ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
05 ISO14001:2015 間違った解釈  ―  誤訳・空論・珍説
環境影響を伴わない緊急事態への対応が必要か?
      (6.1.1項)
     
<65-01-05>
0.1 要約  こちら
 
0.2  実務の視点和訳 ⇔ JIS規格用語 対応:  
   環境経営(活動) ⇔ 環境マネジメント$19-0-1
 
環境経営体制 ⇔ 環境マネジメントシステム$19-1-3;
  環境影響が生じる ⇔ 環境影響を与える



(1) 環境影響を伴わない緊急事態

  2017JEMAS認証セミナーにおける齋藤喜孝氏の講演資料*1を入手した。この中の「2015年版規格で気にしているところ」としてとり上げられている6.1.1項の「環境影響を伴わない緊急事態」の特定と対応が必要になったという説明と、そのひとつの例として「情報の流出の発生」が挙げられていることが腑に落ちない。
 
  なぜなら、ISO14001規格は、組織がその事業活動に起因する環境影響の低減に体系的、継続的に取り組むための要件を規定しているものであるから、それが定常的事業活動であれ、緊急事態であれ、「環境影響に関係しない」事項への取組みが規定されることはあり得ないからである。実際、この6.1.1項(リスク及び機会への取組み 一般)の規定は、下記の通りであり、このことからISO/TC207日本代表委員の吉田氏らはその著書*2において、「緊急事態の対象は、環境マネジメントシステムで対処すべき緊急事態の限る」と解説している。規格の目的と規定の性格からは「環境影響を伴わない緊急事態」への対応の必要が規定されるはずはないのである。
 
● 組織は、環境マネジメントシステムの適用範囲の中で、環境影響を与える可能性のあるものを含め、潜在的な緊急事態を決定しなければならない  <15年版6.1.1項(JIS和訳条文)>
 
 
(2) 緊急事態への準備及び対応の趣旨
  組織が事業起因の環境影響の低減責任を果たすためには、通常の事業活動において生じる環境影響を管理するための手順と体制を整えるだけでは十分ではなく、異常な環境影響が生じる可能性のある、まさかの状態や出来事にも備えておき、実際に起きた時には生じる異常な環境影響を最小限に抑えるように状態や出来事に対処しなければならない。これが規格の04年版4.4.7項/15年版8.2項の「緊急事態への準備及び対応」の規定の趣旨と意図である。
 
  04年版規格では、異常な環境影響が生じる可能性のある、まさかの状態を『緊急事態』、それに起因して又は関連して起きる、まさかの出来事を『事故』、“まさか”であることを『潜在的な』と表現し、問題が組織の管理基準を逸脱する異常な環境影響が生じることであることをJIS和訳『環境影響を与える可能性のある』という表現で明確にしている。
 
  ここに、『緊急事態』は地震や台風に襲われ、或いは、火災が発生し又は交通事故に巻き込まれて、通常には見られない異常な環境影響を生じる可能性が高まる状態であり、『事故』は可燃物の爆発や工場内配管損傷やタンクローリの路上転倒など異常な環境影響を実際に生じさせる出来事である。『緊急事態』を原因として『事故』が起き、『事故』の結果の煤塵の大気放散、石油の流出などによって環境に悪影響が生じる
 
  『緊急事態』や『事故』が実際に起きた時に、生じる異常な環境影響を食い止めて可能な最小限に抑える活動が『緊急事態への対応』であり、そのために必要な手順を決め必要な資源を用意し、仮想訓練をしておくことが『緊急事態への準備』であり、組織が環境責任を果たすためにどのような『緊急事態』や『事故』に対応することが必要かを決める経営判断が『緊急事態』や『事故』の『特定』である。
 
   
(3) 緊急事態への準備及び対応 規定の変化
@ 04年版の規定

  上記(2)の環境経営上のまさかの状態や出来事の特定について、4.4.7項(緊急事態への準備及び対応)では英文で読むと下記のように規定されていた。すなわち、組織が特定し対応しなければならないのは『緊急事態』と『事故』であり、どのような『緊急事態』『事故』かを『環境に影響を生じる可能性のある』、及び、「起き得る」という意味での『潜在的な』という2つの条件を付けて明確に表している。04年版では「環境影響を伴わない緊急事態」の概念がなかったことは、規定条文からも明らかである。
 
