ISO9001/ISO14001
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論評
             実務の視点  ISO マネジメントシステム規格  論評 
このセクションでは、 MS 実務の視点主宰者が、ISOマネジメントシステム規格と認証制度を取巻く種々の問題を取上げ、
実務の視点に立っての見方、考え方を披露します。
目  次
ISO9001/14001
2015年版
誤訳・空論・珍説
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

組織の取組み
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

規格理解・規格解釈
ISOマネジメントシステム
取組みの疑問と正解

認証制度と運営
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と 規格



5 日本のISO規格取組みの疑問と正解
ISO9001/14001:2015 解釈:   誤訳・空論・珍説
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規格の意図に沿わない条文誤訳、規定解釈、規格解説をとり上げ、実務の視点で正します。
   目 次

03. JABの驚愕の「顧客満足」新見解、規格解釈正常化への瀬踏みか                 
02. 審査でのトップマネジメントによるマネジメントシステムの有効性の説明責任      
01. ISO9001、14001解説書は、日本では“工学書”                                        
(H29.2.12)
(H28.12.13)
(H28.10.15)

 03.  JABの驚愕の「顧客満足」新見解、規格解釈正常化への瀬踏みか
(1) 品質改善の規格という誤解
  日本では品質保証の概念の理解が希薄で、ISO9001は日本のTQCの欧米版としての不良をなくするための品質改善の規格であり、品質マネジメントとは、そのためのISO規格特有の「方針及び目標を定め、その目標を達成する」ための方法論であり、JIS和訳「品質マネジメントシステム」はその実行の仕組みと受けとめられてきた。このため、00年版以降も品質目標は製品品質改善活動の目標とみなされ、品質改善への取組みが認証審査の重要なポイントであり、一方で、顧客満足については、顧客の要求を満たすことだとされ、顧客要求をかろうじて達成した状態でよいとされ、認証審査では「顧客満足調査をしているか」という程度で済まされてきた。更に、改善についても、規格の要求は製品の改善ではなく仕組みの改善のみであり、それも改善と呼べるような活動をやめなければよいと解釈されてきた。
 
  このような規格解釈に依拠する規格取組みの実態は、組織の実務の必要と無関係な形式的活動を認証審査のために行なう形となり、規格と認証制度への組織の不満と不評の評価が社会に確立した。しかし、15年版解釈でも品質目標が品質改善活動の目標であるとの解釈を前提として、パフォーマンス重視とか、活動を組織の戦略に合わせなければならないとか、トップマネジメントのリーダーシップ強化というような説明が行なわれ、顧客満足の意味や意義に触れないまま、一層の顧客重視というようなお題目が唱えられている。
 
(2) 「顧客満足」に関連する新見解
  このような情勢において、最近入手した資料*1によるとJAB理事長飯塚悦功氏は、「15年版改訂の“こころ”に応える」と題する講演の中で、組織の存続発展に必要な顧客満足を追求するというISO9001規格の趣旨に合致し、従ってこれまでとは全く異なる概念と規格の趣旨に係わる新見解を表明した模様である。すなわち、
 
(1) マネジメント = 経営。 品質マネジメント = 品質経営。
(2) QMSの目的 = 顧客満足の追求。事業目的としての持続的顧客価値の提供。
(3) QMSの意図した成果 = 顧客満足の実現、その結果としての売上増、利益向上。
(4) QMSにおける品質 = 製品を通じて顧客に提供した価値に対する顧客の評価。 顧客満足。
(5) 製品品質の追求(品質改善) = 製品の競争力の向上。
 
  ISO9001は、94年版までは米国防省規格MIL-Q-9858から続く不良品を出さないという品質保証の規格であったが、00年版で不良品のないことを含む顧客満足という品質を保証するための規格に発展した**1。すなわち、15年版を含む以降のISO9001は、組織の永続的な存続発展を図るために必要な顧客満足の状態の実現を図る組織のJIS和訳「品質マネジメント」、つまり、「品質経営」の在り方を規定するものとなっている。このようなISO9001の性格の変化は、初版や94年版作成の時代は日本の輸出企業が不良のない製品で欧米企業を圧倒した時代であり、製品が売れるか売れないかは不良があるかないかで決まっていたのが、00年版作成時期には世界的に不良のないことは当たり前になり、顧客が製品に如何に高い魅力を感じるかが売れ行きを左右する時代になっていたことを背景としている。
 
