ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
103      お試し登録 ― 認証取得組織から認証業界への明確なノー <62d-01-103>
0. 概要
 
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1. 登録総件数の推移

  JABの発表する適合組織四半期推移グラフでは、ISO9001、14001の認証登録件数は2006年と2009年をそれぞれ境にして減少が続いている。39に分類される産業分野別で見ても、ISO14001の建設業を例外として、2011年6月末までにすべての産業分野で両規格の登録件数はピークを過ぎている。
 
JABウェブサイト:適合組織統計より*1         2011.6月末現在

  減少には非JAB系認証機関への登録替えが含まれることが考えられる。 しかし、2007〜2011年の間のJAB、非JABの登録件数推移を、同じくJAB統計を基にして調査すると、ISO9001ではJAB系と非JAB系を合わせても登録件数は減少している。ISO14001は、この期間ではなお非JAB系で増加しているが、増加代は低下の傾向にある。従って、JAB統計の登録件数減少のほとんどは組織の登録返上、つまり、登録放棄であると考えるのが妥当である。
 
 
2. 縮みゆく認証バブル
  登録放棄は、入札での優遇処置という今や幻の登録利益に踊らされた建設業界から2009年(H21年)までにJAB統計の総減少数に匹敵する件数の登録放棄があったことが広く認められているように、認証制度への深い理解もないままに、誤った情報に踊らされ虚構にあおられて、本質的に不必要な組織までが我も我もと飛びついたことによる認証バブルが崩壊し始めた結果である*3。
 
   しかしJAB統計では、2007〜2011年の間の登録総件数の減少はISO9001で年率平均3.5%、ISO14001で1.4%程度と緩やかであり、かつ、次第に上に凹の放物線から水平に近い直線状になってきている。登録件数推移グラフからは、一見バブル崩壊の様子が窺えない。これは、最盛時より減ったとはいうもののなお旺盛な新規登録があることによる。JAB統計を解析*1して、同じ期間の初回登録年別の登録件数の変化を調べると、ISO9001、14001の1年間の新規登録が登録総件数のそれぞれ7%、6.5%もあることがわかる。すなわち、3.5%、1.4%という登録総件数の見掛けの微減は、それをはるかに上回る新規登録の結果であり、これを考慮すると実際の登録放棄は、年率で11%、8%にも昇ることになる。正にバブル崩壊である。このバブル崩壊による登録放棄の年率は、どの産業分野でも変わらず、  JAB統計の2009Q2〜2011Q2の2年間の登録件数推移を見ても、認証バブルがひとり建設業界に限らずはじけていることを物語っている。ない。
 
 
 
3. お試し登録
  最近、その後のJAB統計の継続監視の解析によって、新規登録組織の半数がその後の3年間で登録を放棄しているという驚愕の、バブル崩壊以外の登録件数減少要因を見出した。すなわち、2011年8月と本2012年8月におけるISO9001登録(残留)件数を初回登録年毎に求めてこの1年間の登録減少率を調べた。
 
  これを示す下図からは、初回登録の翌年から登録放棄する組織があり、初めての更新審査の年に驚くほど多数の組織が登録放棄をしていることがわかる。下図統計の初回登録年別の登録件数は歴年(1〜12月)ベースであるのに、残留登録件数の調査はほぼ年央の8月末であるから、統計数値には調整が必要である。また、初回登録年が異なると登録取得の事情も放棄に至る事情も異なるから、各初回登録年の登録件数のこの1年の減少率の傾向を単に初回登録後の経過年数で並べて評価することにも問題がある。 これら統計上の問題を飲み込んだ極めて大雑把な数値であるが、初回登録取得した組織がその年に登録放棄することはないとして、凡そ5%の組織が登録の翌年、つまり、1年目に登録を放棄し、残りの組織の10%が登録の翌々年、つまり、2年目に登録を放棄し、残った組織の50%が3年目の更新審査を受けないで登録を放棄していると推定できる。これを乗り越えた組織も4年目以降の毎年平均7%ずつ登録放棄して脱落していく。
 
  すなわち、テレビ広告の健康食品のお試しセットのように、ちょっと飲んでみたが飲むのが大変とか、思うような効用がないとかでやめたということがISO9001の新規登録で起きているのである。 上記の 2007〜2011年の解析では初回登録組織は少なくとも3年後の更新審査までは登録放棄することはないという仮定に立ち、登録件数の減少はすべてバブル崩壊によると見做していたから、実際にはその解析結果の数値より新規登録がもっと多く、従って登録放棄がもっと多かったということである。 当時より初回登録件数が減少し、登録総件数の減少も緩やかになっている今回の2011.8〜2012.8の間の、きわめて大雑把な数字では、ISO9001の登録総件数の減少は年率で2%、新規登録は8%、登録放棄はバブル崩壊による5%とお試し登録による5%の合計10%と推定することができる。バブル崩壊は緩やかで、それだけなら登録総件数は毎年3%ずつ増えていく勘定だが、旺盛な新規登録の直後脱落があまりに多くて新規登録がそのままは登録件数増に結びついていないのである。
 


