ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
13 悲惨な交通事故は高齢者から免許を取り上げることで無くなるのか <91-01-13>
< 要旨 >
  5/19日の池袋での87才の男性による3才の女児と母親を巻き込む悲惨な事故を契機に、テレビでも高齢者による事故急増と対策としての運転免許更新の厳格化に関する議論が盛り上がっている。「死亡事故が減り続ける中で高齢者による事故だけが増えている」と識者の引用する統計データから、高齢者に運転させなければ事故は起きないかの話に花が咲く。
 
  ISO9001では、問題と対策を検討する際には得られた情報、データを分析する必要がある(9.1.3項)。警察庁の交通死亡事故統計には上記識者の引用する図表があるが、H30年のみが対前年増であり、その原因の分析はなく、統計自体が子供を巻き込んだ事故に限定されたものでもなく、一方で9才以下の子供の死者数は前年並みという統計もある。
 
  また、70才以上の高齢者の事故率は20〜60才の熟年層に比べて3〜4倍も高いが、事故数では全体の23%であり、80才以上は9%に過ぎない。死亡事故の58%は熟年層が起こしている。高齢者の免許証を全部取り上げても事故総数は最大で23%減るだけだし、熟年層は悲惨な事故を起こしていないというデータはないから、悲惨な事故がどれほど減るのか予測できない。
 
  さらに、死亡事故の犠牲者は高齢者が27%を占める。事故総数を減らすために事故率の高い高齢者に運転させないというのなら、熟年層の事故の原因とならないように高齢者を家に閉じこめなければならない。社会の有形無形の仕組みで保護されている15才以下の事故による死者数は総数のわずか1%である。高齢者のための同趣旨の社会的仕組みを整備すれば死亡事故総数が25%も減る。国策として死亡事故防止の安全装置の取付けを支援することも可能だ。テレビで高齢者から免許証を取り上げろと叫ぶ人々もやがて高齢者となる。
 
  「分析」とは、複雑に絡み合った物事の真実の姿或いは本質を明らかにする作業であり、問題解決の処置の有効性は「分析」の視点と範囲に依存する。ISO9001の「分析」は効果的な品質経営のための必要条件である。
 
 
< 本文 >
1. 子供を巻き込んだ悲惨な交通事故
  4/19日の東京の池袋での87才の男性の暴走による、3才の女児と母親が死亡、7人が重軽傷という悲惨な事故を契機に、テレビでは高齢者による事故急増と対策としての運転免許更新の厳格化に関する議論が盛り上がっている。「この10年の間死亡事故は減り続けているが、高齢者による事故だけが増加している」と識者が引用した統計データが、番組の出演者に池袋事故の背景と受け止められ、高齢者に運転させなければ悲惨な事故は起きないと言わんばかりの話に花が咲く。
 
2. ISO9001の「監視、測定、分析、評価」
  ISO9001では、経営管理のPDCAサイクルにおける業務実行(D)の実績や実態の点検(C)は「監視、測定、分析、評価」の4段階の活動で構成されなければならない。「監視、測定」は実績や実態がどうであるかのデータを取得することであり、これは、あれが増えた/減った、これが向上した/悪化したというような生データであり、次にこれら種々の生データを「分析」し、分析データを「評価」して何が問題かを究明し、どう対処すべきかの処置(A)を決めることが必要である。分析データを評価して初めて物事の本質、事実、真の姿を探し出すことができる。
 
3. 警察庁 交通死亡事故統計
  警察庁が2/14に発表したH30年交通死亡事故統計によると、H30年の全国の死亡事故は事故率、事故数共に10年間連続で対前年比で減少しているが、運転手の年齢別に見ると70才以上の高齢者のみが増加している。上記識者が引用したのは、このような生データである。
 
  しかし、高齢者の事故率も他の年齢層と同様に過去9年間減少を続ける中の、そして、事故数は他の年齢層と違って毎年増加しH27年から頭打ちになった状況の中での、それぞれH30年のみの増加である。この増加の原因は分析されていないから、単なる統計的変動の可能性もある。子供を巻き込んだ悲惨な事故に限定して高齢者の運転と関連づけたデータはないし、統計では事故による子供の死者数は9才以下に限れば前年並みである。これだけのデータで高齢者による池袋同様の事故が急増或いは急増の兆しがあると判断するのは早計であると言わざるを得ないし、池袋の事故が最近急増する高齢者による悲惨な事故のひとつであり、高齢者の運転を制限することで悲惨な事故を防止できると結論づけるのは誤りである。
 
4. 分析の視点により異なる問題対応処置
  例えば同じ事故統計によると、70才以上の高齢者の事故率は20〜60才の熟年層に比べて3〜4倍も高いが、事故数では全体の23%であり、メディアが目の仇にする80才以上の高齢者による事故数は9%に過ぎない。死亡事故の58%は熟年層が起こしている。高齢者の高い事故率が事故総数を高めているとの認識で議論が行なわれているとすれば、それは間違いである。高齢者の免許証を全部取り上げても事故総数は最大で23%減るだけだし、熟年層運転手は悲惨な事故を起こしていないというデータはないから、悲惨な事故がどれほど減るのかは予測できない。
 
  別の統計データによると死亡事故の犠牲者は高齢者が27%を占める。要するに、高齢者は死亡事故の1/4に加害者として、1/4に被害者として係わっている。事故総数を減らすために事故率の高い高齢者に運転させないというのなら、熟年層の事故の原因とならないように高齢者は家に閉じこもらなければならない。
 
  15才以下の事故による死者数は総数のわずか1%であり、これが親による保護、集団登校や見守り活動など日常生活における事故防止のための社会の有形無形の仕組みの効果であるとするなら、高齢者にも同様の仕組みを整備すれば高齢者の被害事故の減少で死亡事故総数が25%も減る。事故総数を23%減らすために、高齢者を無能者扱いして免許証を取り上げるよりはよほど健全である。
 
  運転の禁止は高齢者の生活を不便にし、活動範囲を狭めて寝たきり生活や認知症に追い込むことになる。テレビで高齢者から免許証を取り上げろと叫ぶ人々もやがて高齢者となる。アクセル・ブレーキ踏み間違い防止など高齢者に多い死亡事故防止に特化した低価格の安全装置を国策として開発し既存車への適用を支援する施策をとることは、自動運転の夢より技術的、経済的に実現可能性が高い。池袋事故の対策は高齢化社会における自動車はどうあるべきかの議論の中でこそ適切な答を見出すことができる。
 
5. ISO9001の「分析」の意義
  ISO9001の「分析」とは、複雑に絡み合った物事の真実の姿或いは本質を明らかにするために、その成分、要素、側面に分解し、相互関係を明らかにする作業を意味する。効果的な問題解決には関連する様々な情報、データを様々な角度で「分析」した結果を「評価」しなければならない。「分析」は、実績や実態のデータから正しい問題点を見出し、問題解決の効果的な処置を導くことができるよう意図された規定であり、効果的な品質経営のための必要条件である。
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サニーヒルズ コンサルタント事務所