ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
05 ISO9001/14001 誤った規格解釈と認証制度運用 / 権威主義と無批判・盲従
ISO9001 2015年版では品質マニュアルは品質方針書として存続
<66-01-05>
(0) 実務の視点和訳⇔JIS和訳の対応:
 
品質経営体制 ⇔ 品質マネジメントシステム;    品質経営活動品質マネジメント
 
 
(1) JACBの新規格解釈

  認証機関の集まりである日本マネジメントシステム認証機関協議会(JACB)の技術委員会はそのウェブサイトに「品質マニュアルの行方」と題する論文(H29.3.3付)を発表し、ISO9001の15年版で品質マニュアル作成の規定が無くなったことに関連して、改訂の意図と対応する審査の在り方に関する見解を発表している。
 
  すなわち、15年版では「品質マニュアル」の作成の必要はなく、その内容を「品質方針文書」として文書化することが必要となること、及び、08年版でもそうであったということが結論のようである。
 
 
(2) JACB主張の新規格解釈の論拠
  文意を読み取れない部分も少なくない長文の論文ではあるが、上記結論の論拠は概略次の通りと思われる。
 
① 08年版 4.2.2項の「品質マニュアルの作成」の規定は、そのa)~c)が“組織の品質マネジメントシステムの中で実現していることを要求しているだけ”であり、「品質マニュアル」という標題の文書を作成することは義務ではなかった。
② 15年版では、「品質マニュアルの作成」という表現の代わりに、“品質マネジメントシステムを構築させる基本を要求するという形”で、08年版4.2.2項の「品質マニュアル」の内容を“5.2の品質方針の要求規定の中で要求”している。
③ 一方、「品質方針」は元来「製品・サービスの品質方針」ではなく「品質マネジメントシステムの方針」のことであり、この「品質方針」は、15年版1章(適用)の「a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品又はサービスを一貫して提供する能力をもつこと」を実証するための手段の重要な一部として要求されている。
④ よって、規格の「品質方針」とは“内容的には08年版 4.2.2が求めていたもの”であり、「品質方針の文書化」とはこれを文書に表すことである。この「品質方針文書」を「品質マネジメントシステムの基本仕様」「品質マニュアル」或いは他の名前で呼ぶのは組織の自由である。
⑤ 規格の意図では従来から「品質マニュアル」の作成は不要で、その内容を「品質方針」として「品質方針文書」の中に表すことであったが、このことが、15年版で品質方針の内容(5.2.1 )と文書化(5.2.2 a))が同じ5.2(品質方針)に規定されたことにより明確になった。
 
 
(3) 新規格解釈の論拠の誤り
  上記①~⑤の論拠は、次の二点の新解釈に集約される。
   イ) 4.2.2項は「品質マニュアル」という名の文書の作成を求めているのではない。
   ロ) 4.2.2項a)~c)は、5.3項の品質方針の内容を表す規定である。
 
  しかし、イ)が正しくないのは次の①②の点で、また、ロ)が正しくないのは③④の点で明らかである。
 
① 「マニュアル」の英文“manual”は物事の大要をまとめて見易くした文書のことを意味する普通名詞であるが、一般用語としても経営用語としても「品質マニュアル」という言葉は存在しない。従って規格は「品質経営体制を規定する文書*1」「品質経営体制の仕様書*2」と定義し、「関連する業務を含む品質経営体制を表す文書*3」とも説明している。「品質マニュアル」とは規格特有の文書であり、08年版4.2.2 a)~c)を表す文書の規格特有の名称である。
② 同4.2.1項には品質経営体制に必要な文書として「品質方針文書」と「品質マニュアル」が独立して規定されている。
③ 「方針」は「組織の全体的な意図及び方向づけ」と定義され*4、「品質方針」は、どのような顧客満足の状態をどのように追求するのかのトップマネジメントの想いのことである。これを文書に記述したのが「品質方針文書」である。
④ この「品質方針」の実現を図るための業務実行と管理の一連の手はず、或いは、その下で品質経営活動を行なうように整えられた体制が「品質経営体制」であり、これがどのようなものかを4.2.2項a)~c)に沿って記述した文書が「品質マニュアル」である。「品質マニュアル」には「品質方針」を含むことがあり、「品質方針」の策定、徹底や文書化、「品質方針文書」の利用の手はずが含まれる。
 
 
(4) 新規格解釈の評価
  JACBは認証審査の観点からの新規格解釈であるが、「品質方針文書」と「品質マニュアル」とは内容、性格、機能が異なる異質の文書であり、認証審査における両文書の取り扱いも実態として異なっている。
 
  上記JACB主張の③のように組織は「顧客要求事項……製品・サービスを一貫して提供する能力をもつこと」でなければならず、そのためには組織の品質経営体制が規格のすべての規定を満たすものでなければならない。これを“実証”する手段として組織は、規格の規定を満たしていることがわかるような形でその品質経営体制はこのようなものであると記述した「品質マニュアル」を作成する。「品質方針文書」はどのような「顧客要求事項……製品・サービスを一貫して提供する」のかのトップマネジメントの想いを明確にするために作成する。認証審査で審査員は「品質マニュアル」に記述した組織の品質経営体制の実態を評価して、組織が「顧客要求事項……能力をもつ」かどうかを判定する。「品質方針」の審査は「品質マニュアル」に基づく審査の一部として行なわれ、「品質方針文書」に明確にされた「品質方針」の内容と取り扱いを5.3項 a)~c)に照らして評価し、それらの適切性を判定する。
 
  JACBの「品質方針文書」と従来の「品質マニュアル」が同じ内容であるとする新解釈は、規格の意図や論理を無視し及び誤って、規定や用語の文字面を繋ぎ合わせた論拠に基づいて導きだした珍妙で誤った解釈である。
 
 
(5) 権威に伴う責任
  この論文の発表会では出席の認証審査員から何の疑問や反論も出なかったと論文に付記されている。プロの審査員の規格理解力として情けない話ではあるが、それはさておき、認証機関がその権威を以てこの新規格解釈の受け入れを組織に強制するのなら、「品質マニュアル」の記述に係わる是正指摘など新規格解釈に照らして間違いであったこれまでの審査指摘に対する責任を明確にしなければならないのではないだろうか。
 
 

*1: ISO9000:2006 3.7.4
*2: ISO9000:2015 3.8.8
*3: ISO9000:2015 3.8.6注記2
*4: ISO9000:2015 3.5.8
*5:品質マニュアルの行方、 JACB品質技術委員会、2017年3月3日
     http://www.jacb.jp/assets/files/pdf/seminar/hinsitsu manual.pdf 
H29.8.8 
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サニーヒルズ コンサルタント事務所