   
  お試し登録現象と認証バブル崩壊とを合わせると、初回登録件数は3年後に約40%に減り、10年後には約25%まで減り、大体この水準で残るものと推定される。ISO14001については調査していないが、どちらも認証制度開始から13年後に総登録件数がピークに達するなどISO9001の登録件数推移曲線が似ているから、ISO14001登録件数の減少と登録放棄の傾向もISO9001の後を追うことになると推定される。
 
   
4. 認証制度に対する利用者の不満
  お試し登録と揶揄されても、実際は組織がちょっと試しにという気持ちで新規認証を取得したということではない。認証機関が認証費用を割引きしている訳でもなく、組織は社員を動員し、相当なコンサルティングと審査登録費用を支払っている。お試し登録に終わってしまうのは、“構築”し“運用”した“品質マネジメントシステムという仕組み”が組織にとってはそれほどまでに無益であるだけでなく、“運用”の負荷という点で組織に有害であると受けとめられているからである。
 
  お試し登録的な新規認証組織(認証業界の顧客)の早期脱落は、組織が認証制度に対して明確にノーと言っていることになる。それでも登録を維持する組織があるのは顧客からの明確な認証取得要求を受けているからである。この事情は、コンサルティング機関である三菱UFJリサーチ&コンサルティングのアンケート調査*4で、認証取得組織の25%が取引先の要求がなければやめたいと答えたことと軌を一にしている。認証業界はその顧客に価値を提供出来ていない。
 
 
5. 認証業界の矜持
  JAB統計に現れた統計上のお試し登録が事実であれば、認証機関がこの傾向を認識していないはずはない。あるいは、組織が登録取得だけを目的とし、規格の“要求”するように“構築したシステム”を“運用”しないから効用が感じられないのだと組織に原因を転嫁して座視しているのだろうか。また、認証機関にとって組織は顧客ではなく、このような登録が目的だけの組織が脱落していくような審査こそが社会制度たる認証制度であると胸を張るかもしれない。
 
  しかしお試し登録には、組織が登録放棄と同時に“構築したシステム”をも捨て去っても組織の日常業務の結果や業績に何の不都合も生じないというような“システム”をコンサルタントが”構築”し、審査員がその“運用”を強制しているという事実が伴っている。 バブル崩壊による登録件数減少は、棚ぼたの認証需要にありつくだけで、認証の新たな必要性を創造してこなかった認証業界の怠慢の結果に過ぎないが、お試し登録現象は、登録件数が増えないという事業収益上の問題であるだけでなく、認証機関の矜持に係わる深刻な問題であるはずだ。これでは認証業界は、何の効用もなく負担ばかりで組織に有害であり、いらないと言われている認識登録という製品を、組織の顧客の威を借りて押しつけ販売していることにもなるからである。
 
 
6. 不都合な真実
  JABは9月からウェブサイトの適合組織統計を一新し、登録総件数の推移グラフをやめた他、上記の解析を行うことを可能としていた詳細情報も解析可能な形での情報提供もやめてしまった。そして、統計は認証機関の提供データに基づくので時間差のため実際とは差があると掲載統計データの不確かさをわざわざ断っている。今後は上記のような解析もできないから、認証機関やコンサルタントが市場の動静や意図を解析して読み取ることもできなくなった。
 
  ついこの前の認証の信頼性向上活動では認証機関や登録取得組織に情報公開を義務づけたJABが、この時期に適合組織統計を敢えて簡略化し不確かなものに転換する正当な理由を思いつくのは難しい。統計に現れる不都合な真実の隠蔽が意図であるとすると、認証制度の存続発展に不可欠な存在である登録取得組織から突きつけられた明確なノーに対して、あくまでも知らないふりをするということだ。
 
 
*1 JAB:ウェブサイト、適合組織統計(オムニ コンサルタントネットワーク月報より)
*2 認証業界よもやま話 No.97: 認証業界、天気晴朗のようでも波高し−認証バブル崩壊真っ只中(H23.9.7)
*3 認証業界よもやま話 No.77: 縮みゆく認証バブル (H21.11.9)
*4 三菱UFJリサーチ&コンサルティング:アンケート調査、2010.10.22
H24.12.15 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所