  規格の顧客満足**2の定義「顧客の期待が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」は、この時代に発展したJIS和訳「顧客重視」つまり顧客本位のマーケティング論**3の製品を売るために組織が追求すべき「顧客満足」の概念に基づく表現であり、上記見解の中の「顧客価値の提供」も同じマーケティング論の用語である。
 
(3) トップリーダーの大変身
  上記の新見解は、筆者の"MS実務の視点"の規格理解に合致し、規格の意図の通りであって正しい。しかし、わずか4年前の同氏最後のJAB公開討論会においてさえ、例えば(1)の「マネジメント」の「経営」は「目的達成のための固有技術を使う方法論」、 (2)の「QMSの目的」の「顧客満足の追求或いは持続的顧客価値の提供」は「顧客の要求に適合する製品の提供」、 (3)の「その意図した成果」の「顧客満足の実現、その結果としての売上増、 (4)の利益向上」は「品質保証+α(顧客満足、継続的改善)」と、それぞれ説明されていたから、新見解は同氏が驚愕の変心を成し遂げたということを意味する。 もっとも、同氏は認証の信頼性低下対応を語る一連の講演の中で2010年頃から少しずつ説明を変えてきており、その集大成を短く、明瞭な表現で表したために変化が際立ったとも考えられる。いずれにせよ、これに基づく正しい規格新解釈に依拠して規格取組みを行なえば、組織は規格の意図の効用を享受でき、認証制度が正しく機能する道が開けることにもなるが、その新しい規格解釈はこれまで一貫して同氏がリードしてきた上記の日本流の解釈を根底から揺るがすものとなる。
 
(4) 説明責任
  同氏が誤った規格解釈を正すことは悪いことではないが、講演会資料にこれまでの一連の見解や規格解釈をなぜ変えたのかの説明がない。そればかりか、15年版のQMSの性格(目的、適用範囲)は変わっていないという前置きに続けてこの新見解が説明されているから、この見解は以前と変わっていないと言いたいのかもしれない。合点のいかないのは、このような新見解が営利目的の一研修機関の有料講演会の少数の参加者にだけ説明されたことである。また、認証審査の在り方を決めるJAB理事長でありながら、15年版改訂の“こころ”として披瀝した新見解を、認証審査にどのように反映させていくのかの説明も資料にはない。同氏がISO9001の“こころ”を一貫してこのように理解してきたという証をひっそりと残しておくことが狙いかもしれない。しかし、同氏がこれまで規格解釈と認証制度を権威主義的にリードしてきて、なおその頂点に君臨し、その言動が何万もの認証組織や関係者の規格取組みに大きな影響を及ぼす立場にあるとすれば、この大変心には“説明責任”が不可欠である。
 
*1: 第23回テクノファ年次フォーラム、2016.12.19
*2: 第18回JAB/ISO9001公開討論会、2012.3.13
 
**1, **2, **3: 解説書「実務の視点ISO9001 2015年版解説」  論理と用語編、 §1, §10, §40 (こちら)
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02. 審査でのトップマネジメントによるマネジメントシステムの有効性の説明責任
(1) トップマネジメントの説明責任
   JABは、認証機関に示した2015年版ISO9001の認証審査の指針*1の中で、トップマネジメントがQMSの有効性の説明責任(accountability)を負うという規定(5.1.1 a)項)を審査で注目すべき変化点のひとつに挙げ、審査ではQMSが有効かどうかをトップマネジメントが説明できるかどうかを確認しなければならないとしている。
 
