組織に対する優越意識の匂いがし、"追加的価値"を"付加価値"と呼ぶ安直さは業界の非論理性を反映し、現実的でない"審査の付加価値"説は結果責任を顧慮しない官僚的形式主義の現れである。公式調査でも品質又は環境マネジメントが規格に従って効果的に実行されていないことを半数の組織が認めている。受審組織の関係者と周辺に増大する審査や審査員あるいは審査登録制度に対する不満と不信の解消には、このようなシステムの存在を許さないような審査機関の取組みではないだろうか。このような審査こそが、適合性評価制度の枠組みの中で本来の "価値ある(valuable)審査" であり、審査が"付加価値(value added)の創造"に与ったと言える。少なくとも受審組織が審査の追加的価値の提供を望んでいるとは思えない。
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2.ISOは役に立っているか? −混迷の実状
   昨年末に日本のISOの元締め、日本工業標準調査会がISO導入の1000社に対するアンケート調査結果を発表した。ヤフーの掲示板では7/26以来「ISO9001は本当に役に立つのか?」の議論が活発に行なわれている。前者は経営者、管理者層、後者は実務層のISOへの見方を反映したものと思われるが、どちらもISOの表面的隆盛と裏腹の歪んだ現実を浮かび上がらせている。
   
  即ち、アンケート調査では「ISO導入の目的が達成されたかどうか」に対する肯定意見はISO9001で55%、14001で58%であり、ISO9001の2000年版登録取得の便益とコストの関係でも肯定意見は59%に過ぎない。掲示板では本論の「役に立つのか」に対しては、70%が否定的な見解を寄せ、肯定意見は「使い方次第で役立つ」との条件付を含めても30%とわずかである。情報の性格から両数値とも偏りがあると思われるが、これを割り引いて考えても、ISO導入組織の半数までもの経営者が登録取得の目的を達成できず、コストに見合う便益を得ていないと認め、一方でシステム運用を支える人々の過半数がISOの効用を否定している。
   
  掲示板の意見は更に辛辣で深刻である。第一に、否定的意見を表明した人の1/3は、二重帳簿となったり、審査前に書類を整えるといったシステム運用の実態を指摘している。肯定意見も現実にはISO取組みが形骸化していることを認めている。次に、否定的意見の37%が、審査や認証制度に対する不信感を述べている。これらには風評や誤解が影響している感もあるが、実務担当者が形骸化していると認めるシステムが審査に合格している事実からくる率直な疑問に根ざすと考えることができる。更に掲示板には、このような実態にもかかわらずISOを維持する経営者、管理者に対する不信が多く綴られている。
   
  アンケート報告書は、目的達成度に関して「・・%である」と記述しており、わずかに1/2という数値に対する危機感がない。掲示板の否定的意見の1/3は「ISOは元々役に立つものでない」と冷たい。ISOは本来このようなものだ、とISOの提供側も導入側も考えているようである。
   
   アンケート調査と掲示板は、何のためのISOかの理屈を無視し、ただ登録証を得ることだけを関心事とする日本のISO取組みの実態とその結果を写したものに他ならない。   規格提供側は登録件数の増加に満足し、経営者はとにもかくにも登録証を取得し維持できていることで目的を達成している。しかし、実務層は形骸化した実務への疑問から制度とそれを推進する者への不信を強めている。ISOは1980年代の日本製造業の世界的成功の背景だったマネジメントを体系化したものである。日本のISOの現状が規格と認証制度の本質でも意図でもないことを率直に信じないと、日本経済は世界に益々水を開けられることになる。
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