ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
105       認証登録件数低減の歯止めになるか
                         経産省のマネジメントシステム規格活用モデル事業
<62d-01-105>
0. 要約   こちら
 
 
1. 経産省のモデル事業公募
  経産省の「マネジメントシステム規格とその活用による事業競争力強化モデル事業」の公募が4/4〜4/19の間行われた。これはISOマネジメントシステム規格を企業の国際競争力強化に活用することを検討するために昨12月、経産省が傘下の日本工業標準調査会に設置させた「事業競争力ワーキンググループ」の検討の中間とりまとめとしての施策である。明言はされてはいないが設立趣意説明資料から、低迷するISOマネジメントシステム規格の認証登録に対する経産省による梃子入れの側面があることが伺われる。この予算の3億円の行方もそうだが、将来の登録増加への期待から認証業界からは秘めやかでしかし熱い視線が送られている。ISOマネジメントシステム規格は社会が期待するようには役に立たないと言ってきたJABが今年3月のマネジメントシステムシンポジウムでは「組織力を強化するISO9001改定」をテーマのひとつとしたのも全くは偶然ではないのだろう。西洋流の規格や認証制度は元々役立つものではなく組織や社会の期待が間違っているとしてきたJABが、いや役に立つのだ、役に立つものとしようというのだから正に路線の大転換である。
 
2. モデル事業の論理
  しかし、このモデル事業で規格と認証制度が組織や社会に役立つことが実証されることは万に一の可能性もない。なぜなら現に役立たないと自他ともに認めるものを、どのようにすれば役に立たせることができるのかの、確かな考え方も方策も示されていないからである。中間とりまとめでは、これに関連して「マネジメントシステムを活用した我が国企業等組織が事業競争力を強化するための方策を検討するに当たり、企業等組織本来の経営課題解決のための有力なツールとしてマネジメントシステムの活用がなされることが望ましいと位置付けた」ものであり、従来の「ISOそのものを活動目的として位置づける」からこのモデル事業では「ISOを課題解決ツールのひとつとして位置づける」ことに変えたという考え方が付図に表されている。
 
  これは想像するに、マネジメントシステム規格を「マネジメントシステム」という名前のISO独特の現場主体の改善活動の仕組みと受け止め、その活動を経営課題解決に活用することで事業競争力を図らんとするもののようである。しかし、これは「マネジメント」が日本語では「経営管理」であり、「〜しなければならない」との規定は効果的な経営管理であるための必要条件であるという規格の基本から離れた誤った規格解釈にどっぷり浸かった実体のない論理であり、これまでも規格が役立たない理由や、どうすればよいかの提案の中で何度も唱えられてきたことと同じである。経営者や管理者の業務実行の指針又は規範である規格の規定を現場主体の改善活動に適用しても、不必要な業務の形式が持ち込まれるだけで、改善目標の達成に寄与するところは何もない。このことは認証取得組織が現に経験していることであり、規格が役に立たないとの不満の背景である。改善テーマを経営に役立つものに変えるというのは、往年の日本製造業の卓越した品質競争力をQCサークル活動のお陰とする浅薄な認識を背景にしているのだろうが、事業競争力の強化が現場主体の改善活動で実現するなら誰でも経営者になれるということである。
 
3. ISOマネジメントシステム規格の目的と論理
  組織が品質保証、環境保全など様々な観点から事業の維持発展に必要な事業競争力の強化を図らんとするならば、それぞれのISOマネジメントシステム規格の「〜しなければならない」に従って経営管理を行えばよい。各規格はそれぞれの時代を背景に組織が生き残りのために事業競争力を涵養、強化するために重要な観点の経営管理活動の指針として作成されてきた。どのISOマネジメントシステム規格の目的も事業の維持発展であり、そのために取り組むことが必要な経営課題を体系的に抽出し、確実に解決し、これを繰り返しつつ、必要な業績をあげる経営管理の能力、つまり、事業競争力の継続的な強化を図るという経営管理のあり方を規定している。規格には方法論は一切規定されていないが、経営課題への取り組みとは一般に、ヒト・カネ・モノの投入、或いは、設備投資、人材投資、技術開発や商品開発などの経営上の施策であることに違いない。この施策が真に効果的であるために一般従業員の参画意識が必要であるとする嘗ての日本的人間重視経営のひとつの手法が現場中心の改善活動である。
 
4. モデル事業の行く末
  これまで失敗してきたことを新たな言葉で装い、昔の成功体験の本質を見誤った論理と方法の事業競争力強化モデル事業がうまくいかないことは目に見えるように明らかである。このモデル事業が日本経済の復活の引き金となるのは夢の夢である。しかし、このモデル事業が所期の成果を達成することになるのも確実である。国家プロジェクトには失敗がないのが通例であるからである。特にこのモデル事業は期間が1年であり、競争力が向上したという実績は示すことはできないから、その道を付けたというところで終わる。
 
  問題はその後のことであるが、新たなモデル事業をもう1年となるか、同様のISOマネジメントシステム規格の活用取り組み推進のための補助金制度を始めるか、或いは、モデル事業で道を付けたので後は民間でどうぞご随意にとなるかであり、米国並みに事業継続性改善取り組みの法制化に向かうことにはなるまい。どう展開するかはアベノミクス次第であろう。1年後も産業競争力強化の口実が健在なら取り組みの継続や拡大が期待できる。アベノミクスの化けの皮がはがれておれば没になる。いずれにせよ、ISOマネジメントシステム規格と認証制度が見直されて社会の信頼が高まり、組織が登録取得に利益を実感して、登録件数が再び増え始めるというようなことにはならない。
 
5. モデル事業の本質
  「事業競争力ワーキンググループ」の設立が上部機関の会議を省略した書面審査であたふたと決められ、グループ発足後は事例発表を含む4時間の会議を3回開いただけで4回目には中間とりまとめ案の提示があり、多数の組織の共同活動であるモデル事業の公募期間もわずか15日である。この経過からは、モデル事業がアベノミクスの産業競争力強化に名を借りて10兆円の補正予算のお裾分けにありつくお役人の口実であり、予算獲得時にすべての筋書が決まっていたものと推察される。勧進元にはこれで何年食べていけるか、どのように権限を強めるが大切であって、モデル事業の成否自体はどうでもよい。だからこそ「マネジメントシステムを経営課題解決のための有力なツールとして活用する」というような空虚な言辞を弄して平気なのだろう。モデル事業をまじめに論評する方がおかしいのであり、成果に期待する認証業界もおかしい。
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サニーヒルズ コンサルタント事務所