  この日本語の「説明責任」とは、不祥事を疑われる政治家に対してその潔白性を事実の証拠を以て国民に説明するよう求める場合にメディアが近年好んで用いる言葉である。英語“accountability”の訳語としてのこのような「説明責任」の解釈が適切ではなく、与えられた権限を行使して役割を果すことが主意であり、失敗したり不正を働いた場合にはその責任の所在を明らかにすることであるとする議論も少なくない。しかしいずれにせよ、日本語の「説明責任」は、責任を果せなかった人が、その責任を付与した人々に問題を正直に説明するということを意味する。
 
  JIS規格書巻末の解説でも、規定の「説明責任」には「トップマネジメントがQMSの有効性に対して責任を負っていることの説明という意味と、有効性がこのようなった理由を納得されるように説明するという意味の両方が含まれる」と言っているから、結局は、QMSが有効でない場合にその理由を説明しなければならないということだ。
 
  従ってJAB指針による審査では、トップマネジメントは審査員に「QMSの意図した結果とは何ですか」「それは達成していますか」と聞かれ、達成していないなら、なぜ達成しなかったのかを審査員に釈明しなければならないことになる。
 
(2) 実務におけるQMSの有効性
  翻ってISO9001は、顧客のニーズと期待及び法規制を満たす製品サービスを一貫して提供し、顧客満足の向上を目指す組織に対する指針である。QMSが有効かどうかとは、「意図した結果を達成している」かどうかということであり、狙いの顧客満足の状態が実現しているかどうかということである。実務では、組織はその存続発展のためには一定の収益をあげることが必要であり、そのためには一定の売上をあげる必要があり、その売上を確保するためにはそれ相当に顧客には組織と製品サービスの品質に対する好感、満足感、安心感を抱いてもらわなければならない。「QMSの意図した結果」とはこのような狙いの顧客満足の状態のことであり、不良品を出さないことを基本に顧客のニーズと期待を斟酌し、こうなれば顧客にこれだけは買ってもらえる、取引をしてもらえるとして、品質方針に明らかにした狙いの顧客満足の状態のことである。
 
  この狙いの顧客満足の状態が実現していないということは、必要な売上が得られず、必要な収益があがっていないことを意味するから、実務では「意図した結果を達成していない」状態はあってはならないことである。審査員にQMSがなぜ有効でなかったのかをうまく説明して、「説明責任」を果たしたと認められても、組織の事業が成り行かなくなったのだから、トップマネジメントは株主から糾弾され、辞任に追い込まれることにもなる。
 
(3) 「説明責任」は誤訳
  規格の英語“accountability”は、“responsibility”が責任を引き受けるという意味の「責任」であるのに対して、責任を果すという意味の「責任」であり、“taking accountability”は「責任を全うする」という意味である。すなわち、規定の意図は、トップマネジメントはQMSの有効性に対する責任を全うしなければならないということであり、「説明責任」を求められるような状態をつくってはならないということである。
 
  もっとも、審査員の規格解釈では「意図した結果を達成している」かどうかは、現場の品質改善活動の目標としての品質目標が達成されたかどうかということとしての審査員とトップマネジメントの問答となると思われる。トップマネジメントは認証ゲームの一場面として楽しめばよい。
 
*1:JAB認定センター、ISO/FDIS9001認証審査における考え方、2015.7.14, 23

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01. ISO9001、14001解説書は、日本では“工学書”     
(1) 著者の認識
 世にある数多くのISO9001、14001解説書について、英米の著者は“経営書”と認識しているが、日本の大多数の著者は“工学書”と認識しているようである。これは、英米人が規格用語「management」を、その言葉(英語)の意味の通り、「経営管理」と理解しているのに、日本人はJISが “マネジメント”と和訳し、その定義の文字面解釈により、現場中心の品質、環境改善活動を頭に描いた「方針、目標を定め、その目標を達成する活動」と誤解しているという実態の反映であろう。
 
