ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
06 ISO9001/ISO14001:2015 間違った解 ―  誤訳・空論・珍説
「利害関係者」に従業員は含まれるか?
<65-01-06>

0.1 要約  こちら
 
0.2  実務の視点和訳 ⇔ JIS規格用語 対応:  
   
環境経営(活動) ⇔ 環境マネジメント$19-0-1;  製品サービス ⇔ 製品及びサービス$92;
    品質経営体制 ⇔
品質マネジメントシステム
$19-1-1;

 
 
(1) 規格解釈における利害関係者の範囲
 上位構造・共通テキスト (SL)に則って書かれてISO9001/14001の両規格では、4.2項で「利害関係者のニーズと期待の特定」の規定があり、従業員を含み広い範囲の利害関係者が対象になるとする規格解釈が一般に行われている。とりわけISO9001では国内委員会委員長中條武志氏らが、顧客満足追求を狙いとする規格における利害関係者として、狙いの顧客満足の状態に関係する顧客と、製品サービスに係わる法規制遵守の観点からの規制当局という08年版の概念の利害関係者を大幅に超えて、従業員や供給者、流通業者、事業所近隣住民、更には、税務署、労働基準局をも含む広範囲な利害関係者が対象になるとする解説書*1を発行しており、同様の解釈をする解説が少なくない。それら解説のほとんどでは「利害関係者」には従業員が含まれるとされており、このような解釈は04年版でも「利害関係者」という概念も用語も存在していたISO14001の15年版の解説でも少なくない。
 
 
(2) 利害関係者の特質と従業員
  ここに「利害関係」とは「利害が相互に影響し合う間柄の関係」である*2から、「利害関係者」とは相互に独立した主体であり、相互に独立して判断や決定が出来、行動できる間柄にある。規格の場合は「組織の決定や活動が影響を及ぼす相手、及び、組織の方が影響を受ける相手のこと」を指す*3*4から、「組織」を当事者として、これと影響を相互に及ぼし合う組織から独立した相手が「利害関係者」である。
 
  しかしながら、従業員は組織の一員であり、組織に雇用され、組織の顧客満足追求(ISO9001)や事業活動起因環境影響の低減(ISO14001)の活動に関して組織に従属して業務を行う者である。従業員はその業務実行に関しては組織から独立したものではなく、組織と一体となって組織の外部の利害関係者と影響を及ぼし合っている。組織の事業活動において従業員と組織とは「利害が相互に影響し合う間柄の関係」ではないから、従業員を組織の「利害関係者」と見做すことは正しくない。
 
 
(3) 規格の意図の利害関係者
  一方、組織がどのように顧客満足追求や事業活動起因環境影響の低減を図ろうとするのかによって従業員の業務の厳しさは変わるし、また、組織のそれらの経営目標の達成の程度は、従業員が業務をどの程度に効果的に実行できるか、実行したかによって変わるから、このような組織経営の観点からは組織が当事者として従業員は「利害関係者」である。しかしこの両者の利害は、従業員の労働提供条件と組織の対価支払いに関するものであるから、実務的には労働問題であり、労働契約により調整される利害関係である。顧客満足追求/事業活動起因環境影響の低減に関する規格であるISO9001/ISO14001で特定しなければならないのは、「品質経営体制/環境経営体制に密接に関連する利害関係者」だけである(4.2項)から、労働問題に係わる利害関係者の特定は規格4.2項の意図ではない。
 
  同様に、中條武志氏ら*1が例として挙げている「利害関係者」としての従業員及びそのニーズと期待としての労働安全衛生の確保は、従業員の意欲ある業務実行(7.3項)に期待して組織が整備しなければならない作業環境(7.1.4項)に関し、顧客満足の追求とは直接には関係ない。拠ってそれらの特定が規格4.2項の意図であるとは考えられない。
規格では「利害関係者」の例としてISO9001では「顧客、所有者、組織内の人々、供給者、銀行家、規制当局、組合、パートナー、社会(競争相手又は対立する圧力団体を含むことがある)」を*3、ISO14001では「顧客、コミュニティ、供給者、規制当局、非政府組織(NGO)、投資家、従業員」を挙げている*4。つまり、どちらの規格でも従業員が「利害関係者」になる場合があり得るということであろう。
 
  しかしもし従業員が規格の意図の「利害関係者」になるとすれば、組織が従業員の何らかのニーズと期待満たすことによって組織の狙いの顧客満足の状態/狙いの環境影響の低減が実現する或いは実現に必要というような場合であり、同時に、上記(2)の利害関係者の特質に鑑みて、そのニーズと期待は従業員が組織から独立して決定し行動できる特定の事項に関するものであるという場合である。そのような場合の具体例はにわかには思い浮かばないが、規格でも具体例を示していない。
 
 
(4) 目的に照らしての利害関係者の特定の論議
  問題は何のために利害関係者のニーズと期待を特定するのかである。それが組織の狙いの顧客満足の状態/狙いの環境影響の低減に関係するのなら、その変化に気付かず放置してそれら狙いが実現しないという経営管理上の不都合を防ぐために、それらの変化の情報を日常的に収集し(4.2項)、マネジメントレビュー(9.3.2 b)/9.3 b)1),2)項)で分析してその変化に対応して経営戦略の変更の必要性を判断し、必要な経営施策(6.1.1項)を決定して(9.3.3/9.3項)、それらを品質/環境方針(5.2項)、目標の変更や設定(6.2項)に反映させて、それら経営施策を実施しなければならない。規格は、組織がそのような利害関係者のニーズと期待を特定しなければならないと言っているのであり、そのような利害関係者やそのニーズと期待があるのかどうかの議論が利害関係者に従業員が含まれるかどうかの議論に先立つべきなのである。
 
 
*1: 中條武志他: ISO9001:2015(JISQ9001:2015)要求事項の解説、日本規格協会、
*2: 新村 出: 広辞苑、岩波書店、昭61.10.6
*3: 定義「利害関係者」: ISO9000:2015, 3.2.3
*4: 定義「利害関係者」: ISO14001:2015, 3.1.6
H30.1.13
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