● 組織は環境に影響を生じる可能性のある潜在的な緊急事態及び潜在的な事故を特定するための……..手順を確立し、実施し、維持すること <04年版4.4.7項(実務の視点和訳条文)>
 
 
A 15年版の規定
  15年版の6.1.1項は英文で読むと、下記の通りであり、準備、対応すべきは「環境経営体制の範囲内の潜在的な『緊急事態』」と表され、この『緊急事態』に『環境影響を生じる可能性のあるもの』が含まれるとの注釈が付されていることになる。
 
● 組織は、環境経営体制の範囲内での潜在的な緊急事態を特定しなければならない。これには環境影響を生じる可能性のあるものを含む   <15年版6.1.1項(実務の視点和訳条文)>。
 
  この条文からは、『緊急事態』が環境経営上の緊急事態であって、04年版から変わっていないことがが明らかである。また、齋藤氏の解釈の「環境影響を伴わない緊急事態」という文面はどこにも存在しない。条文を読むと『環境影響を生じる可能性のある緊急事態』というのは、『環境影響を生じる緊急事態』の対語であることが容易に思いつく。
 
  要するに15年版の規定では、04年版の『緊急事態』と、それに起因し異常な環境影響を生じさせる原因となる04年版の『事故』とを合わせて『緊急事態』と表現することになったということである。この結果、15年版の『緊急事態』が、04年版の『緊急事態』と『事故』を合わせた概念であることを明確にするためにわざわざ、15年版の「緊急事態の準備及び対応」には、実際に緊急事態が生じて出してはならない環境影響を出してしまったような場合の対応だけでなく、緊急事態が生じて出してはならない環境影響を出す可能性がある場合にこれを予防する対応も含めなければならないという表現にしたのである。
 
  すなわち、「『環境影響を生じる可能性のある』『緊急事態』が含まれる」との注釈は、台風による工場内配管の損傷『事故』で石油が漏出して環境影響を生じている状態の『緊急事態』、つまり04年版表現では『事故』に対する備えをし石油の工場外への漏出防止の対応をするだけでなく、台風によるそのような事故の起きないような設備対策をとり、また、台風が接近しつつあり、工場内配管の損傷『事故』が起きて石油が漏出して『環境影響を生じる可能性』の見込まれる『緊急事態』、つまり04年版表現の『緊急事態』に対しても損傷防止の補助梁や柱の仮工事資材を用意しておき、進路予報に応じて設置工事をしなければならないということを明らかにするための規定表現である。
 
  04年版表現で問題のなかったのを15年版でこんなややこしい表現にしたのかはわからないが、改訂版毎に改訂の狙いとされる箇所だけでなく規定条文がほとんど全面的に書き換えられるという現実がある。ISO14001に限らずISO9001でも定期的に行われる改訂が規定表現を変えることが目的の口実にされているかの現実を反映した規定条文変更であると考えると合点がいく。
 
 
(5) 文字面解釈
  齋藤氏の「環境影響を伴わない緊急事態が必要になった」との解説においては、04年版の「緊急事態への準備及び対応」に関する規格の論理や規定の趣旨と意図にどのような変更があったのか、なぜ変更されたかの説明がない。想像するに、6.1.1項の上記の「『環境影響を生じる可能性のあるもの』を含め」との文言から、『環境影響を生じる可能性のあるもの』以外を『環境影響を生じる可能性のないもの』であると解釈し、組織が特定しなければならない『潜在的な緊急事態』には『環境影響を生じる可能性のあるもの』と『環境影響を生じる可能性のないもの』つまり「環境影響を伴わない緊急事態」とがあると考えられたものかも知れない。
 
  同氏が、このような根拠のない、しかし重大な意味をもつ解釈を、JAB認定の認証機関たるAUDIX Registrars社長という名の下に 発表することは軽率の誹りを免れない。この解釈が同認証機関の行う認証審査で適用されることに対してJABがどのような判断をするのだろうか。

 
*1: 齋藤喜孝:ISO14001:2015っc改訂に求められる本質と具体的な企業の対応、20171028JEMASセミナー
*2: 吉田敬史他:ISO14001:2015新旧規格の対照と解説、日本規格協会、2015.11.20
H29.12.16(修H30.6.24) 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所