(2) アマゾンで販売の和書の分類
  例えば、ネット書店の大手であるアマゾンでは、出品者に書籍の「ジャンル分類」を義務づけており、27の大分類とそれぞれの中、小分類を定めている。日本で最も著名なISO9001,14001解説書は、規格の改訂版ごとに、当該の改訂版作成に係わった国内委員会の委員長等が執筆し、規格協会が発行する、標題「規格要求事項の解説」と「新旧規格の対照と解説」という書籍である。これら解説書は、著者が規格の真意を最も正しく伝えていると主張し、一般に最も権威があると見做されているが、アマゾンではいずれも大分類「科学・テクノロジー」-中分類「工学」-小分類「工業規格」に分類されている。すなわち、著者やその代表する国内委員会やその解釈に依存するJABは、両マネジメントシステム規格の解説書を品質、環境改善の手法に関する“工学書”と認識している。
  
  アマゾンでは、これらを含めてそれぞれ凡そ110件と55件のISO9001と14001の解説書が販売されているが、その85%と68%の著者はその著作を“工学書”としての「工学規格」に分類している。また、12%と28%の著者は、同じ中分類「工学」の中の小分類「経営工学」と大分類「ビジネス・経済」-中分類「ビジネス実用」に分類し、工学的管理手法に関する実用工学書と認識している。わずか3%と4%の著者だけが、大分類「ビジネス・経済」-中分類「マネジメント・人材管理」及び「経営戦略」に分類して、“経営書”と認識している。すなわち、アマゾンに出品の解説書の日本人著者の大多数が、上記の権威者に倣ってか、或いは、「工学規格」という見掛け上恰好の中分類が存在するためか、“工学書”と認識し、また、“実用工学書”と認識する著者もいるというのが実態である。
 
(3) アマゾンで販売の洋書の分類
  
しかし、同じアマゾンでは、「洋書」としてのISO9001とISO14001の解説書が、それぞれ、凡そ360件と65件が販売されている。「洋書」の「ジャンル分類」は上記の「和書」とは異なるが、ISO9001とISO14001の解説書のそれぞれ70%と95%が、大分類「専門書・技術書」と「ビジネス・投資」の両方にそれぞれ含まれる中分類「経営及びリーダーシップ」に分類されている。ISO9001解説書の残り28%は中分類「品質管理」を中心とする管理手法の“実用工学書”に分類されている。すなわち、英米人の著者の圧倒的多数がその著作の解説書を“経営書”と認識し、“実用工学書”と認識する著者もいるというのが実態であり、“工学書”か“経営書”かでは、日本人の認識と完全に逆である。
  
(4) 日本書籍総目録へ登録書籍の分類
  
さらに、日本書籍出版協会が運営するデータベース日本書籍総目録には日本で発行された書籍が出版社からの登録により記載されているが、各書籍の説明ページには国際標準図書番号(ISBN)と合わせて日本図書コードの図書分類がC-CODEとして表示されている。この総目録には、それぞれ94件、63件のISO9001、14001の解説書が登録されている。その60%と35%が、大分類「工学・工業」-小分類「工学工業総記」に分類されており、また、それぞれ20%と45%が、大分類「社会科学」-中分類「経営」に分類されている。さらに、その他が2%と12%であり、分類コードなしが18%と8%である。すなわち、日本書籍総目録でも、ISO9001解説書の日本人著者の大多数は“工学書”を書いたと認識しており、ISO14001解説書の著者の認識では“経営書”と“工学書”とが拮抗している。。なお、上記の権威者による各規格2種類の解説書は、いずれも「工学工業総記」に分類されている。
  
(5) 規格の"マネジメント"と実務の"経営管理"が別物とする誤解
  JIS和訳語「マネジメント」が規格原文「management」に基づくものである以上、その意味は英語で生活する英米人が受けとる通りの「経営管理」であるはずである。世上、例えば、マネジメントシステムの戦略的な実施とか事業プロセスとの統合などと、両規格とも2015年改訂版ではマネジメントシステムと経営との距離感が変化したと喧伝されているが、規格のJIS和訳「マネジメント」と「経営管理」が別物であるとする誤解を温存した新たな愚論である。
このページの先頭へ H28.10.15
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